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9,神の申し子


俺達4人は3個の生命を前にして歩を緩めた。

一体、彼等は「何者なのだ・・・」と。


 彼等は普通の生命と同じ格好をしている。布服を着て遊んでいるようにも見える。何故、こんな場所で板を振って火を囲っているのかと俺達は思った。近付けば近付くほど楽しそうに見えるし、何より音や声が響き渡る理由が分からないままである。どうしてこの様な事をしているのか知りたい。


「知りたいって?もう近くに居るなら傍に来てみなよ」

(何を言っている?もし俺達をあぶるつもりなら危険じゃないか)

「炙ったりしないよ。むしろ見て欲しい位だ。文化を広めたいんだろう?」

(それはそうだけど、そこまで近付いていなかった。何故わかる?)

「分かるというより、“知っている”んだけど、早く来なさいって」


 文化について“知っていた”というのか?俺達はお互いの顔を見合わせた。理解が出来ないのに吸い寄せられた。もう近付いても問題なさそうだ。一体何を作っているのか、ずっと知りたいなと考えていた。


“ザッ、スッ、タタ、タ、スタスタ”

「い、一体・・・それは?」

料理リョウリだよ」

「リョウリ?それは一体どういう事をしているんだ?それに何故、同じ民でもない言葉が通じる?教えてくれ、訳が分からない・・・」

「この粉の事だろう?これはね、水と練る事で“パン”を作るんだよ。それに味も付いているんだけどね、君達に分かるか?是非、めてみてくれ」


 “める”というのは舌で舐める事じゃない。潰して口に含むことを言っている。それは新しい「美味しい」になるのか謎だった。俺達は彼の言う様に“舐め”てみた。すると何故か口の中が暖かくなって顔中に刺激が伝えられてきた。この刺激は一体何なのだ?まるで味わった事も無いものだ。


「それは塩って言うんだよ?どうした、からいのかなぁ~、ペロ・・・大丈夫、辛くないねぇ、君達は刺激を感じたのだろうけど、それは痺れるという意味だろう?」

「し、しび・・・痺れる・・・と、いうのか?」


 新たな文化を覚えた。“痺れ”ることを覚えたのだ。どうしてピリピリとするのだろう?痛くも無いし、再生することも全く無かった。新鮮な香りさえ感じられてしまうが、これも分からなかった。


「それが、嗅覚なんだよ。君達初めてなんだろう?それが料理というものなんだ。そうそう、かじる事は知っているみたいだけど、言葉は知らなかったみたいだね~」

「カジル?それは・・・“面白い”の?初めて聞いた言葉が体にみ渡る、」


 さっき食べた果実に対する行為も“かじる”という意味らしい。あと嗅覚と言っていたが俺達は鼻という言葉さえ知らなかった。彼等3個体は色んな言葉や味だけでなく、様々な文化を理解している様だった。何故、そこまでが分かるのかと俺達は考えたのに、自然と消えてゆくのだった。

 まるで「早々に理解するな」と警告されている様にも感じ取れた。あの粒を丸めただけでこんなにも食べた事を感じられる事が今迄にあっただろうか?


「理解するなとは言ってないよ。理解するより先に“触れて”みたらどうか、とね」

「触れる・・・?もう触れているだろう?食べた、かじった、それに味は・・・これは何というものなのか、食感は分かるんだが、味と言われてもなぁ」

「そうだよ、味なんて“美味しい”とか“面白い”を表すんじゃないの?」

「温かいは感じられたし、辛い事も大体分かった。それで、何なんだこれ?」


 彼等はこう伝えてきた。それは「塩っぽい」という呼び方をするそうだ。この食べ物“パン”は塩っぽくて暖かくて辛いものだと理解した。大きさは12センチでデリンの顔半分に到達する。俺の太い指からすると、とても小さ過ぎて一体何を食べさせられていたのか、その時の刻みすら分からないで居たのだった。


「不思議な味がする。アーデルどう表現する?」

「美味しい訳でもなかった。温かい何かだよジール、きっとね」

「それって“美味しい”で合ってるんじゃない?その“不思議”という言葉は初めて味わったから言葉に出たんでしょう。それも合ってるわねぇ」

「さすが我が妹、よい表現だ。ところで、オーズ、ジール、デリン、アーデルと言ったね。私達も名乗るべきだろうね。それに生命の形も違う様だからそれも話そう、マーズの子孫たちよ」


彼等はそれぞれ名前があるのだという。そこで初めて口にしたのは?


「私の名はミキュール。あの小さな子供はウリュエル、妹だ。この大きな男は弟でガヴリール。私は兄で彼女が妹、彼が弟なんだ」

「?」


 アニ、イモウト、オトウト・・・?初めて意識した。そんな名称は我等遺伝子には記憶されていなかった。精々、親子と男女としか表現したことは無かったからだ。

 生命というのは時に刻まれるように、様々な形態を整えて往くというのか?


兄弟きょうだいというのを知っていたか?君達は恐らく名前だけで呼んでいたのだろう。子孫繁栄のたびに使っていなかっただけなんだ。料理だって味が在るように、それぞれ繋いで食べて“美味しい”とか“面白い味がする”なんて言い方になっていく。そういう旅を私達はしてきた―――、」


 キョウダイ?これも初めて意識した。俺達にも同じような表現が相応しいのだと覚えるのに、しっくりこなかった。それは「お前達にも新しい呼び方を与えよう」と言わんばかりの視線を感じた。例えば血の繋がりの無い者同士が元々、遺伝子として同じなのなら、思い切って“キョウダイ”と呼び合うことも出来るだろう。


「よく、理解しているんだね。オーズという君の事は私の見込み以上の生命線を宿している様にも感じ取れた。生命線というのは、君達が祖先の経路を辿ってきたという意味で伝えている。君達にも新しい仲間が必要なようだね」

「オレ達と仲間にってみてはどうだ?繋がるぞ」

「私も同感ね。どうせ民は一つにも成り、別れては一つと成るのだから」


 こうして料理をしていた彼等3“にん”と魂と意志の交信を果たす事にした。それはとんでもない情報量で、遺伝子全般に響き渡るような勢いだった。強い“絆”を文化として、文明とするなら、このように人類というのは“神の申し子”として成長するのだろう。それから俺達は料理をする方法から言葉を分譲として往くことにもなり、人数を増やしていった。

 この惑星ゴ・ランズの大地もあの閃光に導かれるように広がって往き、そして水裂すいれつから多くの鉱石が採掘される様にもなった。大地が緑になると、勢い付いて仲間同士で兄弟キョウダイになる事も何ら抵抗すらなかった。だが、時の刻みに応じてあの赤い布が黒となるように、段々文化からなる広がりに文明が大きな生命を飲み込もうとしているとは想像だに付かなかった。


「我々も大きな都市を作った。その他の大地もやがて繋がるだろうが、あまりにも差が出来てしまったようだ。生命の質の大きさが散り散りになって居るのかも知れないな」


 ミキュールはそう答えた。もしかすると建物さえ無い、集落の様な環境も出来ているかも知れない。もしかしてシドとして食らい合うのかも知れない人類が存在するのかも知れない。

 大地に果てがあるのに、まだ見ない生命の形がこの惑星に眠っているのかも知れない等、俺達は時を刻む度に叶わぬ望みに相槌あいづちを打っていた様だった。


俺達はもう神の民とされた“神の申し子”なのだろうか?


「ああ、あの布ならもう雑巾ぞうきんにしたところだよ」

「雑・・・巾、いつの・・・間に・・・?」


――――

オーズ3メートル、雄

ジール3メートル、雄

デリン30センチ、雌

アーデル180センチ、雌


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