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16、王として


「アキシル」

「ブレトル・・・来たか・・・」


 それは何よりの挑戦だった。お互い喜ぶように民達の前で王の座を見つめ合った。そこには「王に成りたい」というより「頂点を目指したい」という意志が強かったのである。

 像の民は蛇の民と異なり、長身で屈強なる体格を持つが頭脳が明晰という所が薄い。お互いの欠点を補う様に“まっすぐ”と見つめ合うのが民の掟として重なり合ったのだ。


「ドーグが来たぞ・・・」

「彼が居なければ始まりが成らないな・・・」


 土の民の一つとして存在するドーグは王でもないが、像の民の象徴のような存在である。彼からすれば何れも王としての素質があるのだろう。その始まりの合図を出すのも彼の役目だと民達は理解しているが、ブレトルの存在によりその意見は薄れているように思われた。

 何故ならアキシルが直線的な存在だからこそ、その幅広い存在が目立つからだ。もし、アキシルが王なら覇王、ブレトルが王なら眩き王と民達で話題になって居た程に、だ。


「いよいよ始まる・・・」


 アキシルは354センチに対し、ブレトルは285センチで体格はどちらかと言えばブレトルが大きいほうである。双方ともいい勝負になるに違いなく、二人の取っ組み合いから上空の頂きまで走り駆けることが王となる為の儀式で、その先には神が居るとされているからだ。


「なぁ、ブレトルよ、この挑戦でお互いが傷付いていても立ち上がれるよな?僕と君は友達だろうからな・・・」

「ふふ、失う事はそれほど苦くも無い。お前と渡り合うその日から楽しみも面白ささえも、充分に活き立ち得ていた筈だからな・・・」

「二人とも、あの頂点にある生命の頂きを乗り越えろ。私達が築いた虹の鉱石の残り石を積み上げたあの形を奪い合うのだ・・・ゆけ!」


 二人は両手と両手を組み、お互いの肩を噛み付き合う。それは“美味しい”という感触にも似ていた。嬉しいからだ。民達はその様子を応援したり傍観ぼうかんしたりして余所見よそみさえしないで、声を挙げていた。それが“食う”というこの現状の大体だった。

 ブレトルが面白がると、アキシルは楽しんだ。まるで兄弟のように強気で勝気にも近い様子だが、周囲は理解している。それは優しさである事を。


“バリ、ガリ、ブチャアアァ―――”

「お前の肉は美味い、とても美味い・・・ガリ、ゴリ、」

「君の肉は苦くて辛い・・・モリ、だが美味しいなぁ、」


 血渋きが飛び交う。色は赤と青の混じった色である。お互いが意志と魂を噛み互い合い、距離を詰める。アキシルがニヤリと表情を歪めるとブレトルは目を尖らせた。その美味しさを味わう様にお互いの身が千切れては傷付くのに痛みさえ感じられていない。どちらかといえば再生能力が通常よりも速いという事である。


“ワーワー、ブレトル、アキシル、ヤレー!”

「ブレトル、聞こえるか?あの応援を!失うモノなど何もない事を!」

“いいぞー我々もいずれお前達の跡を継ぐ!”

「当然だ!お前との勝負は挑戦であり、潤いだ!失うモノなど何もない!」


 この様子が後の文明の形になる事は理解していない像の民であったが、まるでお互いを食い合うように見定めた。それがやがて新たなる世界線への道へ向かう事になるとは思いも寄らず、じっと見ていた。大きな者から小さき者をも見放さなかった。

 二人が王の座など、どうでもよいのに民達は王の座を選べという視線を二人に突き立てる。それなのに、仲の良い二人を見守る様に騒ぎ立て始めている。中にはお互いの肉を掴みて引っ張るような形を取るものまで居たほどに、だ。


“ググッググ・・・ブチィイイ―――!”

「なんという再生能力だ。虹の鉱石を食った訳でもないのに、薬も要らない程にまで成長を続けていたのか!?」

「安定している!なんという疲れ知らずなのだ??」


 お互いが離れると、次に石の塊を昇り始めた。その長さは114キロメートルの高さに昇る。それは人類が大きい余りに力を付けて長き時を刻み作り上げたもの。当然、崩れるような事さえ無い。息さえ乱れずに駆け上がった。

 時には食っては衝突し合うのであるが、お互いそこから飛ばされる事さえ無かった。階段を上るように交差し、離れてはくっ付く。まるで糸をじらせる様に互いを傷付けあう。


“タッ、ガシ、タッタッ、ガブッ、タ”

「ブレトル、楽しいな!こんな“愉快”な行動は初めてかも知れない、」

「俺も楽しい!だが、今の俺達は理解し合い、かつてドーグから教えてもらったように生命の誕生の途中で食い合っている、これでは文明がやがて衝突するだろう!民達を纏めるのが頂点なのだ!!」

「その通りだ!僕達が衝突するなら、やがて文化を象り合い、文明を崩し合うだろう!だがその先に新たな世界を見出す事だって出来るはずだ!!」


 お互い、王になるのに何が必要なのか理解をしている。それは民を連れて自らの意志を問われる事にもめげない強い記憶の奥底にある魂の痛みである。そこから得られるものは頂点などでなく、平坦で尖って居るわけでもないものだった。

 互いがそう確認しながらお互いを理解するのに儀式を遂げるなら、民達は黙って居られなくなるだろう。王の意見を聞き、動くならよいが・・・。


「音が変わった。もう、決着が付きそうだ・・・民達よ、称賛をするのだ!彼等を尋ねよ、そして変わるのだ!前よりも異なる文明の経緯を教え合うのだ!!」


再生能力に任せた傷付け合いにも、ようやく終わりが見えた。それはブレトルの肉体が地面に叩きつけられた時だった。アキシルは落ちることなく太陽を見つめた。その時に、民達をも疑わせるような現象が起きていた。


「見ろ、頂きが燃えている!」

「アキシルが、死んだ!!」


 ドーグは時代の王をブレトルに選んだ理由は「勝利を得る事ではない」ことを常々、民達にもアキシルにも教えていた。しかし、今回のことはアキシルの遺伝に起きた“食う”という出来事によって引き起こされた。ブレトルはそれに従ったに過ぎない。何故なら王は、民達の支えから自らの意見だけに捕らわれず、生き抜かなければならないからだ。

 王とは、迷い、時には優柔不断で誰かの知恵と重なり合わなければ成り立たない事を、翼の民を伝ってマーズがその様な存在である事を教えている。あのサンシャインの惨劇に成らないためにも、その教えは延々と伝わっていた。


「ようこそ、優柔不断なる我等の王、ブレトルよ。君こそが眩き時代の王となったよ。そして、ありがとう。私の意志を継いでくれてよい詩が書けそうだ・・・」

「ただの偶然だ。アキシルが勝とうが負けようが俺はどうでもよかったのだ。あなたの意志を受継ぐも何も、民達が楽しめればそれでよいのだ・・・」

“ワーワー、新たな王、ブレトルの誕生だ!”

“祝え、我等が王を!もうすぐ新たな文明が起きるだろう!”


* * * *


 このようにして、王とは如何なるモノかを民達は分かち合った。

 どうしてアキシルが燃えてしまったのかというと、太陽の明かりに再生能力の元となる“熱意”のような虹の鉱石の力が黒点となって最大温度に達したから、それに燃え移ったという、仕方のない様な、空しい状況で戻らぬ旅人となったからである。

 それでも充分に生きたアキシルであった。だからかブレトルは少し寂しい気がした。再び、新たな生命として別の世界線で生まれ変わるであろう・・・と。


「王様、私達は結局アキシルと共に生きては居られなかったのですね・・・」

「変化、というものだ。彼はきっと俺達、友が生きた印をあの赤い星から蒼い海を伝い、青い星へと持って行ってくれた筈だ・・・ドミテルにキュイリ―、嘆くな」


 砂が吹く。

 嵐のようであった、静かな風を呼び起こす様にお互いの歴史は短くも、長い様な時の刻みによって“王”を選んだのだった。


 その後、ドーグは次の付き人をブレトルに寄越したのだが、少々は為に成るのかと心配しながら、隠居した。

爺、ドーグ男2メートル

アキシル男354センチ

ドミテル女203センチ

キュイリ―女154センチ


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