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クビ宣告


「このアバズレ女が!!」


 アイリスは主人のボースハフト男爵に頬を思いきり叩かれた。頬が熱を持ってようやく叩かれたのだと思考が追いつく。


 怒りで顔を赤くした男爵がつばを吐き捨てる勢いでアイリスにまくし立てる。


「メイドの分際で家の跡取りに手を出すなど……!

恥を知れ!!」

「とても許されたことではありませんよ!」


 夫人も怒り心頭で、男爵とともにアイリスをにらみつけている。男爵夫妻の背後では元凶のドラ息子・リューゲがニヤニヤと笑っている


 アイリスは弁明しようと口を開けたが、男爵夫妻が激しく言い立てる。もうこうなっては何を言っても無駄であると悟る。


「お前はもうクビだ! この屋敷からとっとと出ていけ!」

「二度と顔を見せないでちょうだい!」

「……お世話になりました」


 アイリスは夫妻に頭を下げて、足早にその場を立ち去る。そのまま住み込み部屋に直行し、荷物をまとめる。アイリスが数少ない私物をボロボロのトランクに詰めていると、部屋に入ってきた同僚のメイドが話しかけてくる。


「アイリス、本当に辞めちゃうの?」

「はい。こうなってはここにはいられませんから……」


 涙目になったメイドが「元気でね」と言ってアイリスの手をぎゅっと握った。


 屋敷を後にするべくアイリスが裏門から外に出ようとすると、そこには男爵夫妻の一人息子・リューゲが立っていた。


「リューゲ様」


 アイリスはリューゲが苦手である。リューゲがニヤついた笑みでアイリスに話しかける。


「アイリス、もう意地を張るはよせって」

「はい?」

「本当はこの屋敷で働きたいんだろ? お前が俺の専属になってくれたら……そうだな。俺がお前をクビにしないよう父上と母上に頼んでやってもーー」

「いえ、結構です」

「なっーー」


 アイリスはきっぱりとその申し出を断った。断られると思っていなかったのか、リューゲは呆気にとられている。


「お世話になりましたっ」


 アイリスが最後にそう言って背を向ける。背後から痛いほどの視線が向けられているような気がするが、アイリスは急ぎ足で裏門をくぐり抜けたのだった。






『終点・王都、王都〜。お忘れ物がないように下車してください』


 職を失ったアイリスが王都行きの寝台列車に乗りこんだのは屋敷を飛び出してからすぐのことだった。


 無事に寝台列車〝号〟が王都に到着し、大勢の人たちが列車から降りてくる。アイリスもその中の一人で、人波に流されながらも改札を目指す。


「(思わず王都行きの列車に飛び乗ってみたはいいものの……これからどうしようか……)」


 アイリスはあの街に居続けることはできないと判断した。あのような理由で解雇されてしまったし、あの夫妻とドラ息子のことだ。


 アイリスは駅に着くやいなや手持ちの路銀を数えて列車の切符を買った。王都は人が多いし、働き口も地方よりかはあるだろうと考えてのことだった。


「お腹すいたな……」


 アイリスの腹の虫が鳴る。さすがに固いパン一つだけではどうにも腹は膨れなかった。


 アイリスは駅を出てカフェを探す。王都なだけあって、すぐにカフェは見つかったが金額が全くもって可愛くなかった。


「(さすが王都ね)」


 何件か探してようやくアイリスのお眼鏡にかなうカフェを見つけた。


「お待たせしました。コーヒーと野菜のサンドイッチです」

「ありがとうございます」


 アイリスは店員に会釈をして、サンドイッチを頬張る。シャキシャキとした野菜と特製ソースに舌鼓したあと、食後のコーヒーを飲みながら王都の地図を見ていた。






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