15、赤と王と蒼
「爺、今度は蒼い海が泳いでいたよ」
「君も宇宙が好きなのだね。あの海に何があるというのか・・・私も泳いでみたいものだ・・・」
大切な時が再び刻まれようとしている。ブレトルも人であるが故に高い所が気になるようだった。人類に与えられた希望は宇宙からすれば僅かに過ぎないのに、彼にとっては大きな宝だったのである。もう間もなく彼も全長2メートルに達しようとしていた。次第に大きくなる我が子のようにドーグも見守るのだった。
「あれからアキシル達とは遊ばないのだろう?一体何が在ったか知らないが、君は興味が在れば何にでも挑戦するかのように、意見が反対になる事がある。もう少し彼等の歩調に合わせてみてはどうだね?」
「民の頂点になるのに、徒競走では駄目だろ?山登りだって簡単に出来たんだ。あまり歩調を合わせて居たら人類は置き去りになるだけだよ」
それは若き人類に“ありがち”な回答だった。何度も挑戦してはめげずに体を張るのは良いが、彼の場合はめげないが故に自らの方法を守る癖が付いていない。そんな彼の態度にドーグは心配していた。もう少し安定した教え方は無かったのか、と。
「爺、俺は思うんだ」
「何を?」
「あの赤い星の通りに海が重なり合う星々が在るなら、大変玉突きな事態が起きる様な気がして、走り駆けるだけでは追い付けそうにないんだ。もっと気が強くて面白い相手がほしいと思う、」
「それは傲慢というものだろう?今頃になって民の頂点に達したら“王”になる事よりも、皆と安定した暮らしを目指してみたいとは思わないのかな?」
「それもいいけど、俺は“あまり安定したい”と感じた事は無い。余力が楽しい方向へ進んでしまえば、もっと楽しい事が起きるに違いないと思うんだ。成長の度に」
ドーグからすると、ブレトルは少々、大きく出てしまう様子である。周りと歩調を合わせて尚且つ、暮らしを楽しめて居なければ、その頂点もやがて崩れてしまう事を鑑みた。彼が不安定な時は一体、どのような人類なら安定させられるのか、と考えたりしたものである。
余りにも“平気”過ぎる態度では纏められるモノも纏まらない様な気がして成らない。
「ブレトルよ、君の両親は別の文化に向かって行った。寂しい気持ちはわかる。だが、それに囚われてしまうと何時まで経っても成長したとは言えないだろう?あの赤の星と蒼い海から見える青い星のことをよく見てみるがいい。見た目は安定して居なくても、平坦である事には間違いないだろう?そこが君の欠点なのだ・・・」
「父と母のこと?あんまり意識した事は無いよ。俺は爺とアキシル達の様な、友のような存在なら楽しい人類になれそうな気がするんだ。寂しいとか囚われるとかあんまり、詮索するのは爺の悪い癖だと思うけど?」
言う事を聞かない子は、折角の機会を失う事を教えていた筈のドーグが、逆に話を返された。それについてブレトルは馴染めない空気を一機に馴染めるように楽しんだ。もう少しこのままの態度で見ていても問題無いだろうと判断したことが、今のドーグにとって馴染めない事なのだろうか、と疑った。
「君もいずれ神の末裔から儀式を受ける時が来る。そういう意味で折角の機会を壊さないで欲しいのだ。君は本来、王に成りたいとは思っていないのかな?」
「・・・つまらないな・・・王か、それは楽しい事なのかな?」
特に王になる事には反対的ではなさそうだ。多分、無意気にその意志を思い通りでなくとも楽しめればいいと感じている様だった。王に成れなくとも多分、彼は王に選ばれるだろうと覚えてしまうのもドーグの一つの意志であり魂に決めた、神の意志であると考えて往ける癖なのかとも・・・。
* * * *
ブレトルがやや、反抗的な様子を見せる。
更に時は刻まれた。
全長は250センチに近い。
「またアキシルと喧嘩をしたのか?」
「負けず嫌いなんだよ。だから蹴った」
ブレトルの顔にアザが出来ていた。それは痛いというよりも誇りに感じられるものだったようだ。そんな彼の成長にドーグは一つの詩を作ってみた。
“友と呼べるべき楽しみに振れた時、人類の頂は崩れ去り新たな王の道へと築かれて往くのだろう。それが例え王と言う形でなくとも、別の分類した人類に触れる事で変化をきたすに違いない”
「どうかな?これも一つの赦しだ」
「あの“跳ね言葉”と似ているね。フワっと音が鳴る度に、ヨーイドンと言ってしまう癖と変わらない・・・別の分類した人類と出逢う事があるなら、多分より、楽しい方向を見出せそうだ。爺、俺はもうすぐ成人なんだろう?」
「焦るな、まだ君は若い。両親だってまだ戻ってくる訳じゃない」
例え反抗的であっても、ドーグの言葉はブレトルに響いてしまう様だった。その楽しみについても、様々な例え方が彼には在るようで不思議と惹かれてしまう要素がある様だった。民はその習慣に楽しみを見出してしまうのだろうが、“赦し”は何時まで効果があるのだろうか、と吹いて笑ってしまう。
* * * *
その全長は285センチで言葉遣いもやや変わってきたように思う。
ドーグはその様子を見ている内に“ある”欠点を見出した。
「君は周りの意見に振り回される癖がある。本当にそれが必要だったのかも」
「そうじゃない。楽しければ何でもいい。楽しければ・・・」
「つまらない嘘を付いてはいけないよ。私も若干、時が進んでいる。万が一、私が居ない場合、君は結局何をするのだ?王に成りたいと言ったり、他の文化と結び付きたいと言ったり、余りにも雑ではないか・・・」
赤い星は時に感情的な痛みを与える。
対して青い星は静かな痛みを与える。
その時の進み具合によって、民達にも焦りや楽しみ、悲しみや憂い時がやって来る。もう少し平坦で在ってもいいのではないかと、考えてしまうドーグだった。間もなく、人類の造った暖炉の上に焚火が燃え盛る時だというのに、彼は静かにそれ等の様子を見つめるだけだった。
「爺、間もなくだ。俺があなたの指導に従うのも暫くは必要なさそうだ」
「ブレトル、大きくなってきた。私の意見は思えばあまり役に立ちそうにないが、だいぶ、身に付いている様にも感じ取れる。特に“遊び”と“手加減”というものに」
「そうか?俺が引き受けたのは、単なる遊びと手加減ではないよ。もっと大事で大切な思い出だろう?」
別れの様な雰囲気を与えるブレトルとドーグ。まるでそれは親子の様な簡単な言葉で収まらない様である。血の繋がりが無いのではなく、元々が一つだった。それがようやく意思疎通という形で整おうとしていた。そんな時だった―――、
「ブレトル、」
「ドミテルにキュイリ―ではないか、どうかしたのか?」
「アキシルが人を食い始めた!」
「爺、原始が再び活動を始めた様だ。あの赤い星に影響されたのかもな」
「君も落着いて居られる様になったのだな」
「やがて食い合う事もあるのだ。仕方ない」
「食う」それは、“競争”という意味だった。




