ぶっちゃけ暇なんだ
数日後。最初の村以外にも、周囲の村をめぐって威圧と拳で説得した結果、今では周辺にあるすべての村を指揮下……いや、支配下に置くことができた。……支配下なんて言いたくないけど、そういうのが正しいんだからここの常識はどうなっているんだか。
「――それで、今どれくらい集まったんだ?」
ただ、村をめぐって反論のある者たちを殴り倒したところで、その日のうちすぐに村を移動できるわけじゃない。家財の移動もあるし、そもそも引っ越し先の家がない。畑だって移動させることなんてできないし、見捨てることもできない。畑を捨てたらその分の食糧に困るようになるわけだしな。
そこで、村を完全に移動させるのは年単位で時間をかけて行えばいいことで、今は特に移動させても問題ない程度の人数だけ先にこの村に集まることとなった。
……なんて、そんな感じでもっともらしいことを言っていたけど、結局のところ俺を信用することができなかった、というのが大きな理由だろうとエラ・リラは言っていた。何せ獣人は家なんてなくても問題ないらしいし。
人を送るのは最低限にして、様子を見つつ判断を先延ばしにしようってことなんだろう。
だが、その限られた人数もまだこの村に全員集まったわけではなかった。
「どれくらいも何も、まだ数日しか経ってないじゃない。伝令役が他の村に行って話を通してる最中よ。村としてもそんなにすぐに決められることじゃないでしょうし、こればっかりは仕方ないわね」
「でもさ、一応主であるリラの指示なんだし、従順ならこっちに来るもんなんじゃないのか? 仮に俺が新しい主となったことでリラの言葉に従う必要はないと判断したとしても、主になった俺の指示なんだからどっちみち来るしかないだろ」
移動自体は一日もあれば来れるんだし、この村に集まるのだって、すぐに移動することのできる者達だけを選んだはずだ。いやまあ俺が直接選んだんじゃなくて選ぶように指示を出しただけだから実際のところはどうなのか知らないけど。
「そうかもしれないけれど、でもあなたも見たでしょう? というか、体験したじゃない。新しい主が生まれたからって、すぐに言うことを聞くかどうかは別ということよ」
まあね。力でねじ伏せていうことを聞かせようとしても、表面上は確かに支配下に入るし、言うことも聞く。でも本心では完全に従っていないことがありありと分かる目つき顔つきの奴らがたくさんいた。俺に最初に殴り掛かってきた奴もそうだ。
獣人のルールに従って逆らうつもりはないんだろうけど、信用、信頼できる相手かって言ったら、そんなことはない。どうやら思っていたよりも獣人ってのも面倒な種族のようだ。半端に人間の成分が入っているからだろうか? これなら言葉を理解できる獣の方が信じられるかもしれない。
「助けを求めてるくせに、助けてやるって言ってるのに従わないってどうなんだろうな?」
話をしに行った結果、どの村も外敵の脅威を感じていたようだ。エラ・リラがいる国と対立している別の国がこのあたりを狙っているようで、各村々は襲われてもおかしくない状況だったとか。
だからこの村に集まって村を大きくして守りを固める、というのは有難いことではあるらしい。
だけど、そのトップが人間となると素直に従えない気持ちがあるんだとか。だからその話をした時に俺のことを認めないと言って襲い掛かって来た奴がどの村にもいた。
助けを求めていたから助けてやると言って、利益を提示したのに、それでも襲い掛かってくるってどうなんだろうな?
最終的に殴り飛ばして従わせたからもうそのことに関しては良いんだけどさ。
「仕方ないでしょうね。いきなり自分とは違う種族の者が主になったから従えと言われても困惑するに決まってるもの」
……俺は別に別の種族が統治することになっても文句を言わないけどなぁ。まあ、その統治者が真っ当に行動している間は、だけどさ。そもそもからして育ての親が同族じゃないわけだし、種族云々で何かを言うのは馬鹿らしいと思っている。
「……気長に待つしかないかぁ」
従うことになっても反感はある。命令は聞くけど多少の抵抗もする。
……結局獣人も人間も変わらないんだなぁ、ということを実感せざるを得ないな。
「そうね。それに、正直なところいきなり来られても困る、というのが私たちの考えよ。住居や食料はどうにかなるけれど、それ以外にも地形の把握に港の設計、建設計画に村の維持、防衛も考えないといけないもの」
「やっぱりそれ、俺も手伝った方がいいんじゃないのか?」
「いいわよ。というか、むしろ手伝わないでほしいわね」
ライラは俺が村を回っている間にも船にいた者たちや、最初の村の人達と話し合ってこれからの活動について考え、現在はその計画のために動いているんだけど、俺には何も手伝わせてくれない。
そりゃあ俺が手伝ったところで役に立てないだろうけどさ。
けど、そうやってはっきり言われると、何だろう。……なんか悲しい。
「……そっか」
「ああっ! 別にあれよ? あなたが役に立たないとか思ってるわけじゃないわよ? ここでのあなたの役割を考えると、手伝うと面倒なことが起こるってだけだもの」
俺の役割か……。分かっている。俺は今の自分の役割、立場を気に入っているわけじゃないけど、それでも俺はここのトップ……王様だ。実際に国の王という意味ではないけど、それでも俺に従っている者達を率いる立場にいる、というのは間違いない。
そんな俺が、みんなに混じって作業をしてもいいのかと言ったら、良くない。俺は王様として獣人たちの象徴として存在しているべき……らしい。
「でも、ライラたちが動いてるのに何もしないってのはなんだか落ち着かないというか、心に来るんだけど」
獣人たちの象徴って言っても俺獣人じゃないし、仮に獣人だったとしても何もやる事ないし。ぶっちゃけると暇すぎるんだ。




