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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

煙を食う

作者: 大森張力
掲載日:2025/12/20

穂先から煙が昇り、それが辺りに充満していく。

 花火がパチパチを音を立てながら、私の右手の先で勢いよく燃えている。

「たのしかったね」

 彼に語りかけてみるが、彼はどうやらすでに深い眠りについているようだ。

「もう、あーんなにいっぱいのお酒、一気に飲むからだよ」

 ブウと、家畜みたいな鳴き声の返事がきた。彼は一向に目を覚まさない。

 しばらくして花火が消えた。空のバケツに燃え尽きた花火を捨てて、新しい花火をパックから取り出す。ススキ型の花火は次が最後の一本のようだ。

「ああ、次が最後の一本だ。ほら、最後の一本だよ?」

 彼は岩みたいに動かない。

 仕方ないので、一人で火をつける。ろうそくの火に、花火のビラになっているところを数秒当てると、ジーッとたちまち火を吹き始めた。ススキの穂先の部分は七色にどんどん色を変えていくが、真ん中の内炎の部分だけはずっと白いままで燃えている。穂先から煙が昇り、それが辺りに充満していく。焚き火や暖炉の火などとは違う、ケミカルな火の匂いがする。

 きれいだなぁ。

 彼はまだ寝ている。

「ねえねえ、せっかくの花火なんだから起きてよぉ。後でいくらでもねーれーるーじゃんっ!」

 ろうそくを挟んで、彼は私にお腹を向けて横になっている。花火の光が彼の顔の輪郭を仄かに照らしている。唇を僅かに開けながら、ぐっすりと眠り続けている。

 そういえば、彼の寝ている姿を見るのは初めてだった。その様子を息を呑みながら見守っていると、その呑み込んだ息が肺の変なところに入って咽込むせこんでしまった。咳き込んだ時の反動で手先がぶれて、火花があらゆる方向に飛び散っていく。

 彼の身体にちょっと火がかかっちゃったかもしれない。

「ごめん! 大丈夫? 火、かからなかった?」

 花火は勢いを失い始めていた。彼の様子は暗くてよく分からなかったが、一瞬だけ目を開いてこちらを見てくれたような気がした。

 そうして数秒後、花火は消えていった。辺りの光源はろうそくだけになった。

「あーあ、消えちゃった。きれいだったのになー。さて、お次は線香花火だよ。ほら、おーきーろーよっ」

 そう言っても、彼はまだ寝続けている。その途端、一人で花火をキャッキャ楽しんでいる私の姿が客観的に頭の中に浮かび、急に怖い感じがした。

「ねぇ、起きてよ。約束したじゃん」

 起きない。

「なんで……? 一緒に花火しよって約束したのに。やっぱり嘘ばっかり──」

 その途端、火災放置機の非常ベルけたたましく鳴り始めた。

 ジリリリリと、耳に優しくない鋭い音が鼓膜をジリジリと傷つけていくのを感じる。

 吐き出る息が煙に変わっていく。

 そうして、辺りは煙に巻かれていった。

花火っていいよね。

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