やっておいて損はないらしい
村のトップだったエラ・リラを倒した俺が今度は村の新しいトップ、ということになったことで話し合い自体はスムーズに進んだ。まあ、話し合いというか王様からの命令って感じだったけど、一応はこっちの意見と向こうの意見をすり合わせて今後を決めることはできた。はずだ。
「……」
「なにそんなにむくれてるの? あの話し合いの結果じゃ嫌だったかしら?」
「……嫌か嫌じゃないかで言ったら、嫌に決まってるだろ」
「なら今から戻って話直す?」
「……はあ。いいよ。俺だって、あの方法が一番効率的だってのは分かってるんだし」
今の俺達は一旦村から離れて船へと戻っているわけだが、その道中のライラとの会話がこれだ。
さっきまで村でしていた話し合い。その結果として、港を建設するための村人の協力の確約を手に入れることができた。
でも、こっちの負担も出てくることとなったのだ。
「村をなくせば食料や薬草の確保が難しくなるから、それじゃあ村は立ち行かなくなる。かといってあの村の人員を分けただけでは港が完成するまでどれくらい年月がかかるかわからない。まあ、真っ当な話よね。もともと存在している港に移住しろってわけじゃないのだから」
村の者達としては、自分たちの暮らしを守る必要があるから全員が港の建設に当たるわけにはいかない。だから村の維持が可能な範囲で人手を出すことになり、足りない資材や人員はこっちから出すことで港の建設を早めればいいとなったわけだ。
その事は理解できるし、それでも十分港の建設計画を立てられたからその点に関しては問題ない。
だが、もう一点。こっちの負担というか俺の負担というか……あの村の主としての役割を求められたのが問題だ。
あの村の主としての役割……エラ・リラが俺に求めたもので、つまりは武力の行使だ。
「分かってるよ。でもさぁ、だからって俺が〝主〟として周囲の村をまとめろってのもおかしくないか? 俺達この場所にずっといるわけじゃないんだぞ?」
武力をもって周囲の村を纏めて一つの勢力を築き、よその村だか集落だかの勢力が襲ってこないようにしてほしいとのことだ。要はあの村でやったように他の村に殴り込みに行け、ということらしい。……道場破りか何かかな?
何度も言っているが、俺はこの大陸にずっと残り続けるわけじゃない。それなのに周囲の村に殴り込みをかけて無理やりまとめるなんて、それでいいのか? あとで問題が出てきそうなもんなんだけどな……
「その代わりにエラ・リラが残るじゃない。いくつもの小さな村では彼女一人で守り切れないでしょうけれど、一つの大きな村……いえ、町になれば彼女以外の戦力も出てくるわ。それならただの村よりは守りが固くなるでしょうね。周囲の村も状況は厳しいみたいだから、一所にまとめて守りを固めて、というのは合理的な考えね」
それは理解できるよ。一つの村に戦士が十人いたとして、戦士が十人いないと対処できないような敵が二体も来ればそれでおしまいだ。でも村が十個集まれば、単純に戦士は百人になる。十人がかりの敵が二体でも三体でも余裕をもって倒すことができるんだから、いくつかの村が合併して町を作るのは合理的だと言えるだろう。
「で、そのうちの何割かを港づくりに、か……。まあそうだな。合理的だしそうすべきだってのは分かるけどさぁ。だからってここに残らない俺がトップなのはどうなんだ?」
問題はその町のまとめ役がこの場所から離れることが決まっている人間、ということだ。
「大丈夫よ。一度勝てばそれ以降はおとなしく従うのだから、そんなに心配することはないわ。本人がいなくても反乱なんかは起こらないでしょうね。……まあ数年に一度は訪れないといけないでしょうけれど、王族として城に閉じ込められているだけよりはマシじゃないかしら?」
「閉じ込められるって……」
なんとも不穏な話だな。俺って別に犯罪者ってわけじゃないんだけど、閉じ込められるってなんだよ。
だが、呆れている俺を見てライラは真剣な表情になっている。
どうやら今の話、俺は冗談や誇張した脅しのようなものだと思っていたけど、もしかしたらライラは本気で言っているのかもしれない。
「真面目な話をするとね、これは貴方にとってもいい話なのよ。今後国に戻って王族として生活していくのであれば、あなたは様々な悪意に曝されるわ。他の王族や貴族からすれば、突然現れた王の子供なんて厄介ごとの種、あるいは邪魔者でしかないもの。貿易の話が整ったとしても、その成果を認めず、あるいは成果を奪い、あなたを動けないように城に縛り付けようとすることも十分に考えられるわ」
……まあ、そうか。そうだよな。親としては子供のことを愛していたかもしれない。でも、周りからすれば厄介な存在だろう。次期国王に取り入ろうとしている者達、あるいは自分の支援している者を国王にしようとしていた者達にとって、下手をすれば今まで行ってきたことが無駄になるかもしれないんだから。
血統は本物で、多分生まれた順番的にも俺が一番上だろう。何せ国王が国王になる前に生まれた子供なんだから。
しかも、帰還すると同時に他の大陸との貿易の話を持ってくるんだから、政治的な功績は十分だと言えるだろう。
加えて、国王である父親に愛されている……かはわからないけど、少なくとも気にかけてもらえる存在ではあると思う。
そうなると……絶対にもめるよなぁ。理由をつけて城に縛り付けようと考える者が出てくるというのも理解できる。
「その時に生きてくるのがここでの立場よ。獣人たちは人間の地位なんて見ない。誰が交渉に来ようと他の者の指示を聞くことはなく、裏切ることもない。彼らに話を通そうと思ったら力が必要だけれど、そこはエラ・リラがいるわ。彼女をどうにかすることができる人間なんてそういない。けれど、あなたがいれば戦って屈服させるなんて面倒なことをせずとも獣人と交渉することができるようになるとなれば、あなたを無駄に城に縛り付けておくことはできなくなるわ。王族も貴族も、あなたに手を出そうとするものは減るはずよ」
船の上とはいえライラと互角に戦えるエラ・リラがいるとなると、そうなるか……。
ライラは多分協力しないだろうし、全力を見ていないから何とも言えないけど正直なところどっちが強いとは言い切れない。
そんな状況だったら、ライラ以上の強者を探すよりもすでに認められている俺を使った方が早いと判断するか。
何だったらあらかじめ合言葉とか決めておけばもっと便利かもな。俺以外のやつが話に来た際、その合言葉を知らない奴が来たら俺の敵だ、って言っておけば貿易の話し合いどころじゃないだろうし。
「後ろ盾、とはちょっと違うけど、そんな感じの保険みたいなものか」
「最初は面倒かもしれないし、従わせるために力を振るうのが嫌だということもわかっているわ。けれど、それが将来的にあなたのためになるのよ」
将来のためかぁ……まあ仕方ないか。戦うって言ってもそれほど面倒なことじゃないはずだ。少なくとも本気のガルと戦うよりは楽に終わるはずだし、後顧の憂いを断つためにもやっておくか。
「……ふう。わかったよ。いや、最初からわかってはいたよ。やるしかないって」
それに、悩んだところでもう決まったことだ。ここで俺一人がわがままを言ったところで……まあ俺が嫌だと言えば結論は覆るだろうけど、できない事ならまだしも、できることを面倒だからと後から覆すのは格好悪い。要はプライドの問題だけど、そのプライド――誇りが大事なんだ。
「少し帰るのが遅くなるけど、せめて港を作るのに必要な人数が集まるくらいまではここに残るよ」
そうして俺は周囲の村を回って道場破り的なことをすることになった。




