その意気や好し。
「俺はてめえに勝負を挑む! この村は俺が守るんだ。余所者なんかの助けなんていらねえよ!」
「そうだ! 俺達は戦えるんだ!」
「人間なんてどうせ卑怯な手を使っただけだろ!」
えっと……これはどういうことだ? さっきまで一人だったはずなのに、なんでこんなに増えているんだろう?
「なんか増えた……」
「戦士は一人じゃないからな」
まあそうか。この村に戦える奴が一人だけなわけないし、反対するのが一人だけとも限らない。むしろ余所者の……種族さえ違う上にそのうち大陸を出ていくと明言しているような奴の下につきたいと思う奴なんてそうそう居ないか。むしろ全員反対でもおかしくはないだろう。
「全員俺のことが気に入らないと」
「全員というわけじゃないが、今構えている奴らは全員そうだな」
集まってるのって二十人以上いるけど、これで全部なのか?
どうしたものかな。倒した方がきっとスムーズに話が進むんだろうけど、それはそれで厄介というか、力でねじ伏せるとどこかで歪みが……出てこないのか。獣人だし。
「えーっと……要約すると、あいつら全員倒した方が話がスムーズに進むってことでいいんだよな?」
「そうだな。一度倒せばあいつらだって主のことを主と認めるはずだ。そもそも認めなくても従わなくてはならないしな」
従わなかったら今度はそいつが村から追い出されることにでもなるんだろうか?
まあ部下にしないとしても、このままじゃ話し合いすらまともにできないし、一度格付けを終わらせるのがいいんだろう。
「そうか。ならやるか」
「グラン。私が何人か受け持とう」
「いいよ。どうせ一人やるのも百人やるのも同じだし」
ライラが俺を気遣って提案してきてくれたけど、正直なところ大して変わらない。だってやる事ってエラ・リラの時にやったドラゴンの魔力を開放しての威圧だけだし。一人に向けるか全員に向けてばら撒くかの違いでしかないんだから、何人いても同じだ。
「舐めてんじゃねえぞくそがよお!」
そんな少年の言葉と共に俺の部下になる事が気に入らない者達が一斉に襲い掛かって来た。でも……
「リラを主としていたってことは、リラに負けたんだろ? その程度の力しかないなら――『竜の歩みは何物にも止めること叶わず』」
エラ・リラに勝つことすらできないなら、ドラゴンの放つ威圧を堪えきることなんてできるわけがない。
「ぐっ!?」
「なんっ……!」
「ば、ばけもの……」
案の定、こちらに襲い掛かって来た者達全員が威圧に耐えきることができずに崩れ落ち、だがそれでも意志は挫けないまま立ち向かおうと足に力を入れる。
その結果、皮肉なことにその姿まるで王様に跪く家臣のように片膝をつき、頭を垂れることとなった。
だが、そんな中であっても諦めていない者はいるようだ。
「戦う気がある奴は立ち上がって見せろ」
抗う気がないならもう終わりにしたい。そう考えて威圧の出力を僅かに上げた。
それだけで跪いていながらもまだ抵抗していた者達は諦めたのか、まるで巨大な何かに押しつぶされるかのように地面へと叩き付けられた。
だが、その中で一人だけ、倒れることなく立ち上がるものがいた。
「ぐっ……クソッ! なっめんなああああ!」
そう叫びながら立ち上がったのは、最初に俺に挑んできてエラ・リラに殴り飛ばされた少年だった。
「その意気や好し。……なんて、ジジイによく言われたなぁ」
ジジイもこんな感じで俺のことを見ていたんだろうか? そう思うとなんだか気恥ずかしいというか、自分の黒歴史を見せられているような気分になってくる。
ただ、それでも立ち向かう姿がかっこいいと思う気持ちは変わらない。
力の差で言ったら圧倒的に俺の方が上だってことは理解している。多分向こうも理解しているだろう。それでも自分の信念や誇り、願いのために必死になって立ち上がり、立ち向かう姿がかっこよくないわけがない。
でも……
「ああああああ――がっ」
「でも、意気だけじゃ足りないんだ」
その心意気は素晴らしいものだと思う。でも、だからと言って負けてやるわけにはいかないんだ。強さを誇示したいわけじゃないけど、強さに見合う振る舞いをしないのは格好悪いから。
ドラゴンに憧れてドラゴンの仲間になりたいと願っていたものとしては、こんなところで負けてあげるわけにはいかないんだよ。たとえ望んでいない戦いであり、勝ったところで望んでいないものが押し付けられるような状況であってもね。
ドラゴンの威圧で怯える有象無象であれば放置でいい。でも、威圧されて尚立ち向かうのなら、そいつは敵だ。
叫びながら突っ込んできた少年に向かって魔法を……いや、拳を握って叩き付ける。それだけで最初にエラ・リラに吹っ飛ばされた時のようにもう一度吹っ飛んでいた。
そうしてこの茶番のような戦いは終わりとなった。
「……何をしたの?」
戦いが終わったことでエラ・リラが話しかけてきたが、その表情はいぶかしげなものだ。まあこの光景を見ればそうなるか。
目の前には、地面に押し付けられるように倒れている獣人たちがいる。もうすでに威圧は解いてあるので起きることはできるが、起き上がった獣人たちのいた場所の下には人型に凹んだくぼみがある。
気迫で相手を圧倒して心を折る、ということは理解できるだろうが、そこに物理的な圧力まではかかっているというのが不思議なのだろう。
「竜の魔力を開放することで相手に威圧感を与えられるんだけど、それを意図的に相手に叩き付けて押しつぶしたんだ。威圧感って言っても物理的な干渉力もあるからほとんど魔法を喰らってるようなものだけど……まあ、竜に殺意を向けられた状態?」
指向性を持った強い魔力は、魔法として発現していなくとも物理的な干渉力を持つ。それがドラゴンの威圧の正体で、もっと言うならドラゴンの咆哮の正体だ。
「それは……確かにそれならあの状態もなっとくね。二度とあんなのはごめんだもの」
「? ライラってドラゴンから殺意を向けられたことってあったの?」
呆れたように溜息を吐くライラだったけど、そんなライラの態度が少し疑問だった。
俺はライラに向かって威圧したことなんてなかったし、ガルの時も普通に動けていた気がするんだけど?
「なに言ってるのよ。あなたの育ての親と戦ったじゃない」
そんなことあったっけ? そもそもライラとは会ったその日に事故で転移することになったのに、いつの間にジジイと……と思ったけど、そういえば俺と会う前にジジイと戦ってたんだったっけ。
「あー、ジジイとのやつか。そう言えばそうだった。実際に殺す気はなかっただろうけど、あのジジイ、お遊びでも本気で殺意向けてくるから厄介なんだよなぁ」
「あれを厄介で済ませられるあなたはやっぱりドラゴンの子供よ」
呆れながら息を吐いて言ったライラ。その言葉は皮肉だったのかもしれないけど、俺とっては誉め言葉だ。
「流石は主だ。見ろ、あいつらを。挑んできたバカどもだけじゃなく、村の奴ら全員が新しい主だと認めているぞ」
そう言われて村へと視線を移すが……
「認めているっていうか、平伏してない?」
跪くどころじゃなくてひれ伏しているとかそういうアレなんだけど。
「それだけ恐ろしかったということだな!」
「それは喜んでいいのか……」
恐怖で人を纏めようとするってただの暴君じゃんそれ。
「なんにしても、これで話し合いがスムーズに進むっていうんならそれでいいさ」
なんだか結果に少しの不満はあるけど、どうせすぐに出ていくんだし話し合いがスムーズに進むならこの際何でもいいや。そう諦めることにした。




