本編 ◇ビート その2
手に着けていた手袋を外すと寒い空気が暖めていた僕の両手を冷やす。
靴を履き替えるために下駄箱へと向かう。その時、僕は妙なことに気が付いた。
「……静かだな」
この時間なら大体数人くらい僕と同じ時間体に来る生徒がいてもおかしくないはずだ。
首を傾げつつ上靴に履き替えようとすると靴入れの中に手紙のようなものが入ってあるのがわかった。
「これはまさかラブレターなるもの!? いや……違うな」
取り出してみるが数枚の真っ白な紙には筆後すらない。不思議に思いながら裏を見ると一言だけ文字が書かれていた。
「夢喰らう者に気を付けろ……?」
書かれていた文字を読むと何故かその紙は僕がまばたきをした瞬間に消えた。
「え、あれ? どこへ行ったんだろう」
辺りを見渡すがどこにも無い。
「まぁ、いいや」
気を取り直して教室へと向かおうとする。その時、どこからか声がしたような気がした。
「…ユ…レ」
「? 気のせいか」
少し進み教室のドアの前に立つ。勢い良くドアを開けると中にはカイインとトゥリがいた。
「おっす、ビート」
「あら、ビートおはよう」
二人が笑顔で挨拶をしてくる。しかしこの二人以外には教室に誰もいないようだ。
「あれ、二人だけなの?」
「ああ、何でか知らんがチャイムが鳴ってもひとっこ一人こねぇ」
カインが曇ったメガネをふきながら僕に言う。
そして自分の席で頬杖をついて座っているトゥリがさらに言う。
「私がここへ来る途中は他の生徒がいたんだけど……どうやら先生達もいない見たいね」
「どうして分かるの?」
僕が聞くとトゥリは教室の窓の中庭側に指を指し僕の方を向いて答える。
「私の席からは向かいの校舎の一階、職員室が見えるわ。よく目を凝らしてみると先生達の出席表みたいなのがあるのよ、それには何も書かれていない。つまり、この学校には誰もいないということよ。……多分ね」
どうやらいつも冷静なトゥリでも少し混乱しているようで机に人差し指の先を何度も軽く打ちつけていた。
「……おい、ビート。ランはどうした?」
「えっと、ランなら何時ものとうりランニングしてたけど……それがどうかしたの?」
「いや、あいつのことだからお前に朝会ったんなら速攻で学校に来るだろうと思ってな」
そう言うとカインは腕を組み近くにある机に座るとさらに僕に言った。
「もしかしたら、の話だ。ランは一旦家に帰り学校に行く準備をしてからビート、お前を追いかける。だがランの走るのが速いよな? 多分、あいつは本気で走りすぎて先に学校についてしまったんだ。昔からビートは歩くのが遅いしな。んで、あいつが学校についた時はまだ人がいたと思うんだ。言ってもここの生徒、先生は時間にルーズだしまだあまり人は来ていないことになる。そして、俺達が来る僅かな間にこの異変が起こったってわけなんだが……」
カインは早口にまとめるが納得のいかない顔をして手を顎に当てて言う。
「でも、この短時間に人がいなくなるなんて考えられんよなぁ……。それこそ超能力とか、幼稚的だが宇宙人でもないかぎり無理だろうし……」
さらに考えこむカインを見てトゥリが無表情で言う
「カイン、よくそんな喋れるわね……、猿みたいね」
「うるせーよ、お前が無口なだけだ」