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23、女王の冠

 旅する集団は二人の彼女達をこのように呼んだ。

 「魅惑の民アマテスと少女フォダネスがまた踊りで魅せるのだ」と言って、再び踊りの闇なる時と覚えのない痛みを体に覚え、両手に持つそれを唯々、“シド”と偽って食べる日々が続いていたのだ。それがまさか同じ人類である事だったと気付いた時には既に成長が進んでいた。

 二人は衣服を与えられるが翌時には失っていて、再び与えられる日々をも送っていた。


 ――――何故、シドがシドと呼ばれるのか、というと、それは肉片や血痕の塊が人類と異なる形状で、生命が落としたふんのように象るからだ、という。

 そこに幸せなど感じられない筈なのに、アマテスは「幸せだ」といい、それは絶望から希望へ満ち溢れる様な感覚が彼女を襲っていたからであろう、という見方しか出来ない集団一行だったと、フォダネスは後になって聞かされていた。

 名も無き少女だったフォダネス自身も絶望の状況だったが自ら希望を見出すような、その行為を「前へ進んでいる」と認識してしまったからである。


◇ ◇ ◇ ◇


 どうやら踊りに群がる人類とは、別の形状をしている生命の事を表し示していた様だと、改めて確認出来た瞬間でもあった。


「別の生命だったら食べてもいいのに、とあなたは語る・・・」

「それもまた、生命という現われなのだ。覚えていないのなら尚更だ。受け付けるのだフォダネス・・・“美味しかった”とな」


 そんな時、天使ドレスミーと名乗る者の力を得る機会が訪れたのだ。

 それはそれは珍しい生命の象りで、人類と同じ形であるのに白くて美しい翼を背に付けているという形。集団の前に露わにしている肌は“純白”とでも表現しようか、声は音に近く透き通っていた。

 珍しい衣服をまとい、まるで何かへ“赦し”を与えているような威厳を持っている様にも感じ取れる発言を持ち合わせていた。

 アマテスとフォダネスを連れていた集団がそこへひれ伏す様に“敬語”を使うのも初めての事だった。そのような遺伝など持ち合わせていなかったのに、どこで記憶していたのだろう・・・


「私の翼から織り成す衣服は如何か?」

「滅相も無い。その様な美しい糸が衣服になろうとは、決して滅相も無い」

「それは断るというよりも欲するという意志の表れだ」

「滅相も無い、全く、滅相も無い・・・」


 そのように意見と意志が見紛うような音で繰り返し声を発して居たら、いつの間にかドレスミーは集団の中へ入り込んでしまう。まるで初めからそこへ居た様に馴染んでしまった。アマテスもフォダネスも何時の間にか「天使」と口遊くちずさむ様になって居た。何故なぜか、だ。


“ヒュウゥゥウウウ――――”

「寒さに慣れる様にドレスミーが衣服を作ってくれた。もしよかったらお前達も衣服を用意して貰うとよい」

「その厚手な衣服が私達の服なのね?踊りの衣装は別に用意して貰えると嬉しいのだけど?」

「構わない。私が貴女方の衣服を作って差し上げよう―――幾らでも―――」


 そういって天使は再び出会うだろうと言って、その場を離れていったのだった。もしかするとその困窮たる様子を見兼ねて、宇宙のどこかから堕ちて来たのかも知れないし、訳も言わずに神に黙って褒美を与えてくれたのかも知れない。

 それなら何故、土の民の中でもどこにも所属しない民にだけ与えられるのか、何故、フォダネスのように蛇の民に限って受け取れることも出来たのか、それなら像の民にも与えている筈ではないか、と様々なる思惑があったが、それは一時いっときだけだった。

 その間、踊りはテンキが無い状況で手拍子だけで行われていた。そして次の太陽が大地を照らすとき・・・


――――あの時、天使が衣服を作ってくれなかったら?

――――――それも一時の事だったに違いない。


「再び、降り立つ時は刻まれてくるのだろうか?私達は確かにこの衣服によって身が守られている様にも感じられるのだ」


◇ ◇ ◇ ◇


“ビュウウウゥ――――ヒュウ――ィ”


「テンキが鳴るには、もう少し風が鳴りやまないとね・・・」


 ――――そこは民衆移動で宇宙の流軌道の吹く山脈の隙間だった。

 翌時になればアマテスはようやく得られた布服を、フォダネスもようやく得られた黄の布を身に着けていた。アマテスが洗濯物をしており、フォダネスは流軌道を描くように速足で歩く。どうやら再び天使に出逢ったらしい。


「フォダネス、どこへ?私は新しい力を手にしたのですよ、おいで」

「あのねぇ~天使がね、わたしをグーンと遠くへ飛べるようにしてあげるって!」

「天使?遠くへ?では、私はその力で天使となるの?ようやく遠くへ飛べると?」

「うん、そうだよぉ~~。アマテスは抱かれて壊れて踊らなくてもいいの~」

「それならば早く成長なさい。貴女はこれから王となる私の分身なのです」


 どうも以前とは異なる天使の様子を二人は目の当たりにした。シドを食べていて、それを踊りの褒美として受け取り、再び衣服を失わない様に何度も洗い、縫い合わせていた頃だった。

 天使の言葉は丁寧且つ、敬語にも近い発言だったのは宇宙線の変化によるものだ、と集団の誰かが告げていた。


「二人とも、新しい衣服と僅かな力を差しあげましょう。これで“シド”とお別れするのです。踊りから文明を作るのですよ」


――時は過ぎてゆく。少女達は大人へと変わっていった――

 アマテスは大人となり、少女から成長したフォダネスは闇の女王として君臨する。民衆に混じり踊る夜の日々も、あの糞にまみれ、その身を抱かれ続けた“ナイフ”を持つあの朝を迎える事も、天使の力によって滅されて今この地の生命の上に立っている。

 彼女達はようやく自らの力で道を歩むことが出来るのであった。だからアマテスは天使の知恵を用いてフォダネスの優れた天使の記憶力、つまり頭脳とその身を以って別の地を巡った先の蛇の民の前で披露したのである。それは民達による共闘と呼ばれるモノ。


「アマテスぅ~私、女王に選ばれたわ!この金に輝く体であの王に挑むのォ!」

「よく頑張りましたね。貴女はこれから闇の女王ですよ。眩き王にも負けない頭脳を持ち合わせるのです。あの貧しい生活、男にいだかれてきたその汚れた身を今こそ――!」


◇ ◇ ◇ ◇


 貧しくも清くも在った魅惑の民とされたアマテスが、我が子であり“妹”として育てていたフォダネスの姿を、闇の女王と崇めた瞬間だった。それは最早もはや、赤黒く輝いていた頃とは異なり、金色で闇に輝く姿へと変貌していたのだった。

 それも多くの集団にいだかれ守られてきた、性別の多くが男であったので体が覚えていなかったという。それがようやく女王として認められたのは、また異なる地で薪を重ね暖炉した時に、最も美しいとされ、栄誉なる冠を与えられたからである。


 闇を灯すには僅かな暖炉であったが・・・

挿絵(By みてみん)

このエピソードでの「抱かれた」は、「支え称えられてきた」の表現になります。

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