20、一つの集落
宇宙から多様な生命が誕生した。その生命は宇宙を漂い、星々にも影響した。それが今、進化をし、文化、文明へと分けられて分類した人類となったのだった。
それから暫くしてライト・オブ・ホールが出現し、太陽の満ちる頃に、闇が表れていた事は惑星ゴ・ランズの中では周知する程ではなかった。
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ある老人が時を満してこのように言った。
「まだ明るい。我等の体は太陽に隠れる頃に光あり、」
一人の少女がこう言った。
「ねぇ、わたしの体は何故、赤いの?あなたのように光ったりはしない」
金色に光る老人の体を見ていても、少女からすればただ、眩しいだけだった。その赤い体を見ていると何だか疎外感を受けるのである。自分も同じ民なのに違う民の様な感覚を憶える少女だった。
「お前は・・・こう、不思議だね・・・同じ蛇の民なのに、光っているのは目だけじゃないか・・・しかも赤いのだねぇ?」
「わたしの目が赤いの?もしそうなら“赤い星”の遺伝が目に入ったのかも?翼の民を覚えている?彼等にも赤い印があったね」
そのつぶらな瞳が次第に鋭くなるのを老人は恐ろしく感じ取れた。像の民と異なり楽しみ面白く感じられる事はしないそれが、驚きであり、悲しみにも近い、蛇の民の特性である。それで頭脳が冴えているのも蛇の民の特徴であった。彼等には近寄る事よりも離れて会話する習慣が多かった。
「ところで、お前の名前は何というんだい?」
「失われた・・・産まれてすぐに・・・今は無い・・・」
「そうかい。私も無いんだ・・・何というか、ずっと眠れない時を送っていた気がするよ。お前よりも大きな時になってからだね・・・」
少女の身長は45センチ。
老人の身長は167センチ程か・・・まるで小石と岩程の質量との異なる原石というべきか・・・。
この二人は今、名も無い集落に住んで居た。住んで居たというより潜んでいたというべきか。泥で覆われた洞穴に木の破片が突き刺さる屋根の出来物に身を潜めているというべきだ。
集落の真ん中には地裂の目からマグマが吹いていてまるで焚火の様な形を取っていた。そこで食事を囲んだり輪を組まずに漂うように生きている。
「“日”が当たらなければ寒い。時折、降ってくる白の粒のような時と同じになる。寒ければ寒い程、冴えてくる事が今は冴えてこない・・・どうだろうね、この様な状況で動けるというのは、有難い事なのかね、」
「あなたは結構、口速いのね。そんなに寒い?その金色のように光る力があるのに、まるでわたしと対照的。わたしは寒くも無いのにね」
ひっそりと声らしき声もしない集落で、二人は唯、密かな会議をしている様にも見られる事も無く、そこへ立って居続ける。眠る事も無く時を刻むようにだ。誰にも突かれる事も無い“寒い”とされている地で太陽が隠れる時に限らずに、周囲の民は動いていた。
「そういえばね、左側に小さな石ころが続いているだろう?あの石を辿るとまた、異なる人類に逢える様なんだ。もし興味があるならお前も行ってみてはどうかね?」
「そうか、わたしには親が居ない。ここに居ても唯、大きくなるだけでもない。その平坦さよりも尖った道がいいかも知れない」
「親も無いのか?」
「うん、無いよ。産まれてすぐ居なくなったらしい」
「それは、平坦とは異なる道だねぇ。よかったらこの懐に在る豆でもあげようじゃないか・・・温かくなるかは別だけど」
親が居なければ道標を探すしかない。それが例え小石でも方向を見失わなければ「そこが正しい道だ」と判断するしかない。そこで例え朽ちてしまったとしても、偶然そこに木が在ったとしても「そこで住めれば生かされる」と思ってしまうのが蛇の民らしい意志の表れである。
もし間違っていたとしても疑わないのは「その少女の生き方なのか」と老人は甘えた様に見守るのだ。
「しかしその小さな体が持つといいけどね・・・誰も支えは居ないのかい?」
「みんな、すれ違って挨拶することも、お腹が空いて分けて欲しいと言っても相手にしてくれない。それがこの集落なのだから、仕方がない」
「生きる事を願うよ・・・」
「よければね」
そこで少女が過ぎ去ろうとすると、また別の人物が現れた。
「あんた、どこかへ向かうの?」
「石ころの続く、あの向こうの地へ」
「あそこはね、骨の塊しかない道なんだよ」
「ふん・・・、お前は行ってみたのかい?」
「行っては無いけど、聞いた話だと骨の塊しかなかったから、この集落へ帰って来たという者も居るんだ。『失うモノは何もない』って言っていた・・・」
「それならこの子はどうするんだい?私等は行く宛もないんだ。お前の住処に居させてくれるというなら話は無かったことになるね・・・」
「いいけど、あまり食料は無い。像とは異なるから、そこは我慢してくれ」
名も無き老人と少女は、ホッとする事も無くただ、付いて行くだけだった。しかしその中といったら、余りにも煤汚れていて闇夜のような場所でユラユラと赤い炎がぼやけて見えるだけで、あとは臭いというものではない知能すら失ったような所だった。
それでもその者は「住めたらいいと思うのか?」と聞き返した。何か二人に思う処が在るのかという感じで、だった。蛇の民の大半は女性だからだ。
「掃除・・・を知らないのかい?」
「小さな頃はしていた・・・だけど面倒になったんだ。誰も居ないこの場所で脳を使う事すらない。ここでそのまま寿命を迎えるのか、不思議なものだね・・・」
「これは“温かい”というの?それとも“冷たい”の?」
どういう訳か、少女には体温も温度も感じられなかった。「何故そうなったのか?」と尋ねるが、少女にとっては「焦っていては理解できない」と答える以外は出来なかったのである。集落は静かだった。唯々、自らの生活を支えるのが手一杯だったからである。
確かに木々はこの地に100本近くは生えているし、苔や緑だった色も割と“生息”している方だ。それなら「ずっと以前の眩き民に分けて貰ってはどうか?」と尋ねる者も時には居たが、蛇の民は像の民よりも歩みが遅い。
それがやがて像と蛇の間に起きる“何か”になるとは誰もが思いも寄らなかった事だ。
「我々は、木の枝も料理にすることが出来る。これの皮を炙って、それで中身を焼くことで甘みが増すんだ。その汁を吸って川は歯を丈夫にするし消化にいい」
「かつて、同じくして生命が“お腹を空かせる事は無い”ことを言い伝えられた記憶が在る。でも、今は成長するにはもっと食べなくちゃいけないんだろう?」
「わたしは汁を吸うだけでも充分、料理だと思うから大丈夫だよ」
それなら現状で大丈夫かと感じていたが、時が経つにつれ、そういう感じには成らなかったのは後の事。いずれそれが分かるなら、長い時を刻む事は無い。
――――――
「少し大きくなったね」
「ああ、確かに大きくなった」
「そう?」
3回の時が刻まれた。少女の身長は110センチに達していた。あの余りにも小さくて空しい様な知性の高さが更に増したように思う。よく汁を吸うだけで成長したモノだと、二人の女はそう感じ取れた様である。
「私は両親を知らない。確かにここで字を書いて、様々な民と交流を得た様にも感じられた。でもね、まだ物足りないの」
「言葉も少し大きく出て来たね。もしかすると大物になるかも知れないね」
「まだ旅経つには早い気がする。それほど小さくては・・・」
確かにそうだ。その体格では何かに巻き込まれてそのまま生きて居られるのか、考えられない。もう少し賑やかであればいいのだが・・・。
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