手っ取り早く集める方法
「そうね……それじゃあ、村の人達と手合わせでもしたらどうかしら?」
「手合わせ? ……なんか暇つぶしにはなる事を教えてあしらおうとしてないか?」
「そんなことないわ。手合わせも必要なことよ。それも、あなたにしかできない事」
俺にしかできない事ねぇ……武力さえあればライラでもエラ・リラでもできると思うけど。まあライラは忙しくてそんなことをしている暇はないのは分かってるけどさ。
「あの村はあなたの傘下に入ったわけだけど、それでも完全にあなたのことを信頼しているわけじゃないわ。一番近い者たちの忠誠を集めてまとめておくというのは、組織が大きくなることを考えると大事なことよ。そして獣人にとって一番大事なのは武力で、一番まとめる方法に適しているのは武力を見せつける事。だからあなたが村で手合わせをして力を見せつけるのは、彼らを纏めるためには一番良い手なのよ」
「なるほどなぁ」
つまり心から忠誠を誓う手下を作るために、何度も叩きのめせと。随分乱暴だけど、多分獣人相手だと正しい判断何だろうとは思う。
「それに、彼らは戦う力が少ないから周囲の敵から押されると言っていたけれど、戦う者がいないわけじゃないわ。あなたとの手合わせてその者たちが強くなれば、それは将来的に役に立つんじゃないかしら?」
「……そうだなぁ。俺がいなくても纏め終わった後はリラが守るって言ってたけど、一人で全部を守ることなんてできないだろうし、他の戦力は少しでも強い方がいいよな」
そのうち俺はこの場所を離れるわけだけど、その時に敵が襲ってきたらどうするんだという問題は最初から分かっていた。
その対策として、今まではバラバラに住んでいた村を一つにまとめて町にする方法をエラ・リラは取ろうとしたが、今までは失敗して来たらしい。
今まではエラ・リラが周囲の村々の主だったし、命令することもできた。でもエラ・リラは強いし主ではあるけど、村一番の強さを持っている者ならばある程度追いすがることができる程度の強さしかないらしい。
それだといろんな考え、習慣を持つ複数の種族を同じ場所でまとめるのは不可能だそうだ。
主の意見は聞く。でも不満があれば集めたところでそのうちまたバラけてしまうそうだ。主から逃げるのではなく、命令を聞いている範囲で〝集団〟から〝個の集まり〟へと変わってしまうらしい。
それを防ぐためには、多少強い程度では陰すら踏めない程の武力の持ち主がいる必要があるそうだ。その力を求心力に変えて統治するんだとか。
実際、エラ・リラが町づくりを提案した時にはすべての村が渋々いうことを聞いてやってもいい、みたいな態度だったとか。
そのまま実行したところで遠くないうちに破綻することが見えていたので実行はせず、代わりに自分以上の圧倒的な強者を探す、あるいは自分が大きな勢力を作り、それをもって説得をする、あるいは別の方法で村々を守るつもりだったらしい。
ちなみに、一応存在している首都はちゃんとした街だし、王様が統治しているが、それは比較的に社交性のある種族が多かったり、各種族ごとにある昔からの習慣というのがすでに街での暮らしのものに染まっているから何とか成り立っているそうだ。つまり時間が解決したというわけだ。
「わかった。じゃあちょっと手合わせに行ってくる」
「ええ、分かったわ」
そうして俺は一度大きく溜息を吐いてから村人たちのまとめ役を任せているエラ・リラのところへと向かうことにした。
――◆◇◆◇――
「――というわけで手合わせに来たんだけど……大丈夫そうか?」
「本当か! すごく助かる!」
「そんなにか……」
さっきのライラとの話を伝えたんだけど、殊の外喜んでいるようで結構驚いている。そんなに驚くようなことなんだろうか? 獣人ってもっと普通に戦っているイメージ……というか実際普通にその辺で戦ってるのに。
「主が直接手合わせをしてくれるというのは、群れにとって光栄なことなんだ。戦う機会があるということは強くなる機会があるということだし、自分が主になる機会が増えるということでもあるからな。それに、負けたとしても自分たちの主は凄いんだと再認識する機会にもなる。主の立場を失うことを恐れて数年に一度しか戦う機会を作らない臆病者もいるが、そういう奴は群れからの信頼が弱まるんだ」
「群れ……とうとう部下ですらなくなったか」
部下とか家臣の方が……いやまあ、いいけどさ。なんだかなぁ。
まあ、言いたいことは分かった。王様が直接表に出てきて何かをする場面は珍しい、ってわけだ。
その考えは理解できる。話し合い程度ならまだしも、一兵士との訓練に王様が出ていくことはないだろう。
でも、王様って言っても実際に国の王をやってるわけじゃないし、あくまでも比喩表現でしかない。実際のところは単なるまとめ役程度なものなんだから、稽古相手くらいしてもいいだろう。
「それで手合わせについてだが……」
「ああ、うん。どうすればいい? 告知でもしてやりたいやつを集めるか?」
「いや、そんな面倒なことをする必要はないさ。もっと手っ取り早い方法がある」
「そうなのか? なら――!」
そうしよう、と言おうとした瞬間、突然エラ・リラが殴り掛かって来た。こいつ……いったい何のつもりだ? 自分に勝手主となった者には逆らわないんじゃなかったのか?
「あたしと主が戦ってればどうせ人が集まるんだ! 人を集めるんだったらそれで十分だろうがっ!」
そりゃあそうかもしれないけど……
確かに俺とエラ・リラが戦っていたらそれなりに騒ぎになるし、何事かと確認しようとしてくる奴も出てくるだろう。今から宣伝するよりも手っ取り早く人を集めることができるのは間違いない。
「だからっていきなり襲い掛かってくるんじゃねえよ!」
「戦士は常に戦いの中に身を置いているんだ。だったらいつ仕掛けても準備できてるってことだろ!」
「そりゃあお前たちの理屈だろ!?」
お前達の主……まとめ役になる事は構わない。そこに関してはもう文句は言わないさ。でも、こっちは人間なんだ。ドラゴンであるつもりはあるけど、戦士であるつもりはない。そんな俺に戦士の道理で戦いを仕掛けてこないでほしい。
「そのうちもう一度戦いたいと思ってたんだ。船の上じゃあわけのわからずに負けたからな! 陸で挑んだ時は戦いにすらならなかった。それどころか、戦う前にあたしから諦めちまった。情けねえことにな。それくらいの差があったってのは分かってっけど、それでもいろんな思いがぐちゃぐちゃしたままなのは変わらねえ。かといって、また挑んだところで何もできずに負けるだけだ。――けどっ!」
全身から闘気をみなぎらせながら腰を落として拳を半端に開いて構えをとる。エラ・リラの構えからは、人というよりも獣の理とでも言うべき気配が感じられた。そして多分それは間違いじゃないんだろう。獰猛な表情は喜んでいるのだろうが、今にも襲い掛かってきそうな獣とそっくりだ。
「これは手合わせだ。主から群れの戦士に与える施しの戦いだ。なら最初から叩き潰すなんてことはしないだろ!」
それは、まあ……そうなるのか。適当に戦っておけばいいと思ったけど、鍛える目的もあるんだったらただ単純に叩き潰すんじゃなくて、ほどほどに加減して〝勝負〟を成立させる必要がある。
「加減された状態で勝っても誇れねえけど、それでもあたしが納得することはできる! だから……」
言葉を止めたエラ・リラは、ぐっと足に力を込めて一層体をかがませると、直後足元の地面を爆ぜさせながら跳び出した。
「死ねやくそったれがああああっ!」




