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第1話:追放者の再出発


ライザルトの街外れ、冷たい雨が石畳を叩く。

ライト・エルヴァインは重い足取りで歩いていた。

銀色の髪が雨に濡れ、肩に貼りつく。胸の奥には

追放された日の言葉が、深く突き刺さっていた。


「使えない……か」

頭の中で、かつて仲間と呼んだ者たちの声が反響する。

冷たい刃のような言葉。心に残った棘が、今日も痛む。


パーティを追放された瞬間、世界が止まったように感じた。

振り返ると、遠くで揺れる旗が見える。もう自分の居場所は

そこにはない。胸の奥で、孤独が重くのしかかる。


「……仕方ない、行くしかない」

拳を握りしめ、雨に濡れた石畳を歩く。足元が滑るが、

体は自然にバランスを取る。無意識に働く何かが、

ライトを守っているようだった。


その時、背後で小石が飛んできた。避けるつもりはなかった。

だがライトはひらりと体をひねり、石を空中でかわす。

――偶然か、それとも力か。まだ本人にはわからない。


町の外れの橋に差し掛かる。雨で増水した川の音が耳に響く。

静かに深呼吸すると、橋の向こうから不穏な気配が迫った。

暗い雲のような影――野生の獣が牙をむき、跳びかかる。


「……っ!」

ライトは反射的に身をひねる。足も腕も頭も、自然に最適な

動きを選ぶ。攻撃はことごとく空を切る。獣は怒りの咆哮を上げ、

岩を蹴散らし、牙をむく。


だが、ライトは一切傷つかない。まるで、体が勝手に敵の

動きを読んでいるかのようだった。

「……避けた……?」

小さな違和感を覚えるが、理由はわからない。無自覚なまま、

体は最善の動きを選ぶ。


通りの人々が驚きの声をあげる。水たまりを蹴散らし、

獣は再び飛びかかる。しかしライトは自然に距離を取り、

木の柱の陰に滑り込む。攻撃はすべて空を切った。


やがて、ライトの無意識の反撃が、偶然にも獣の弱点を捉える。

咆哮と共に獣は倒れ、濁った水に体を沈めた。

周囲の人々は息を呑み、ライトを見つめる。


「……すごい……」

誰も知らぬ奇跡が、静かに起きていた。

ライト自身も、まだこの力の意味を理解していない。


雨に濡れた町に、少年は歩みを再開する。

向かう先は、隣町フォルケン。そこには新しい冒険者ギルドがある。

小さな希望が胸に芽生え、雨粒が肩を打つ。


ギルドの扉を押すと、木の香りが鼻をくすぐる。中は賑やかで、

依頼の掲示板には新しい仕事が張り出されていた。

冒険者たちは笑い声やため息を交え、今日も戦いの準備をしている。


「いらっしゃいませ!」

明るい声に振り向くと、ギルド職員の女性が立っていた。

栗色の長い髪、笑顔がよく似合う。メイラ・サンフォードだ。


「えっと、新規登録の……?」

銀髪の少年、鋭い青い瞳――普通とは違う雰囲気に

メイラは少し困惑する。


「こちらに座って、書類を記入してください」

手際よく資料を渡すメイラ。ライトは黙ってペンを取り、

必要事項を書き込む。言葉よりも行動が早い少年だった。


その瞬間、窓の外から羽音が響いた。

ギルド前に、巨大な鳥のようなモンスターが飛来する。

通りの冒険者たちは慌てて避ける。


だがライトは一歩下がるだけで避ける。体が自然に動き、

攻撃をことごとくかわす。メイラは目を見開く。

「え……今の……普通じゃない……」


ライトは書類を書き続ける。理由はわからない。ただ体が

勝手に動いただけだ。知らぬ間に、危険を回避する力が発動していた。


書類を終えたメイラは微笑む。

「フォルケン冒険者ギルドへようこそ、ライト・エルヴァイン」

「今日から、あなたもここで新しい冒険を始めるのね」


ライトは小さくうなずく。自分の力の意味はわからない。

だが、確かに未来へ進む一歩を踏み出したことだけは

感じていた。雨に濡れた町に、静かに奇跡の影が落ちていた。


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