30、王として「育てられる」という事
“小さき”から、“幼き者”となった王の子。
体に特殊な光を宿している事から、民達は光の王が現れたという噂を立てていた。それも、ブレトルとフォダネスの許可を得ず、ジェイルに意見を伝えてからだった。
「育てるというのは、結構と大変なのですね」
「いいえ、乳を飲ませれば落ち着くのです。落着けば歩くでしょう、頭脳に引き寄せられてこの子には、大いなる“意識”が引き継がれているようなのです」
◇
王というのは中々、面倒な立場だと誤解を持つのに、ブレトル達は独り立ちのように落着いて居る。だからか、民達は興味を以って力を貸すのだろう。止まらない時の刻みにも負けぬように、彼等は次第に大きくなる文化・文明を築き上げていた。
それも命令など不要で、彼等は「時の有る限り」と言い“無限でない”という事を子孫へ伝えているのだった。そうする事で王達は新たな礎を保つことが出来るので、インシュビ―を次代の王たる存在に築き上げることも出来そうで、民達にそれ等を託そうとしている。
――――周りに育てられなければ何のために産んだのだろうと・・・。
「フォダネス様、インシュビ―様は少々、暴れっぽい処がある様ですね」
「それはそうです。この子が暴れなければ民達がまるで目も向け無いからでしょう。でもね、ジェイル、彼女は言っていたわ。『踊りとはナイフよりも軽い』とね」
「はは、貴女は私を買いかぶっているのですかね・・・」
自信なさげなジェイルだったが、それをひれ伏す様に教えるフォダネス。どちらかと言えば彼女の方が少ない時を歩んでいたのに、神官たるジェイルが教えられるというのは天使の力故か、それとも親の無い境遇から名も無き少女として生を受継いできたからか。
糞を食してきた事など感じさせない少女が大人になると、ここまで変わる事を宇宙はまるで親の様に見守っていた。
◇
「お、お、おち、ち、」
「ふふ、インシュビ―・・・彼は父であり、貴方のお父さんであるのです。喜びなさい、貴方にはお父さんが存在するのですよ・・・」
「ちち、おとおさん、ちち、ちち、」
「まぁ、そこまで言えるのですね。成長の早い事です・・・」
「フォダネスよ、妻よ、からかうな。俺は父であり、お前は母であるのだ・・・なぁ、インシュビ―よ・・・」
その身長は60センチに達しようとしていた。しかし知識は未だ不十分であった。まるで成長に従い知能が不安定になるような感覚を、光だけで補っている様にも見受けられた。
周りの民達もまるで親や兄弟の様に育てているのに、歩行には未だ重力に従って足同士が交差して転げてしまう。通常なら50センチもあれば二足歩行など出来るのに、何故かインシュビ―だけは不安定だった。
「ドーグ様の残した一説によれば、成長の為の秘訣は、慎重がどの位に伸びるのか、ではなく、乳の与える量と食事を与える量と交互にしてはいけません。いずれか一つでなければ、平衡感覚を失うそうです」
インシュビ―は弱視力という訳ではない。生命、人類という感覚が欠損していたのである。それは聞く耳持たずという訳でなく、聞きすぎるが故に脳梁内が付いて行かないという現象のせいである。
痛みを感じず、再生する為にそこら辺の遺伝は全く無い、父方のブレトルに直結するのはダーク・オブ・ホールの遺伝の影響かと思われる。知能の成長は母方のフォダネスに直結するのに、どういう訳か、王の子としては未発達であった。そして時は更に刻まれた・・・。
――――
「王子よ、分かるかな?小玉なる果実が40個あれば2つの地が受け取れることを・・・」
「4・0・2」
「いいえ、20個あればどちらかが偏るのです。つまり2つの地が受け取るのは10から20であり、もしかすると1つの地が25個受け取って小玉を食べ分けるのです」
「4・0・2=1・25だ。分かるか?オレはそんな簡単な方式をしたい訳ではないんだ。もっとジェイルも脳を冷やせよ」
あの頭脳明晰であったジェイルの両の目が真ん中へ寄り添う瞬間だった。それは太陽から闇に至る瞬間、10が0に戻り1に進む様子を描いている様で知識不足と理解不足を感じていた。あまり多くを教えてしまえばインシュビ―の成長を抑え込んでしまうだろうと感じたのだった。
「なんだと?インシュビ―が自己成長をしているというのか?」
「はい、ブレトル様。彼はもっと崇高なる場を持ち合わせているのです。自らの脳へ変換するという技能でしょう。かつて虹の鉱石を舐めた土の民が強力な再生能力を得たそれが、インシュビ―様の脳に宿っているのでは、と私は考えるのです」
「“俺と似て”の状態なのか、唯々、王としての自覚を得たくないのか。俺と似ているのだな、フォダネスよ」
「仰せのままに・・・ですが、頭脳は私の系列でございましょう・・・」
――――産まれる瞬間をインシュビ―が後に語った事がある。
それは「アブソープト・ゼロにそっくりだった」と。
何故そのような時をも得ぬ時を知っているのか。それは天使の力がそうさせたのだろう、等と後に語っていた。
天使は神より以前に産まれたという説はドーグの書物に在ったからだと年負う前のジェイルは語っていた。
――――更なる時が刻まれた。
「インシュビ―様」
「どうした?」
「最近、あなたの体の周囲が光って見えるのです」
「何のことだ?何を言っている?」
「時が刻まれ秒針が送られるよう・・・」
「死ぬな、ハードよ・・・」
民達の中にもう間もなく死する者が居た。その名は“確かめるように”という意味で付けられた。ブレトルは正義の鉄槌からドーグにより与えられた名だったが、彼の場合はインシュビ―の周りに起きる出来事を確かめられていたのである。
それも「包まれる様な出来事だ」と予見していた。気が付けばインシュビ―も134センチに達しており、言葉を十分以上に理解出来ていた。王の素質に近い程である。
「インシュビ―様、貴方は最後、光に包まれて・・・ガクッ」
「何だ?オレが光に最後包まれて、どうなるという??」
「父の言葉は不思議と当たるのですよ。でもそれは予見というよりも預言に近い何かでは、と・・・」
「彼の言う最後に包まれる、光は束なのか、球なのか・・・私も分かり兼ねますね。もう力尽きましたが・・・」
「ジェイル、ギスト・・・光・・・オレは一体、“何者”なのだろう・・・」
まだ育つ時の長いインシュビ―が不安の兆しを感じたのはこの瞬間だけだった。そうする合間に発明が進むと、写移機が創られると発表された。それが後の世界線に影響する事も・・・。
写移は写真の事。




