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いにしえ日記  作者: 歩野
4/7

その4

四月三日

 歩野は、東京に星空が無いといふ。

 智恵子抄のパクリです。

 東京で会った人で、流れ星を見たことがないという人がいた。

 東京は星自体が少ししか見えないから、無理もないのだけれど。

「高校の時に、一晩で流れ星を五十以上見た」と言っても、全然信じてくれなかった。

 流星群でもないのに、本当に見れたんだよ。

 その日は親しい友達と、夜の八時頃からロングチェアに横たわって、星空を眺めながら語り合っていたんだけど、あまりにも流れ星が多いから、途中から数え始めたら、明け方までに六十ぐらいのカウントになった。

 ビールはちょっとしか飲んでなかったから、酔ってはいなかったよ。それぞれにカウントしたんだけど、誤差は二、三しかなかった。

 レベッカの歌で「76th Star」って曲があったから、七十六見たかったのだけど、「七十六は無理だったな」と言って、笑ったのを覚えている。

 あの頃は女がいなくても、取りとめのない話で明け方まで時間が潰せたものだ。

 海岸沿いの道路の真ん中でロングチェアに横たわっていたから、翌朝、車のクラクションで起こされた。

 今でもあの夏の日々は忘れられない。



四月五日

 口が軽いのは良くない。あまり知らない人の事なら構わないのだけど、よく知っている人の別れ話なんてベラベラ喋るもんじゃない。気分悪いよ。    

 今月の標語は、「尻は軽くても口は堅く」です。


 無駄な事に労力を要するのが嫌いである。後輩のミスで残業する羽目になっても、後輩が必要ないと判断したら帰していた。付き合い残業など、時間の無駄以外の何物でもない。

 レベルが違うのだけど、きれいな芝生の掃き掃除をするのが嫌いである。きれいなものを掃除する必要はない。しかし仕事上掃除しなければならない。なので、なにがなんでもゴミを出してやろうとおもいっきり熊手を振り回す。芝を引っ掻いてでもゴミにしてやる、という勢いで。あたかも一掃き毎に、

「マザー・ファッカー!」「サノヴァヴィッチ!」

 と叫んでいるかのように。

 空振りした時には熊手が吹っ飛んでいく。おかげで手にマメが四つ出来て、全部潰した。おまけに熊手もぶっ壊れていく。

 はい、しっかり社長に注意されました。



四月六日

 朝、小学校の入学式に多数参加するよう、マイク放送していた。

 いやあ、田舎だね。

 今年の入学者は二人だとさ。すごいね、俺の住んでいるところは。

 全校生徒で二十人足らずって誰かが言ってたな。

 もちろん複式学級である。

 複式学級ってわかるかな? 同じ教室で前と後ろの黒板を使って二学年が一緒に授業する事。

 そういう授業ってどんな感じなんだろ。

 俺は経験がないんだよ。なんせ大人数の学年に生まれたものだから。

 同級生が十八人もいた。(おもいっきり少ないって)

 でも小学校も中学校も個性的な友達に恵まれたよ。

 社会に出てから、久しぶりに会った中学時代の友達に、

「うちの中学は変わった奴ばっかりだったな」

 って言ったら、

「おまえが一番変わっていたよ」

 と言われてしまった。  

 そんなはずはないんだけどな。



四月七日

 役場に友達がいるので顔を出してきた。

「どこか町営住宅空いてないか」

「あると思うけど、どこがいい」

「赤〇〇」

「そりゃ隣町だろ」

「無理か」

「無理だよ」

「じゃあ市内に近い方で探しといて。

 話が変わるけど、昨日、役場からカネよこせって何かきてたよ」

「国民年金だろ」

「あっ、お前がよこしたのか。俺の人生に老後はないって言ってるだろ。人を苦しませようとしやがって」

「なに言ってるんだよ。お前は俺のおかげで……」

「――そうでした。ありがとうございます」

「これからどこか行くの」

「おう、NTTと対決してくるよ」

「何があったんだよ」

「俺に黙って、勝手に電話を止めやがった」

「 …… (笑)」

「ちょっと、いってくらぁ」

 役場を出てNTTに向かい、その後、海水浴を楽しんできた。

   ― 5時間後 ―

「どうだった」

「やつら諭吉を見たらひれ伏しやがった。おまけに漱石を返す有様。日本一でかい企業があんな腰抜けじゃ日本の将来も心配になるよ」

 はいはい、俺はお子様ですよ。義務を果たした者だけが権利を主張できる、なんて文句言わんといて下さい。



四月八日

 今日、すごい鼻毛が取れたんだよ。

 よくもまあ、これまで捕まらずに生き延びてきたなって感心するぐらいの大物が。

 いったい何を食ったらあんなに大きくなるんだろう。

 みんなに見せてやりたかったよ。



四月九日

 きっと、社内恋愛が出来る人って器用なんだろうな。

 俺はそんな器用なまねは出来ない。仕事とプライベートをきっちり分けないと駄目なタイプ。

 最初に別れた時の事を考えてしまうから、どうしても敬遠してしまう。ましてや不倫など論外。

 まあ不倫に関しては仕事に関係なくやらないようにしているけどね。

 意識が過剰なんだろうな。仕事にも、結婚にも。

 結婚は相手の人生を背負い込む事、なんて思っているしね。

 てめえ一人でも持て余しているのに、そんな余裕なんかどこにもないよ。

 と言っても、結婚に関してはこっちの思惑とは関係のない結果が出たりするんだけど。

 たまに、すっとこどっこいが、「あの女はあいつと結婚するより他の男と結婚したほうが幸せになる」なんて抜かしやがるけど、まったくナンセンスな話だよ。ようは本人が幸せに感じるかどうかって問題だからね。

 はたから見たら幸せに見えたり、不幸に見えたりしても、実際はそうじゃない事だってままある訳だし。

 だから、「幸せにしてやる」なんて言葉も滑稽に感じてしまう。その心意気は買うけどさ。

 人生に勝つ、なんて野郎も同じ。人生が終わった時に、満足して死ねるかどうかって事でしょ。他人の評価なんて全く関係ないし、財産の有無も意味がない。

 人間は満足したら進歩がなくなるって言うけど、「知足」も大事。

 知足 ― 仏教用語で、自分が満たされた人間である事を認識する事。

 自慢だけど、C大学の仏教の論文で評価Aを取った事があるぞ。

 大学なんぞ通った事もないけれど。

 地元でも評判の三流馬鹿高校出身だぜい、イエイ。

 って、わけわかんねえや。



四月十日

 給料日。でも買いたい物があるわけじゃないし、どうすっかなあって感じ。

 ソープにでも行って、パーっとカネを遣ってやろうか、と思っても、この島にソープなんかないしね。

 一番近いソープランドに行っても、ソープの代金より交通費のほうが高くつく。

 なんて辺鄙(へんぴ)な所に住んでいるんだ。

 人類最古の商売がないなんておかしいぞ、この島は。

 って、あるわけないよな。

 あったところで、店に行く奴はバレバレだし、ソープ嬢もバレバレ。みんなバレバレ。後ろ指をさされるよ。苦労して行く程の価値もないしね。


 売春のジョークで、こんなのがあったな。

「人類で最も古い商売と二番目に古い商売はよく似ている。一番古いのが売春で二番目に古いのが政治家だ」

 こんな事を書いたら売春婦に対して失礼だな。お詫びを申し上げます。

 ソープといえば、過去に出会った大手企業に勤める馬鹿野郎がこんな事をぬかしやがった。

「ソープランドは売春行為だ。そこに行った事のある歩野さんは犯罪者だ」

 あまりの下らなさに反論する気も失せたが、ちょっとばかし相手してやった記憶がある。


 いい年をした大人の男女が合意の上でセックスして何が悪いんだ

 オスにはコーマンするっていう抗し難い本能があるんだよ

 ソープのような所がないと、不倫だとか、女を騙すようなセックス目的の交際が多くなるよ

 ソープランドは健全な社会を保つための必要悪なんだよ

 警察だってそれが解ってるから検挙しないんじゃないか

 警察が踏み込むのはボッタクリの店か、不法居住者や未成年者を雇っている店だけだろ

 法律で売春を禁じるのは、街角に売春婦が立ち並ぶのを阻止するためなんだよ

 公共の秩序を保つためにも、それは必要なんだよ

 それに、たちんぼは自分で客を選べるけど、ソープ嬢は選べない。嫌いなタイプの相手と肉体関係を持たなければならない。

 そういう辛さのうえに彼女達はサービスしているんだから、闇雲に文句を言うもんじゃないよ。彼女達だって大変なんだから。


 べつにそれは、過去にソープのおねえちゃんに飲みに連れていって貰って、飯代、飲み代、お小遣いを奢ってもらったから弁護しているわけじゃない。

 大変なんだよ。殆どの人が体を悪くしてマッサージや針治療に通っている。

 実際マッサージをすると、普通の人がなんでもない所が凝っていたりする。

 カネのために簡単に魂を売る政治家より、体は売っても魂を売らない風俗嬢のほうがよっぽどいいと思うけどね。

 まっ、どっちもどっちか。目糞鼻糞の世界だね。

 いや、冗談です。風俗嬢のほうが偉いです。

 だから風俗のおねえちゃん、この島に遊びにきて、サービスして下さい(笑)




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