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17、王と民と


「王冠を取るがよい。大した物ではないが・・・」

神の末裔である人物から光と闇の儀式を受け王として生きる事を決意したブレトルだった。それはあの3人の翼の民とは違う存在だった。今頃は、どうしているのかと思うのだが、王となった今ではそう、気にするような様子は見せていなかった。


「王冠と言うからには、虹の鉱石を散らかせる方が綺麗だろう?よく見ろ、これはツタで編んだのだ。像の民の女たちが交互に教えられた通りに装飾を施した。だから鉄を使った痕跡が分かると思うのだが、よく似合うな・・・」


 ブレトルはフッと笑うと、それに反応するかの様に女達は楽しい気持ちになった。僅か3人で編んだそれがその王の喜びによって安堵を得られたのだった。これを“憧れ”とでも呼んだ方がいいのか、ドーグの残した人類の歴史に少し触れてみると、丁度良い言葉が思い浮かんだ。


「王よ、“好き”という言葉はご存じですか?」

「好き?それは一体何なのだ?」

「もうドーグはこの地に居ませんが、貴方ならご存じだと思って尋ねてみたのです。永遠の愛と異なる、口笛みたいなものなのですよ」

「そうなのだな、あの人の残す言葉は俺にもよく分からない部分が多いのだ・・・だから旅経つ前に少しでも話を長く聞いておいた方が良かったかも知れない、」

「いいんですよ。それも一つの文明のいしずえなんですからね・・・」


 平和とは平たいリングを示すのだとドーグは残していった。それも言葉の節々に優しさの様なものがあるのだが、ブレトルにはむず痒く感じられたようだ。屈強なる体で生きていて、皆の調和を保ってきたからこそ、平和という言葉が馴染めないで居るのだ。アキシルと闘った頃と異なる、そういう感じがするのだった。


「王よ、地脈を掘ってみては如何でしょう?もしかすると新たな文明を築けるかもしれません。もしかすると、こうして温もりを得られる事が安易になると思うのです・・・」

「俺を遠い所へ運んでくれるのか?もしかすると新たな住居でも?」

「まぁ、色んな意味で新たな住居を得られると思うのですよ、」


 ドーグの一番弟子と呼ばれるその人物はジェイルという名前を持つ人類で、像の民の中でも若い。ドーグに聞けばどうやって生きられるのか、どういう風にすれば他の場所でも相槌を打つだけで物事が理解できるのか、大人になればなるほど、時が刻まれば刻まれるほどに衝動感に打ち惹かれるのだが、ブレトルはそれを理解しているのだろうか、ジェイルは考えていた。


「生きる方法は様々だ。爺にはそれが分からなかった」

「王よ、民達を先導する立場であるのに、その様な呑気な気持ちで良いのですか?」

「変わらないんだ」

「変わらない?」

「俺の友は、太陽に焼かれて死んで逝った。それなのに不思議とその意志が理解できるのだ。俺がもし逆の立場だったなら、喜んでそれを受入れていただろう」

「王よ・・・先導とはそう容易くはないのです・・・」


 ブレトルは理解していた。何と言われても、誰かが命令したいと言ってもその意見を適当に聞いて居なければその身が持たないのに、全てを受入れろと言われるとそれは、唯の“情け”にしか成らないのだと理解して往くのだ。

 安易に受付けてしまうと同じ民でも生命として遺伝してきたのだから、同じく理解して往くこともブレトルには何となく分かっていた。


「ジェイル、王と民は平等でなければいけない。だが、生き方がそれぞれだ。違うからと言って差別してはいけない。例え、大小在ろうとも、その者達だけの価値では決め付けられない生き方があるのだ・・・これからそれを見てお前も生きろ」

「従うなと?」

「そうだ。従うだけでは無理が生じる。遊びと手加減というのはそういう意味なのだ。忘れてはいけない、例え鉄で繋がれたとしても、冷たい風が吹き突くのだとしてもだ・・・」


 選ばれたからといって、その者の価値を決めてはいけない事をブレトルは、同じ民の立場を見て育ったためにドーグとは若干異なる意見で理解していた。力があるなら、無理をさせずとも支えなければならない。力がないなら、言葉を介してでも支えなければならない。ならないからと言って、抵抗する事を拒んではいけない。

 それは人類として生きて来たからこそ、長い時を刻む者だけが理解している筈だった。ジェイルは縛りつけた文言ばかりを理解してきた。ドーグの本書は「なければならない」という意見が多かったからだ。


「民をよく見てみろ。ドーグは決めつける様な意見を言っていた訳じゃない。もし、本当に力がある者が強いなら、傷めつけてはならないのだ。よく感じろ、あの喜びは何だったのか・・・と」

「王よ、従うとは何でしょうね・・・あの子供を見ると、大人に逆らう訳でもなく自由に話をしてもよい意志になれるのですが・・・私も子供なのでしょうか?」

「変わろうとしても変われない。だから成長は楽しいのだ。変われないからと言って、命令するばかりの意見では唯の締め付けだ。それを理解しているからこそ、あの人は偉大なのだ・・・」


 仲を取り持つことなど気にしなくていい。無理にそれを乞い、生まれ変れるのなら、それはもう奴隷と変わらない。もう少し真面目に簡潔に言葉を繋げられる方が楽なのだという流れを汲まなくては、濁った水になるだけだと、ブレトルは分かっていた。

 本当に生まれ変われるのなら、アキシルの生きてきた意味は全く理解されないのだろう。


「貴方は変わった人ですね。何だかもっと楽しみ面白く生きればいい事をよく、理解していらっしゃる・・・それに、これからの文明はどの様に発展して往くのかも他の民達が理解し始めているような気にさえさせて・・・」

「向こうの赤い星へ顔を向けてみろ・・・感情が高ぶる筈だ・・・何も考えるな」

「あの、強い光が体を通していくのを感じられる・・・何ですかアレは?」

「かつてオーズという連中が居た。赤い布を持ってきた女がその連れと木に引っ掛けて遊んでいた頃だ・・・黒くにじんだのだそうだ・・・」

「他の色を混ぜたのでは?」

「変わらないのだ。そこには青い星があったのだから、特別な事はしなくても少しの言葉で変わるのだと信じて居たのが彼等4人だった・・・そこに翼の民が参加した・・・出逢った・・・そして文化・文明を広げていった・・・ドーグはそれを本書や詩へ記した・・・楽しそうにな・・・」


 民達も、何となく分かっていた。それが楽しいなら変わらなくても自ずと変わってしまう事を、よく理解しようとしていた。だからブレトルと同じ道を進もうとして楽しんできたのだ。ジェイルは少し嫉妬していた。もし自分が王なら指示をしたり、民達を動かしていただろうと。だが、ブレトルは異なる。正直なのだ。


「王よ、そろそろ新しい文明を・・・」

「ああ、そうだな。お前にも新しい文明を見せてやろう」


 民達は“にこやか”に動いていた。それはブレトルが楽しい、面白いという感覚を意図したように文明を発展させてくれた。例えば水を土に漬けると苔が増えていき、直ぐに木々が大きくなるように、自らの作った粘土を与えていった。

 その粘土には他の生命から得られた、油だったり、アカだったりするもので土を踏みつけるだけで出来るものだった。


「ジェイル、楽しそうで面白いだろう?お前もやってみろ」

「は、はい・・・」


 ジェイルはドーグと異なり、ツタで出来た靴を履いていた。それを脱ぎ笑う様に土と水を含んだ粘土を踏みつけていた。何だか笑顔になれた。眩き王と崇められたブレトルだからこそ付いてきたのだと、代わりに伝える者が居たほどだった。


――――やがてそれが名声となるまで――――


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