第5話:小さな奇跡
洞窟の奥深く、湿った空気が肌にまとわりつく。
ライト・エルヴァインとアリス・ヴァレンティナは、狭い通路で立ち止まった。
迷子になったらしい。壁に手をつき、息を整える二人。
「……ここ、どっちに行けば……」
アリスの声には不安が混ざる。暗闇の奥に、何が潜んでいるか
わからない。ライトも地図は持っていない。
孤独な戦いは、彼らに緊張を強いる。
そのとき、遠くで低いうなり声が響く。
振り返ると、巨大な甲殻を持つモンスターが二人に迫っていた。
鋭い触角を振り回し、地面を叩きつけ、石が飛ぶ。
Fランクの二人には到底多すぎる相手だ。
「うわっ……!」
アリスは後ずさり、剣を握りしめる。だが攻撃は届かない。
ライトは冷静に構える。体が自然に最善の動きを選ぶ――
無意識に、絶対回避の力が働いていた。
触角が襲う。ライトはひらりと身を翻す。
触れられそうな距離でも、攻撃はすべて空を切る。
小石が飛び、岩が崩れる。だが体は無傷のまま。
無自覚の力が、危険を完璧に回避していた。
アリスが剣を振るう。未熟ながらも勇敢な一撃。
モンスターの甲殻に弾かれるが、ライトの動きが絶妙な
隙間を作る。偶然にも、アリスの一撃が弱点に命中する。
咆哮と共にモンスターが揺れ、倒れた。
「ライト……本当に、すごい……」
アリスは息を切らしながら肩で息をする。
「何で……当たらないの……?」
目の前の少年は、まだ自分でも理由がわからない。
ただ体が勝手に動いただけだ。
洞窟の奥には、まだ多くの脅威が潜んでいる。
だが二人は息を合わせ、再び歩を進める。
ライトの無自覚スキルが盾となり、アリスの勇気が剣となる。
「ありがとう、ライト。助かった……」
小さな声が、静寂の中で響く。
ライトはうなずく。まだ力の正体は知らない。
だが、確かに自分は誰かを守れた――その事実だけは理解していた。
洞窟の奥深く、二人の足音が静かに響く。
無自覚の奇跡は、友情と信頼を紡ぎ、二人を守り続ける。
この小さな勝利が、やがて冒険の物語を大きく動かす――
未来への一歩となることを、まだ誰も知らない。
闇の中、松明の火が揺れる。
二人の影も揺れる。だが、その揺れの先に、希望の光がある。
未知なる冒険は、ここからさらに深く、激しく展開していくのだ。




