第3話:ダンジョン初陣
森の奥に、小さな洞窟が口を開けていた。
ライト・エルヴァインは慎重にその入口に足を踏み入れる。
湿った空気が肌にまとわりつき、冷たい風が頬を打つ。
石壁に囲まれた暗闇が、初めての挑戦への緊張感を増幅させた。
「……ここが、初めてのダンジョンか」
松明の光がわずかに周囲を照らす。足元の石が滑り、
小さな音を立てる。暗闇の奥で、低いうなり声が響いた。
ライトの胸が高鳴る。心臓の鼓動に合わせ、全身の感覚が
鋭くなる。孤独な戦いが、いま始まろうとしていた。
暗がりから、巨大なスライムが姿を現す。
体は半透明で光を反射し、内部で何かがうごめいている。
目は青白く光り、明らかに獰猛だ。獣の匂いが漂い、
湿った洞窟の空気を震わせる。
「くっ……!」
ライトは咄嗟に後退する――つもりだった。
だが、体は勝手に動き、攻撃をすべてかわす。触手が
腕に当たる寸前で、ひらりとかわす。
「……避けてる……?」
小さな違和感が胸に芽生える。だが、理由はわからない。
ただ体が反応しているだけだ。無自覚の力が、静かに働く。
スライムの触手が四方から襲う。ライトは後ろに飛び、
ひねり、体を小さく回す。空間のすべてを計算したように
攻撃は空を切る。まるで、時間が自分に味方しているかのようだ。
小石が飛び、地面が崩れる。ライトは自然にそれを避け、
無意識に距離を保つ。目の前で触手が地面を叩きつけ、
水しぶきが飛び散る。全身に緊張が走るが、傷はない。
――無自覚の奇跡。
体が勝手に最善の動きを選び、危険を避ける。
本人はまだ、それが「スキル」であることを知らない。
ライトは松明を振るい、偶然にもスライムの弱点に
岩を投げつける。鈍い音が洞窟に響き、スライムが揺れる。
そのまま崩れ落ち、濁った水の中に沈んでいった。
息を切らし、ライトは立ち尽くす。体は疲れていない。
心の中に湧く達成感と、小さな驚き。
「……俺、やったのか?」
問いかけるが、答えは体の動きがすべてを語っていた。
洞窟の奥はまだ暗く、未知の脅威が潜む。
だが、ライトは一歩ずつ歩を進める。松明の光が揺れ、
湿った空気が漂う。無自覚の力が、彼を守りながら前に
進ませている――静かなる無敵の力。
外界ではまだ、誰も知らない奇跡。
だが、この初陣が、ライト・エルヴァインの未来を変え、
冒険の序章を刻むことになる――無自覚のまま。




