血染めの復讐者
三年前、神崎シンは死んだ——はずだった。
東京裏社会を牛耳る「黒龍会」の幹部として働いていた神崎は、若頭・竜崎タケルの裏切りにより、妻のユリと五歳の娘アヤを殺された。三発の銃弾を受け、海に沈められた神崎。だが、彼は奇跡的に生き延びた。復讐のために。
元傭兵マイク、元スパイのリン、武器商人ヴィクター——三人の協力者と共に、神崎は三年間、殺人マシンとしての訓練を積んだ。そして今夜、彼は東京に戻ってきた。竜崎と黒龍会幹部七人全員を殺すために。
最初のターゲットは、妻を殺した男・佐藤ケンジ。グレネード、銃撃、白兵戦——容赦ない殺戮が始まる。だが、黒龍会も神崎の帰還を予期していた。ナンバー2の山本ヒロシが、十数名の武装集団と共に立ちはだかる。日本刀での一騎討ち。血と火花が飛び散る死闘の末、神崎は山本から決定的な情報を得る——「お前の娘を殺したのは、竜崎が直接やった」
怒りに燃える神崎は、次々と幹部を抹殺していく。高級クラブ「INFERNO」での三人同時暗殺。三十人以上のヤクザを相手に繰り広げられる銃撃戦と格闘戦。死体の山を築きながら、神崎は確実に竜崎へと近づいていく。
そして、最終決戦の舞台は黒龍会本部ビル。百人以上の敵が待ち受ける三十階建ての要塞。全身傷だらけ、弾薬も尽きかけた状態で、神崎は単身突入する。爆発、銃撃、肉弾戦——文字通り血の海と化す本部ビル。
最上階で待つ竜崎タケル。かつて尊敬していた男との、最後の対決。相討ち覚悟のグレネード投擲。爆発の中、神崎は最後のナイフを竜崎の心臓に突き立てる。復讐は完遂された——だが、神崎自身も瀕死の重傷を負う。
奇跡的に一命を取り留めた神崎。警察の追跡を逃れ、彼が選んだのは海辺の小さな町での静かな生活だった。血染めの復讐者は死に、一人の男が生まれる。過去に縛られながらも、前を向いて生きる——それが、神崎シンの新たな物語の始まりだった。
圧倒的暴力描写と緻密なアクションシーン。復讐の果てに見つけた、再生への道。
第一章 地獄からの帰還
銃声が、夜の闇を切り裂いた。
俺——神崎シンは、コンクリートの壁に身を隠し、マガジンを確認した。
残弾、五発。
「クソッ」
足りない。敵は、まだ十人以上いる。
だが、引き返すつもりはなかった。
三年前、俺は殺された。
いや、正確には殺されかけた。
東京の裏社会を牛耳る「黒龍会」——その若頭、竜崎タケルの裏切りによって。
俺は、黒龍会の幹部だった。
竜崎の右腕として、汚い仕事を一手に引き受けていた。
だが、ある日、竜崎は俺を嵌めた。
警察への密告者として仕立て上げ、組織から追放しようとした。
そして、俺と俺の家族を——妻のユリと、五歳の娘のアヤを——殺した。
俺は、奇跡的に生き延びた。
三発の銃弾を受けながら、海に沈められながら、俺は這い上がった。
復讐のために。
三年間、俺は地獄で訓練を積んだ。
元傭兵のマイク、元スパイのリン、そして武器商人のヴィクター——
彼らが、俺を殺人マシンに仕立て上げた。
そして今夜、俺は戻ってきた。
竜崎と、黒龍会の幹部全員を殺すために。
「神崎、応答しろ!」
インカムから、リンの声が聞こえた。
「状況は?」
「最悪だ。敵は予想以上に多い」
俺は、壁の向こうを確認した。
黒龍会の下っ端ヤクザたちが、自動小銃を構えている。
「第二の侵入ルートを使え」
「時間がない。ターゲットは、あと十分で移動する」
今夜のターゲットは、黒龍会のナンバー3、佐藤ケンジ。
三年前、俺の妻を殺した男だ。
「分かった。強行突破する」
俺は、腰のグレネードを掴んだ。
そして、壁の向こうに投げた。
三秒後——
爆発が、廊下を吹き飛ばした。
悲鳴と、燃える匂い。
俺は、煙の中に飛び込んだ。
一発目——右側のヤクザの頭を撃ち抜く。
二発目——左側のヤクザの胸を貫通。
三発目——奥にいた男の喉を撃つ。
残弾、二発。
だが、まだ敵がいる。
後ろから、足音が近づいた。
俺は、振り向きざまに四発目を放った。
男の額に、赤い穴が開いた。
残弾、一発。
最後の一人が、自動小銃を構えた。
間に合わない——
その瞬間、男の頭が弾けた。
遠くから、スナイパーライフルの音。
「マイクか」
「どういたしまして」
インカムから、マイクの皮肉めいた声が聞こえた。
俺は、奥の部屋に向かって走った。
ドアを蹴破る。
中には、佐藤ケンジが二人のボディガードと共にいた。
「神崎......!?」
佐藤の顔が、恐怖に歪んだ。
「死んだはずじゃ......」
「地獄から、戻ってきた」
俺は、最後の一発を佐藤の膝に撃ち込んだ。
佐藤が、床に倒れる。
ボディガードたちが、拳銃を構えた。
だが、俺は既に空のマガジンを投げ捨て、ナイフを抜いていた。
一人目のボディガードが発砲する前に、俺はその腕を掴み、ナイフを喉に突き立てた。
血が、噴水のように吹き出た。
二人目が、至近距離で撃ってきた。
俺は、一人目の死体を盾にした。
弾丸が、死体に当たる。
そして、俺は盾を投げつけた。
二人目がよろめいた隙に、俺はナイフを投げた。
ナイフが、男の目に突き刺さった。
男は、悲鳴を上げて倒れた。
俺は、佐藤に近づいた。
「やめろ......やめてくれ......」
佐藤が、這いずって逃げようとした。
「三年前、俺の妻に何をした?」
俺は、佐藤の髪を掴んで顔を上げさせた。
「教えろ!」
「すまない......命令だったんだ......竜崎の......」
「命令なら、人を殺していいのか?」
俺は、佐藤の顔を床に叩きつけた。
歯が、数本折れた。
「俺の娘は、五歳だった。何も知らない子供だった」
俺の声が、震えた。
「お前たちは、その子を......」
「すまない......本当に......」
俺は、佐藤の首を掴んだ。
そして、力を込めた。
佐藤の顔が、青くなっていく。
抵抗する力も、段々と弱くなる。
やがて——
佐藤は、動かなくなった。
一人目。
あと六人。
そして、最後に竜崎タケル。
俺は、立ち上がった。
その時、背後から声がした。
「久しぶりだな、神崎」
俺は、振り向いた。
そこには、黒龍会のナンバー2、山本ヒロシが立っていた。
そして、彼の後ろには、十人以上の武装したヤクザたちがいた。
第二章 血の報復
「待ってたぜ、神崎」
山本が、不敵に笑った。
「お前が戻ってくるって、分かってたからな」
俺は、素早く周囲を確認した。
出口は、一つだけ。だが、山本たちが塞いでいる。
窓——六階。飛び降りれば、確実に死ぬ。
「観念しろ。お前は、もう終わりだ」
山本が、拳銃を構えた。
その瞬間、窓ガラスが割れた。
外から、スモークグレネードが投げ込まれた。
白い煙が、部屋を満たす。
「撃て! 撃て!」
山本が叫んだ。
銃声が、乱射される。
だが、俺は既に床に伏せていた。
煙の中、俺は這って移動した。
そして、一人のヤクザの足を掴み、引き倒した。
男の拳銃を奪い、至近距離で撃つ。
一発、二発、三発——
次々とヤクザたちを倒していく。
煙が晴れた時、山本だけが立っていた。
だが、山本の拳銃は空だった。
「クソッ!」
山本は、拳銃を投げ捨て、日本刀を抜いた。
「来い、神崎! 男と男の勝負だ!」
俺も、床に落ちていた日本刀を拾った。
二人は、互いに構えた。
山本が、最初に動いた。
鋭い斬撃が、俺の頭を狙う。
俺は、身を屈めて避けた。
そして、反撃——
だが、山本は素早く受け流した。
「三年のブランクは、大きいな」
山本が、挑発する。
俺は、答えない。
ただ、次の一撃を狙う。
山本が、再び斬りかかってきた。
今度は、連続攻撃。
上段、中段、下段——
俺は、必死に受け流す。
だが、最後の一撃が、俺の脇腹を切り裂いた。
「ぐっ......」
血が、滲む。
「どうした? もう終わりか?」
山本が、笑った。
俺は、脇腹を押さえながら立ち上がった。
痛みが、全身を駆け巡る。
だが、これくらいで倒れるわけにはいかない。
まだ、やることがある。
「山本......お前は、あの日何をした?」
「何だと?」
「俺の娘を殺したのは、お前か?」
山本の笑みが、消えた。
「......違う。俺じゃない」
「嘘をつくな!」
俺は、怒りのまま斬りかかった。
山本が、受け止める。
刀と刀が、火花を散らす。
「本当だ! 俺は、お前の家族を殺してない!」
山本が叫んだ。
「俺は、お前を殺す役目だった。家族は......竜崎が直接やった」
その言葉に、俺の動きが止まった。
「竜崎が......自分で......?」
「ああ。お前の娘を、自分の手で......」
山本の言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが弾けた。
怒りが、爆発した。
俺は、刀を投げ捨て、山本に飛びかかった。
素手で、山本の顔を殴りつける。
一発、二発、三発——
山本が、刀を振ろうとした。
だが、俺はその腕を掴み、関節を極めた。
骨が、折れる音がした。
「ぎゃあああ!」
山本が、悲鳴を上げた。
俺は、山本の刀を奪った。
そして、その刃を山本の首に当てた。
「最後に、聞かせろ」
「何を......」
「竜崎は、今どこにいる?」
「言えるか......」
俺は、刃を少し押し込んだ。
血が、滲む。
「言え!」
「......本部だ。本部ビルの最上階......」
「ありがとう」
俺は、刀を一気に引いた。
山本の首から、血が噴き出した。
山本は、その場に崩れ落ちた。
二人目。
あと五人。
俺は、インカムに話しかけた。
「リン、聞こえるか」
「ああ」
「次のターゲットは?」
「待て。お前、怪我をしてるだろう」
「大丈夫だ」
「嘘をつくな。心拍数が上がっている」
リンは、俺の体にバイタルセンサーを付けていた。
「一旦、撤退しろ。傷を治療してから——」
「時間がない」
俺は、窓に近づいた。
外には、マイクが用意したロープが垂れ下がっていた。
「竜崎は、本部にいる。今夜、決着をつける」
俺は、ロープを掴んだ。
そして、窓から飛び降りた。
第三章 殺戮の連鎖
ロープで地上に降り立った俺を、リンが待っていた。
「バカ。無茶をしすぎだ」
リンは、中国系の女性で、元は国家情報機関のエージェントだった。
三年前、俺を助けてくれたのも彼女だ。
「応急処置をする」
リンは、俺の脇腹の傷を確認した。
「浅い。縫う必要はないが、感染のリスクがある」
彼女は、消毒液と包帯を取り出した。
傷口に消毒液がかかる。
激痛が走ったが、俺は声を出さなかった。
「次のターゲットは、黒龍会のナンバー4、田中シュウジ。彼は、本部ビルから五キロ離れたクラブにいる」
リンが、タブレットで情報を見せた。
「同時に、ナンバー5の伊藤ケンとナンバー6の小林タカシも同じクラブにいる」
「三人まとめて、か」
「ああ。だが、警備が厳重だ。クラブには、三十人以上のヤクザがいる」
俺は、リンから受け取った新しいマガジンを装填した。
「マイクは?」
「既に、狙撃ポイントについている」
「よし、行くぞ」
三十分後、俺たちはクラブ「INFERNO」の前にいた。
ネオンが、派手に光っている。
入口には、二人の用心棒が立っていた。
俺は、まっすぐ歩いて行った。
「おい、お前——」
用心棒の一人が、声をかけてきた。
だが、俺は返事をする前にその顎を殴り飛ばした。
もう一人が、拳銃を抜こうとした。
俺は、その手首を掴み、ひねった。
骨が折れ、拳銃が落ちる。
俺は、その拳銃を拾い、男の頭を殴打した。
二人とも、気絶した。
俺は、クラブのドアを蹴破った。
中には、大音量の音楽と、踊る人々。
そして、奥のVIPルームに向かう階段に、武装したヤクザたちが立っていた。
「神崎だ! 撃て!」
誰かが叫んだ。
俺は、素早くテーブルの陰に隠れた。
銃声が、響き渡る。
一般客たちが、悲鳴を上げて逃げ出す。
俺は、テーブルを盾にしながら、反撃した。
一発目——階段の一人目を撃つ。
二発目——二人目の肩を撃つ。
三発目——
その時、背後から襲撃があった。
ヤクザの一人が、ナイフを振りかざして襲ってきた。
俺は、素早く身をかわし、男の手首を掴んだ。
そして、そのナイフを奪い、男の首に突き立てた。
血が、噴き出す。
俺は、男の体を盾にして階段に向かった。
ヤクザたちが、乱射する。
弾丸が、盾にした死体に当たる。
俺は、階段の下まで到達した。
そして、死体を投げつけた。
ヤクザたちが、よろめく。
その隙に、俺は階段を駆け上がった。
至近距離で、次々と撃つ。
四発、五発、六発——
マガジンが空になった。
だが、まだ敵がいる。
俺は、空のマガジンを投げつけ、ナイフを抜いた。
一人目——腹を刺す。
二人目——喉を切り裂く。
三人目——目を突く。
階段が、血で染まった。
俺は、VIPルームのドアに辿り着いた。
中から、声が聞こえる。
「誰か! 誰かいないのか!」
田中の声だ。
俺は、ドアを蹴破った。
中には、田中、伊藤、小林の三人がいた。
そして、それぞれがボディガードを一人ずつ連れていた。
「神崎......!」
田中が、震える声で言った。
「化け物め......」
「三年前、お前たちは俺を化け物にした」
俺は、拳銃を構えた。
だが、弾がない。
俺は、拳銃を投げ捨てた。
「素手でも、十分だ」
ボディガードたちが、前に出た。
三人とも、屈強な男たちだ。
だが、俺は恐れなかった。
一人目のボディガードが、襲いかかってきた。
俺は、その拳を避け、カウンターで顎を打ち抜いた。
男が、よろめく。
俺は、その首を掴み、壁に叩きつけた。
頭蓋骨が、ひび割れる音がした。
二人目と三人目が、同時に襲ってきた。
俺は、二人目の蹴りを受け止め、そのままひねり倒した。
三人目が、背後からチョークスリーパーを決めようとした。
だが、俺はその腕を掴み、後ろに投げ飛ばした。
男が、テーブルに激突する。
俺は、倒れた二人目の頭を踏みつけた。
首の骨が、折れた。
三人目が、起き上がろうとした。
俺は、そこに駆け寄り、膝蹴りを顔面に叩き込んだ。
男は、そのまま動かなくなった。
田中、伊藤、小林は、恐怖に怯えていた。
「待ってくれ......」
田中が、震える声で言った。
「金を出す。いくらでも出す......」
「金で、俺の家族が戻るのか?」
俺は、田中に近づいた。
「頼む......命だけは......」
俺は、答えなかった。
ただ、田中の首を掴んだ。
そして——
窓に向かって投げ飛ばした。
ガラスが割れ、田中は六階から転落した。
悲鳴が、遠ざかっていく。
そして、地面に激突する音。
三人目。
伊藤と小林が、必死に逃げようとした。
だが、俺は許さなかった。
伊藤を追いかけ、後ろから首を掴んだ。
そして、バーカウンターに頭を叩きつけた。
一回、二回、三回——
伊藤は、動かなくなった。
四人目。
小林だけが、残った。
小林は、震えながら拳銃を構えた。
「来るな......来るな!」
引き金を引いた。
だが、弾は出なかった。
安全装置がかかったままだった。
俺は、小林から拳銃を奪った。
そして、安全装置を外した。
「最後に、一つだけ教えろ」
「何を......」
「三年前、俺を撃ったのは誰だ?」
「......竜崎だ」
「やはりな」
俺は、引き金を引いた。
小林の額に、穴が開いた。
五人目。
残るは、竜崎タケルだけ。
俺は、クラブを出た。
外では、リンが車で待っていた。
「次は、本部だ」
俺が言うと、リンは真剣な顔で答えた。
「神崎、覚悟はできているか?」
「ああ」
「竜崎は、お前を待っている。罠かもしれない」
「構わない」
俺は、車に乗り込んだ。
「今夜、全てを終わらせる」
第四章 最後の戦い
黒龍会本部ビル——
三十階建ての高層ビル。
かつて、俺もここで働いていた。
だが、今は敵の本拠地だ。
「警備は?」
「一階に十人、各階に五人ずつ。最上階には、竜崎と精鋭部隊が待機している」
リンが、タブレットで情報を見せた。
「合計で、百人以上だ」
「マイクは?」
「向かいのビルで、狙撃準備完了」
俺は、装備を確認した。
拳銃二丁、ナイフ三本、グレネード四つ、そしてショットガン一丁。
「時間は?」
「午前二時。警察の巡回まで、あと一時間」
「十分だ」
俺は、車から降りた。
「神崎」
リンが、俺を呼び止めた。
「生きて戻れ」
「......ああ」
俺は、ビルに向かって走った。
一階の正面入口——
警備員が、二人立っていた。
俺は、物陰からグレネードを投げた。
爆発が、入口を吹き飛ばした。
俺は、煙の中に飛び込んだ。
ショットガンを連射する。
一発、二発、三発——
警備員たちが、次々と倒れる。
エレベーターホールに、増援が駆けつけた。
十人以上のヤクザたちが、自動小銃を構えている。
俺は、柱の陰に隠れた。
弾丸が、柱に当たる。
俺は、二つ目のグレネードを投げた。
爆発が、ヤクザたちを吹き飛ばした。
だが、まだ半数が生きている。
俺は、ショットガンを投げ捨て、拳銃二丁を抜いた。
柱から飛び出し、左右同時に撃つ。
二発、四発、六発——
ヤクザたちが、倒れていく。
だが、一人が俺の肩を撃った。
「ぐっ......」
俺は、その男を撃ち返した。
男は、倒れた。
俺は、肩を押さえた。
血が、滲んでいる。
「神崎、大丈夫か?」
インカムから、マイクの声。
「問題ない」
「嘘つけ。バイタルが危険域だ」
「まだ、動ける」
俺は、エレベーターに乗り込んだ。
最上階のボタンを押す。
エレベーターが、上昇し始めた。
十階——
十五階——
二十階——
二十五階——
そして、三十階。
扉が、開いた。
目の前には、二十人以上のヤクザたちが銃を構えていた。
そして、その奥に——
竜崎タケルが立っていた。
五十代、鋭い目をした男。
かつて、俺が尊敬していた男。
「よく来たな、神崎」
竜崎が、笑った。
「待っていたぞ」
俺は、拳銃を構えた。
だが、弾は残り少ない。
「撃て」
竜崎が、命令した。
ヤクザたちが、一斉に引き金を引こうとした。
その瞬間——
窓ガラスが割れ、スナイパーライフルの弾丸が飛び込んできた。
マイクの援護射撃だ。
三人のヤクザが、頭を撃ち抜かれて倒れた。
俺は、その隙に三つ目のグレネードを投げた。
爆発が、ヤクザたちを吹き飛ばした。
俺は、煙の中を駆け抜けた。
残ったヤクザたちを、次々と撃ち倒す。
だが、弾が尽きた。
俺は、拳銃を投げ捨て、ナイフを抜いた。
一人のヤクザが、刀を振り下ろしてきた。
俺は、避けて懐に入り、ナイフを腹に突き立てた。
もう一人が、背後から襲ってきた。
俺は、振り向きざまにナイフを投げた。
ナイフが、男の喉に刺さった。
やがて——
全てのヤクザが、倒れた。
残ったのは、俺と竜崎だけ。
「さすがだな、神崎」
竜崎が、拍手した。
「だが、終わりだ」
竜崎は、拳銃を抜いた。
そして、俺に向けた。
「三年前、お前を殺しきれなかったのが間違いだった」
「なぜ、裏切った」
俺は、竜崎を睨んだ。
「なぜ、俺の家族を殺した」
「お前が、邪魔だったからだ」
竜崎が、冷たく答えた。
「お前は、優秀すぎた。このままでは、お前が次の組長になる」
「それが、理由か......」
「ああ。だから、消した」
竜崎が、引き金に指をかけた。
「さらばだ、神崎」
その瞬間——
最後のグレネードを、俺は竜崎に向かって投げた。
竜崎が、発砲する。
弾丸が、俺の腹を貫通した。
だが、グレネードも竜崎の足元に転がった。
竜崎の顔が、恐怖に歪んだ。
「しまっ——」
爆発が、竜崎を飲み込んだ。
俺は、衝撃で吹き飛ばされた。
床に倒れる。
体中が、痛い。
視界が、霞んできた。
だが、まだ終わっていない。
俺は、這って竜崎に近づいた。
竜崎は、両足を失い、瀕死の状態だった。
「神崎......お前も......終わりだ......」
「ああ......そうだな......」
俺は、最後のナイフを抜いた。
「だが、お前を道連れにする」
俺は、ナイフを竜崎の心臓に突き立てた。
竜崎の目から、光が消えた。
七人目——
いや、もっとだ。
今夜、俺は何十人も殺した。
全ては、家族の仇を討つために。
俺は、竜崎の死体の横に倒れた。
意識が、遠のいていく。
「神崎! 応答しろ!」
インカムから、リンの声。
だが、俺は答えられなかった。
これで、終わりだ。
妻と娘に、会える——
そう思った時、誰かが俺を抱き起こした。
「まだ死ぬな、バカ野郎」
マイクの声だった。
「リンが、待ってる」
マイクが、俺の傷口を押さえた。
「救急車を呼んだ。持ちこたえろ」
俺は、かすかに頷いた。
意識が、完全に途切れた。
第五章 新たな始まり
目を覚ました時、俺は病院のベッドにいた。
全身に、包帯が巻かれていた。
「起きたか」
横には、リンがいた。
「......生きてるのか、俺は」
「ああ。奇跡的にな」
リンが、微笑んだ。
「三発の銃弾、一発のナイフ傷、全身打撲、そして出血多量——医者は、生きてるのが不思議だと言っていた」
「竜崎は?」
「死んだ。お前が殺した」
俺は、深く息を吐いた。
終わった。
本当に、終わった。
「黒龍会は?」
「壊滅した。幹部が全員死んだことで、組織は崩壊した」
リンが、窓の外を見た。
「警察も動いた。残党は、全員逮捕された」
「そうか......」
俺は、天井を見つめた。
三年間、復讐だけを考えて生きてきた。
そして、それを成し遂げた。
だが、虚しさだけが残った。
「神崎」
リンが、真剣な顔で言った。
「これからどうする?」
「......分からない」
「警察は、お前を探している」
「当然だな」
俺は、何十人も殺した。
いくら相手がヤクザでも、殺人は殺人だ。
「だが、証拠がない」
リンが、続けた。
「監視カメラの映像は、全て消した。目撃者もいない」
「お前が......」
「ああ。マイクとヴィクターも協力してくれた」
リンは、俺の手を握った。
「だから、新しい人生を始められる」
「新しい人生......」
俺には、想像できなかった。
復讐以外の人生など。
その時、ドアが開いた。
入ってきたのは、マイクだった。
「よお、生きてたか」
「ああ、何とかな」
マイクは、椅子に座った。
「お前、すげえよ。百人以上のヤクザを相手に、一人で勝つなんて」
「一人じゃない。お前たちがいた」
「まあな」
マイクが、笑った。
「で、これからどうする?」
「まだ、決めてない」
「じゃあ、提案がある」
マイクは、真剣な顔になった。
「俺たちと一緒に、仕事をしないか」
「仕事?」
「ああ。傭兵、用心棒、何でもいい。お前の腕なら、どこでも重宝される」
「考えとく」
その夜、俺は一人で窓の外を見ていた。
東京の夜景が、美しく輝いている。
かつて、俺はこの街で生きていた。
妻と娘と、幸せな日々を過ごしていた。
だが、もうその日々は戻らない。
俺は、血に塗れた道を選んだ。
復讐という、終わりのない道を。
そして今、その道は終わった。
だが、俺の人生はまだ続く。
どう生きるべきか——
その答えは、まだ見つからない。
数日後、俺は退院した。
リン、マイク、そしてヴィクターが見送ってくれた。
「連絡先は、知ってるだろう」
リンが言った。
「何かあったら、いつでも連絡しろ」
「ああ」
「じゃあな、相棒」
マイクが、俺の肩を叩いた。
「生き延びろよ」
「お前もな」
ヴィクターは、黙って頷いた。
彼は、無口な男だった。
だが、三年間、俺を支えてくれた。
俺は、三人に深く頭を下げた。
「ありがとう」
そして、歩き出した。
行き先は、決めていない。
ただ、前に進むだけだ。
俺は、小さな町のバス停で降りた。
海が見える、静かな町だった。
ここなら、過去を忘れて生きられるかもしれない。
俺は、海岸を歩いた。
波の音が、心地よかった。
ふと、砂浜に座り込んだ。
そして、懐から一枚の写真を取り出した。
妻と娘が、笑顔で写っている。
唯一、焼け残った写真だ。
「ユリ、アヤ......」
俺は、写真に語りかけた。
「仇は、討ったよ」
風が、優しく吹いた。
まるで、二人が「お疲れ様」と言っているようだった。
「これから、どう生きればいい?」
答えは、返ってこない。
だが、俺は知っていた。
二人なら、こう言うだろう。
「前を向いて、生きて」
俺は、写真をしまった。
そして、立ち上がった。
復讐は終わった。
だが、人生は続く。
血に塗れた過去を背負いながら、それでも前に進む。
それが、俺——神崎シンの、新たな始まりだった。
夕日が、海を赤く染めていた。
美しい光景だった。
俺は、その光景をしばらく見つめた。
そして、町に向かって歩き出した。
新しい人生が、始まろうとしていた。
血染めの復讐者は、死んだ。
今、ここにいるのは——
ただの、一人の男だ。
過去に縛られながらも、未来を探す男。
それが、俺だ。
エピローグ
三ヶ月後
俺は、その町で小さな食堂を開いていた。
料理は、妻から教わったものだ。
毎日、地元の人々が訪れてくれる。
穏やかな日々だった。
だが、時々、悪夢を見る。
血に塗れた夜の夢を。
そんな時、俺は海を見に行く。
波の音が、心を落ち着かせてくれる。
ある日、食堂に一人の客が来た。
スーツを着た、三十代の男だった。
「神崎さんですね」
男は、名刺を差し出した。
警察の刑事だった。
「何の用だ」
「三ヶ月前、東京で起きた黒龍会壊滅事件——あなたが関わっていませんか?」
俺は、冷静に答えた。
「証拠でも?」
「いえ。ただの勘です」
刑事は、真剣な目で俺を見た。
「だが、もし関わっていたとしても——」
刑事は、言葉を続けた。
「個人的には、感謝します。黒龍会は、多くの人々を苦しめた」
「......」
「ただ、もう二度と、同じことはしないでください」
刑事は、立ち上がった。
「これは、警告です」
刑事が去った後、俺は深く息を吐いた。
過去は、簡単には消えない。
だが、俺はもう、あの道には戻らない。
復讐は終わった。
今は、ただ静かに生きる。
それが、俺の選んだ道だ。
夜、俺は店を閉めた。
そして、いつものように海を見に行った。
満月が、海を照らしていた。
美しい夜だった。
俺は、懐から写真を取り出した。
「ユリ、アヤ——見てるか?」
俺は、写真に微笑みかけた。
「俺は、生きてる。お前たちのためにも」
風が、優しく吹いた。
まるで、二人が「頑張って」と言っているようだった。
俺は、写真をしまった。
そして、町に向かって歩き出した。
新しい人生——
血に塗れた過去を背負いながらも、前に進む人生。
それが、神崎シンの物語だ。
復讐者は死に、一人の男が生まれた。
その男は、今日も生きている。
明日も、生きていく。
それが、俺の答えだ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
読者の皆様には、感謝いたします。
ラプ太郎先生の次回作にも乞うご期待ください。




