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【書籍化決定】追放された黒剣士は白聖女と辺境でのんびり暮らしたい。~え? 聖女と一緒に戻ってきてほしいって? もう遅い~  作者: 九条蓮


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番外編︎ 絶望の襲来③

「仕方ない……本気でやるぞ。〈共鳴スキル〉だ」


 ユリウスは奥歯を噛みしめながら、悔しげに呟いた。


(まあ、仕方ないわよね)


 エレナは内心で呟き、頷いた。

〈共鳴スキル〉は威力が絶大な分、要する魔力も多い。本来ならば、もっと深層に進んだ時の為に、切り札として温存しておきたいというのが本音だった。

 しかも、〈共鳴スキル〉の根源は仲間同士の信頼関係だ。信頼関係が深い仲間であれば回数の制限もないのだが、エレナたちとユリウスとの信頼関係はそこまで深くはない。一日に使える回数は、限られていた。

 だが、もう背に腹は変えられなかった。スカルハウンド・ロードの咆哮は未だに空間を震わせており、その呪炎が生み出す圧倒的な敵意と呪力が、エレナたちの精神力をすり減らしていく。このまま戦ったところで、ジリ貧だ。

 ユリウスが振り返り、短く叫んだ。


「ガロ、時間を稼いでくれ!」

「任せてくだせぇ!」


 ガロが応え、その場から跳び出した。

 巨躯に見合った勢いでスカルハウンド・ロードに突進し、注意を一身に引きつける。

 その姿を確認しながら、ユリウスはエレナ、フランと三角形の陣を形成した。


「どのスキルでいく?」

「僕の〈剣撃集中〉、フランの〈身体強化〉とエレナの〈魔力強化〉でいこう」

「それが妥当ね」


 三人は頷き合い、それぞれ魔力を解放した。エレナたちの身体が、一斉にオーラを纏っていく。赤色、青色、緑色とそれぞれ異なる色のオーラを放ち、三人の魔力がそれぞれの中心核から外へ広がる。三色のオーラが空中で重なり合い、微細な共鳴音を響かせながら輝きを増していき──〈共鳴スキル〉が発動しようとしたその刹那。

 スカルハウンド・ロードが口を開くと、その喉奥から緑色の灼熱が迸った。

 黒焦げた骨の尾が地を打ち鳴らすと、緑炎が咆哮と共に前方へと放たれる。


「ぐっ、やべぇ……ッ」


 ガロが防ごうと斧を構えるが、間に合わなかった。

 緑炎が、彼の全身を覆う。


「ぐああああああああああッ!」


 悲鳴と共に、ガロの巨体が地面に転がった。 

 皮膚が爛れ、肉が焼け焦げていく。毒の炎だ。見るに堪えない損傷だった。


「ガロ、大丈夫!?」

「おいフラン、集中を切らすな!」

「もう無理よ!」


 エレナは〈共鳴スキル〉を中断し、すぐさま〈魔力障壁(マジックシールド)〉を展開した。

 スカルハウンド・ドッグの毒炎がこちらに吐きつけられていたのだ。三人を繋いでいた術式が、一気に霧散してしまう。〈共鳴スキル〉は失敗に終わってしまった。


「ユリウス、ガロを助けて!︎死んでしまうわ!」

「くそぉ……役立たずの木偶の坊めぇ!!」


 ユリウスの罵声が響いた。

 エレナの胸に、抑え切れない苛立ちが湧き上がる。


(ロイドなら、こんなことにならなかった。ちゃんとここで敵を引き付けて、時間を稼いでくれていたのに……!)


 しかし、怒っている暇などない。エレナは即座に詠唱を始め、ユリウスがスカルハウンド・ロードの前に立った。その隙に、フランがガロの元へ走る。

 が、しかし──

 スカルハウンド・ロードの咆哮が、再び響き渡った。


「こ、今度は何よ!?」

「おい、奴の足元を見ろ!︎なんか出てきたぞ!?」


 ユリウスの言葉にハッとしてスカルハウンド・ロードの足元を見ると、瘴気が渦を巻いていた。そして、小型のスケルトン・ウルフが三体、瘴気から滲み出るように現れる。

 スカルハウンドはフランの方をちらり見て、ひと吠えした。すぐさま、三匹のスケルトン・ウルフが駆け出す。

 狙いは明確──フランだ。


「こんの……ふざけんな!」


 咄嗟に雷撃の魔法を放ったエレナだが、一体しか動きを止められなかった。エレナは叫んだ。


「フラン、逃げて!」

「えっ──きゃあああっ!」


 エレナの警告も間に合わず、 残りの二体がフランの肩と脇腹に噛み付いた。

 フランが地面に倒れ込む。


「このぉ……離れろ!」


 ユリウスが剣を振り回し、スケルトン・ウルフたちを追い払う。


「フラン、大丈夫!?」

「ううん……あんま大丈夫、じゃない、かも」


 駆け寄ったエレナに、フランは苦い笑みを浮かべてみせた。

 命に別状はなさそうだが、傷は浅くはなさそうだ。すぐ近くには、全身に火傷を負ったガロもいる。

 魔法も物理攻撃も通じないし、切り札も不発。 戦況は、最悪だ。


(もう無理よ。ユリウスの指示なんて待ってられないわ)


 エレナは奥歯を噛みしめながら、詠唱を繰り出した。


「万象の根源、(あまね)く力……全てを燃やし、視界を断て。──〈災灼爆裂(マインドブラスト)〉!」


 灼熱の閃光がダンジョンの通路を覆い、視界が一瞬、白く染まる。


「おい、エレナ!?︎ 勝手に何をしてるんだ!」

「何もクソも、逃げんのよ! どう考えても不利なのは、あなたにもわかるでしょ!?」

「そ、それは……くそぉ! レッドドラゴンを倒した僕らが、こんな雑魚犬相手に逃げるだとォ!?」

「死んだら元も子もないわ! 早くガロを私のところまで連れてきて!」


 渋々従ったユリウスが、ガロを肩で担いでエレナの元へ来た。

 どうやら、納得してくれたらしい。これでもごねるようならフランだけ連れて逃げ帰るつもりだったので、内心ホッとした。


「万象の根源、(あまね)く力……我らを外界へ。──〈帰還転移(ララムール)〉!」


 エレナは即座に全員の身体に逃走用の術式を組み込むと、詠唱を完了させた。

 光がエレナたちを包み込み、四人の姿がふっとその場から消える。そして……次の瞬間には、四人はダンジョンの入口へと転移していた。

 ダンジョンから脱出する帰還魔法のひとつだ。緊急脱出時に使う魔法だが、実際に使ったのは初めてだった。

 全員が地面に膝をつき、呼吸を荒げる。


(た、助かった……)


 本当に死ぬかと思った。レッドドラゴンよりも弱いはずなのに、あの時よりも酷い絶望感だ。


「あっ……ガロを早く治してあげなきゃ」


 フランは息付く暇もなく、すぐさまガロに回復魔法をかけていた。自分の怪我から治せばいいのに、とエレナは思ったが、より重傷な方を優先して治したいとするのが彼女の信念だ。


「やっぱり……ロイドをクビにしたの、間違いだったんじゃない?」


 フランは血の滲む自身の脇腹を押さえつつ、そう呟いた。


「私も、そう思う」


 その言葉に、エレナもゆっくりと頷いた。

 前衛のガロはこの様で、切り札の発動もままならないのであれば、反論の余地はない。明らかに、ロイドがいた頃より、パーティーは弱くなっていた。

 しかし、その言葉に納得しないのは、もちろんユリウスだ。


「そんなわけあるか! あいつは……何の役にも立たないお荷物だろ!?︎僕らの邪魔でしかなかった。そうに……決まってる!」


 そう怒鳴るユリウスを横目に、エレナはフランと顔を見合わせた。その顔には、不信の色が露わになっている。きっと、エレナも同じような表情をしているだろう。

 今このパーティーの一番の危険因子は、目の前の勇者その人かもしれない──ふたりの間には、そんな暗黙の同意があったように思う。



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