表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ドラゴン村で育った人間は当然の如く常識外れだった  作者: 農民ヤズー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/125

敗者の扱い

 

「バカがっ。俺達が奴らを利用するために~、なんて……てめえ本気で言ってんのか? だとしたら、やっぱりてめえはくそったれだ。あたしらの生き方を忘れちまってるんだからな! 戦いのために別の誰かを利用するなんざ、戦士のすることじゃねえだろうが!」


 エラ・リラの言葉はきれいごとだ。

 戦いのために誰かを利用するのは戦士の行いじゃない。その理屈も気持ちも理解できる。


 でも、戦争なんだ。負けたら自分達の全てを奪われるとなれば、きれいごとだけではやっていけないと判断するのも仕方ないだろう。利用できるものは何でも利用し、取り入れることができる何かがあるなら貪欲に取り入れていく。

 その行いはきっと正しい。バルザックの言葉は間違っていないんだろうと思う。


 けど、戦いに勝ったところで誇りを失ったら意味がないとも思うんだ。


 誇りを捨てて守れるものもあるだろう。それでよかったんだと言う者もいるだろう。

 どちらが正しいとは言わないさ。多分どっちも正しいんだから。


 でも、少なくとも誇りを捨てた時点でその人生はくだらないものになるのは間違いない。


「力が増したあ? 他人に頼ったことで手に入れた力なんざ、いざって時にはクソの役にも立たねえ借り物だ。戦士なら自分自身の力で強さを手に入れろってんだ」

「だが、それはお前たちも同じじゃないのか? そこの人間。そいつがいるということは、お前たちも人間の力を借りようとしているはずだ。でなければ、人間が自由に動ける状況をお前が認めるわけがないんだからな!」


 ああ……まあそうだよな。今までいなかった〝人間〟がそばにいるとなれば、その人間から何かを取り入れようとしていると考えるものだろう。バルザック達みたいに、自分達が人間から知識や文化を取り入れているとなれば尚更そう考えるはずだ。


 実際、それは完全な間違いというわけでもない。俺達だって、村の人達に色々と教えたり、一緒に建物を作ったりしているんだし。


 ただ、表面上は同じように見えてもその本質はまるっきり違う。


「バカ言え。余所者が自由にあたしらの縄張りを動き回る事なんざ認めるわけねえだろうがよ」

「ならそいつは……」

「こいつはあたしらの新しい主だ」

「は……?」


 新しい主。その言葉を聞き、バルザックは間の抜けた声を漏らし、呆けた顔で俺のことを見ている。まあ、そう言いたくなる気持ちもわかるよ。人間と協力じゃなくて、人間に支配されていると聞かされれば、そうなるだろうさ。


「どうせてめえらもあたしが負けて主の座を奪われたからってんで来たんだろ? それは間違いんねえよ。あたしは負けた。この人間にな」

「……は。単なるうわさや勘違いだと思っていたが、これは傑作だ! つまりお前は、お前たちは! 人間に支配されることになったわけだ! 戦士の生きざまを語っておいて、人間との繋がりをバカにしておいて、その人間に負けるなんてな!」


 エラ・リラが俺に負けたのだと理解するなり、バルザックは俺達のことを嘲るように大声で笑い始め、それに同調するようにバルザックの率いていた者達……多分獣人なんだろうが、そいつらも笑い始めた。


 そう思うのも理解できるけど……気に入らないな。


「相手がどんな種族であろうと、負けたのならば従わなくてはならない。それが戦士の生きざまで、誇りだ。あたしが負けたのはあたしが弱かっただけで、あたしはそのことを受け入れている。てめえと違ってな」


 笑われても憤ることなく、むしろ誇らしいことだとでも言わんばかりの表情で言ってのけたエラ・リラを見て、バルザックは笑いを止めると忌々し気にエラ・リラのことを睨みつけた。


「……なら、今度は俺達がお前達を倒して従えるとしよう!」


 バルザックが叫びながらハルバートを掲げると、後ろにいた獣人の兵士達……騎馬に乗っているから騎士なのか? ……兵士でいいか。騎士だとなんだかもったいない気がするし。まあその兵士たちが同じように叫びながらそれぞれ武器を掲げ、敵意をみなぎらせてきた。どうやらこれから攻撃を仕掛けてくるようだけど、多分突撃だろう。

 それが一番効率的な攻撃だってのは分かってるんだけど……やっぱりなんとも人間臭い奴らだ。


「主」

「ああ、もういいのか? なんだか話し込んでたからとりあえず手は出さずにいたけど」

「いい。あいつらはもう戦士じゃない。ただの蛮族だ」


 蛮族ね……

 俺からすればエラ・リラたちも似たようなものだけど、彼女の中では決定的に何かが違うんだろうな。

 その何かというのが何なのか、獣人じゃない俺には正確なところはわからない。けど……たぶん、誇りって奴だろう。


「その新しい主とやらの力を見せてもらおうか!」

「爪や牙だと強過ぎるか……角……も、ダメだな。一か所にまとめて全滅させられるけど、それだと殺すことになる。なら……」


 攻撃を仕掛けてきたルガールの一団だけど、正直なところ脅威を感じない。一人一人から感じる気配はエラ・リラに遠く及ばないし、多分あの中で一番強いバルザックもエラ・リラほどではない。

 つまり、思いっきり攻撃をしたら全員殺すことになってしまう。できる事ならそれは避けたいんだよね。でもじゃあどうするかっていうのが悩みどころなんだけど……


「なにを呟いている! お前がエラ・リラに勝ったというのなら! 少しはその力を見せてみろ!」

「力を見せたら殺しちゃうから考えてるのに……まあ、尾でいいか」


 爪で切り裂くのではなく、牙で貫くのでもない。ただ力の塊を叩き付けて吹っ飛ばすだけだから、思いっきり殴られたのと変わらないだろう。多分。

 それでさえも力の加減をしないといけないだろうけど、他よりは殺しづらいはずだ。


「ぶげあっ!?」


 接近し、今にも攻撃を仕掛けようと武器を掲げた直後、準備していた〝尾〟を叩き付け、正面にいたすべての敵を薙ぎ払う。

 それだけで、たったの一撃だけでこのくだらない戦いは終わった。


 ……あ、いや。まだ終わってないか。どうやら吹っ飛ばされはしたものの、バルザックだけは何とか立ち上がることができているようだ。

 とはいえふらついているし、このまま戦いを続けることは無理というものだろう。


「加減した尾すら受け止めきれないなら、そもそも戦いの場に立つべきじゃないよ。出直した方がいいんじゃない?」


 一発で兵士たちが全員動けなくなるのは予想外だった。俺の予想では、吹っ飛ばされはしても今のバルザックのように何とか立てる程度になるはずだったのに。

 これは俺が敵の戦闘力を見誤ったのがいけないのか、敵が弱すぎるのがいけないのか……どっちなんだろうな?


「戦いを挑んだ時点で出直すことはできないぞ。それは逃走だからな。負けを認めることになる」

「なるほど。そうなると隷属することになるのか。拒否すれば戦士の誇りを傷つけることになる、と」


 もっとも、人間と協力し、人間を利用していると公言している戦士だ。既に戦士としての誇りを傷つけているわけだし、今更戦士の誇りを気にするかは微妙なところじゃないかな。


「まあなんにしても、敵は倒すことができたんだし俺達にとっては良いことしかないな」


 もしかしたら戦士の誇りを無視してでも逃げ出す人もいるかもしれないけど、全員じゃないはずだ。となると、俺が勝ったわけだしここにいる兵士たちは俺達のいうことを聞く必要があることになる。つまり、ていのいい労働力をゲットしたというわけだ。


「そうだな。これで下僕が手に入ったぞ!」

「下僕って……せめて手下とか配下にしようよ」


 あんまりにもあんまりなエラ・リラの言葉に呆れながら苦言を呈したけど、多分聞き入れてもらえないんだろうな。


 なんて思っていたのだが、違った。俺の言葉が受け入れられなかったのはその通りだけど、その受け入れられなかった理由が俺の考えていたものとは違ったんだ。


「だが、最初から恭順を示した者と敵対していた者を同列に扱うのは恭順した者の覚悟を蔑ろにすることになるじゃないか」

「恭順した者の覚悟……」

「そうだ。あの村の者たちは……まあバカなのが何人かいたが、それだってあくまでも一部のバカが腕試しをしたんであって、村そのものが敵対したわけじゃない。けど、そう決めるまでに悩んだこともあるはずだ。というかある。あたしはその悩んでる場所で一緒に話してたんだからな。恭順して今の暮らしが守られるのか、今よりも苦しいことにならないか。恭順したとしても他の部族や魔物に負けるようでは下につく利がないどころか、人間の下についたのだと悪名が広がる。いっそのこと村人全員で挑んでも良いんじゃないか。そんなことを話した。それでもあの村の奴らは主の下につくことにしたんだ。なら、その覚悟や決断を蔑ろにしてはならないだろ」

「決断することの覚悟か……確かに、そうだな」


 いつになく真剣な眼差しでかけられたエラ・リラの諭すような言葉。

 多分それは、俺のような血筋だけで何の覚悟もない王族もどきとは違い、本物の王族として生きる覚悟をしているからこその言葉なんだろう。その言葉には自然と納得させられるだけの力があった。


「あとで立場を変えるとしても、最初は下僕や奴隷でいいんだ。少なくとも、あたしたちはそうして来た」

「……あいつらの扱いをどうするかは後で考えるとして、まずは話を聞いておくか。どこから来たのか、誰からの指示なのか、他のどれくらい敵がいるのか。そういうのがわかればいろいろと楽になるだろうし」

「そうだな。さすがにあたしじゃこいつらの事情まで分からないからな」

「悪いんだけど、ライラを呼んできてくれないか?」

「わかった。ちょっとまってろ!」


 まだこれですべてが終わったわけじゃないだろう。まだこれからも戦いがあるはずだ。

 でも、ひとまずは落ち着いたと言っても良いんじゃないだろうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ