トゥリその1
平和な朝の時間。一組の家族が自宅で朝食をとっていた。
娘と思われる少女は目の前にある真っ白なケーキを頬張りながら少女は目の前にいる男性に表情を変えずに言った。
「美味しい……」
すると男性は拳を作りガッツポーズを嬉しそうにした。
「やったあぁぁぁぁぁ! 母さん! 我が娘が私の作ったケーキを美味しいと言ってくれたぞ! 今夜はパーティーだ!」
男性は叫び席を立ち近くのソファーにゆったりと座っている女性に言う。
女性は笑いながら男性の作ったケーキを少しもらう。
「あら、本当に美味しいわ……」
「パパの料理、とても上手くなってるねママ」
少女は母親と共に微笑みながら父親を褒める。父親は少し照れながら頭を掻いた。
「うん、有り難う二人共……パパは嬉しいよ」
「っていけない今日は会社で重要な会議があるんだった。それじゃ私はもう行くから……後、今日は早く帰れると思うよ」
男性は着ていたスーツを整えると鞄を持ち玄関へと向かって行った。すると、男性の妻が駆け寄り優しく微笑み言った。
「行ってらっしゃい。お父さん」
「ああ、行ってくるよ」
それを見ていた少女が何かを思い出したかのようにして席を立つと大急ぎで自分の部屋へと向かって行った。
少女は自分の部屋に戻ると学校の制服を掴むと急いで着替え父親と同じく鞄を持って玄関へと向かった。
「ママ、私もう行くね! 今日カインに呼ばれてたの忘れてた」
「あらあらじゃあ早く行ってあげなさい」
「まさかカイン君とあんなことやことんなことを……」
「違うから、あの人はお兄ちゃんみたいなものだから」
玄関で騒ぐのはこの家族の日常的風景であった。
少女は玄関を開け空を見上げる。足元に白い何かが落ちて来た。それは雪であった。
「珍しいこの町に雪が降るなんて……」
「積もるといいな、トゥリ」
隣で同じく空を見上げていた父親にトゥリと呼ばれた少女は答える。
「まぁいいや。パパ、ママ、行ってくるね」
「私も早く行かないと」
二人を優しく見ていた母親が言う。
「二人共行ってらっしゃい」
走り出す父親とトゥリ。それを迎えるかのように雪はしんしん、と降り続けていた。