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22、踊りと名前


 ――――名も無き集落、名も無き土地。


 集団に巡り合った名も無き少女は、アマテスという少女と共に踊りを見ては真似てみて各地を歩き廻っていた。その不思議な魅惑に魅入られて音と共に動いていた。


「そういえば、アマテスは何を食べているの?」

「“肉”と呼ばれているものよ。人によっては“シド”と呼ぶの」

「シド?それは何?」

「いろんな場所で踊って、焚火に寄り添っている外で食べられる唯一の食材のことね」


 アマテスの話によると集団は、蛇と像の間に産まれた集団と呼ばれる者達だった。それは後に光とされる存在であり、民であるが・・・肝心の名前が存在しなくては名乗る意味もない事を彼女も知っていた。蛇でもなければ像でもない。しかしどちらかといえば・・・


「私は蛇の民の遺伝を引いている。意志は像の民に近いらしいの。あなたは?」

「わたしは蛇の民。でも他の者と違っていて赤く見えるらしいの」

「確かに蛇の民といえば黄金色の筈なのに、赤とは珍しいわね。でもそれは成長の兆しだからそう見えるだけかも知れないわ?」


 成長を伴うと、どうも踊りに慣れてしまいそうなのに体の色は変わらない。何故、赤いままなのか?赤い星によって変わったと言うが、ライト・オブ・ホールが表れて遺伝自体の変容らしい事態が現れたのか、ずっと気になって居た名も無き少女であった。

 仮初かりそめとはいえ、服装らしき布も与えられ歩いては話しをしたり、その他の土地という大地の状態も知り得ることが出来るのだ。そこで獲ったモノが食事と言われるが、一体なんという生命を狩ったのか気にもなっていた。


「私も気になるし、皆は教えてくれないし、何かと勘違いしているのかも知れない。それは寄越してくれる訳じゃないの」


 名も無き少女は『我々、土の民は“腹が空く”という感覚は本来備えられていない。だけど幸せだと感じるならシドを食べる事も大切なのさ』と聞いた事もある。

 だがアマテスは「まず、褒美として頂くの。そうじゃなければ踊る意味が無いと教えて貰って、それを食べている。火を入れずにそのままね」と幸せと大切さとは別の表現を用いていた。

 火を入れずに食べる意味や、お腹が空かない事を、どうにも理解できている名も無き少女なら特に関係ない話だった。


◇ ◇ ◇ ◇


 ――――そして集団と共に、二人の少女は風の涼む大地へと降り立った。そこには枯れ木や灰色に近い色の地が広がる山岳に近い場所だった。集団の誰もが持つ布袋には汚れたような色が染み付いていて、滴り落ちる何かが入っている様だった。


「あなたは、これから焚火に当たって温まるといい。私は踊る。食べ物が貰えたら、“親子”だし、あなたにもあげるわ」

「“親子”だから、待っていろと?」


 アマテスは闇に近いその時を怪しげに歩いて行った。周囲には男性らしき者達や、別の地からやってきた人類がアマテスの踊りを待っていた様である。その姿は楽器に彩られクルリと回って全身を捻らせたり、手足を伸ばし、汗を掻く一人の少女の勢いに周囲が声をどよめかせていた。

 どうやら彼女の踊りに動かされる何かを感じていたらしい。それを見た名も無き少女もアマテスに近寄り真似をしてみた。

挿絵(By みてみん)

「あなたも来たのね?」

「うん。体が踊りたいと言っている」

「では、真似して見なさい、こう、そう、その通り」


 名も無き少女は闇に紛れてアマテスと同じく踊ってみせた。怪しく炎にも紛れるその姿に魅了され、男達が寄り添うように暖炉した。まるでしがみ付かれそうな勢いである。だが、少女達は恐怖さえしないまま踊り続けていた。楽器も最高潮になると、一気に体が浮くように飛ばされた。


◇ ◇ ◇ ◇


 ――――気が付くと次の時の太陽が昇っていた。

 アマテスの右手には光る何かが掴まれており、左手には赤い物がぶら下がっていた。衣服も脱いでいて全身が赤黒く輝いていた。アマテスも「あなたも同じね」と言って名も無き少女の両手を見てそう言った。体中がジンジンという痛みが走っていたが何が起きていたのか覚えていなかった。


「あなたも食べる?」

「何を?」

「それが“シド”というものよ。私達に与えられた唯一の食事なの」

「これがシド?これは美味しいの?幸せなの?ハグッモグモグ」

「モグモグ、グチャ、ハグ、そう、そうやって食べるの、ガフッ、モグ」


 何だか赤黒いものの正体が「何なのか?」と問いたくなってきた。まさかそれがシドと呼ばれるものとは思っても居なかったからだ。それは塊であり、喉をも潤すものである。潰れたそれから赤黒い液体が少女達の喉を流れていった。

 それは一体どこから手に取っていたのかも覚えていないし、アマテスは教えてくれなかった。


「だって私も覚えていないもの・・・痛みと喜び、それしか覚えていないのよ」


◇ ◇ ◇ ◇


 ――――少女であった二人は徐々に成長していき、身長もそれに従い伸びていった。鼻をすすりながらシドを食べては踊る。名も無き少女はその体に覚えのない苦痛を味わいながら赤黒に輝いていたその身が、金色に近い黒を帯びてゆくのを感じ取れるようになっていた。それは鉄が砥がれて光るのと同じ現象にも近い。


「これじゃ、原生の生命のようね。あなたにも名前が必要かしら?」

「名前、言葉は色々覚えた。でもわたしの名前はもう、貰えるの?」


 アマテスはそれも褒美だと言って笑っていた。

 自分が名前を貰ったのも踊りの褒美として与えられたからだ。天を駆け巡るように宇宙なる惑星ゴ・ランズで踊る少女が由来だったから、名も無き少女を「ねぇ、あなた、ちょっと」等と呼ぶのはそれ相応では無いと、アマテスと周囲も語っていた。

 「力なる闇という由来がそうだ」と詩人なる誰かが歌っていたという。


「“フォダネス”、あなたの名前よ」

「“フォダネス”・・・わたしの名前・・・」


 蛇の民である名も無き少女の名前は“フォダネス”と名付けられた。

 なんだか身が軽くなるような感触を覚えたのは、集落から外に出て二度目だった。「これで集団の一部として動けるのだ」と実感したのはアマテスの方だった。


◇ ◇ ◇ ◇


 ――――少女はやがて成人に近い体系となり、もう一人は少女である。見た目は19歳と14歳にも見えるがこの宇宙の法則としては、時と秒針が刻まれるため千年程の時が刻まれている事になる。集団の一部としてシドを食べつつも踊りを繰返す。


「アマテス――、フォダネス―――出番だよ――――」


“フワッ”


詳細はR15指定、闇の世界線モノゴトリー編にも載せています。

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