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丁度良い頃合い……?

 

 ——◆◇◆◇——


「いつから気づいてたんだよ、ジジイ」


 騒ぎがしてたから身に来たら、なんかジジイと人間が戦ってた。なので映画鑑賞のごとくその光景を眺めていたのだが、戦いに一区切りついたところでジジイがこっちに向かって話しかけてきた。


 俺、これでも隠密を心がけて潜んでたんだけど、ずいぶんと簡単に見つけてくれるもんだな?


「ふん。いつからなどとバカなことを聞くものだ。お前がこちらに走ってきた時から理解していたに決まっていよう?」

「決まってねえよ、ったく……どんだけ感知範囲が広いんだか」


 こっちに向かって走ってきっと期からって、ここから村までどれだけ距離があると思ってるんだよ。五キロ以上あるぞ。

 さっきの戦闘音みたいにでかい音を出してればまだしも、意図的に音を出さないようにしていたのに気付けるってどうなってるんだよ。


「それで、しかと見ていたか?」

「見てたよ。というか、見せられたよ。なんだってそんなことしたんだ?」


 こっちを見てから戦いをし始めた時点で俺に見せようとしていたのは理解したけど、なんでそんなことをしたのかまでは理解できなかった。

 こういう場合ってたいていは自分の技を弟子に見せようとする、みたいな場面だろうけど、さっき程度の技なら普段から魅せられてるし……。


「お前ももういい歳だ。いつまでもこの地に留まり続けるわけにもいくまいよ。外の世界を知るにはちょうどいいだろう。その一歩として〝人の技〟を見せたまでだ」


 そんなふうに告げられたが、俺にはジジイが何を言っているのか理解できなかった。言葉自体はわかる。その意味も分かる。でも、どうしてそんなことを言い出したのかがまったくもって理解できなかった。


「は? いや……待てよ。そんな話聞いてないぞ」


 俺だっていつまでもここにいるつもりはなかった。いつかはこの世界を見てみたいとも思っていた。

 でも、だからって今すぐにここを出ていくつもりもなかったんだ。

 だってここは……あったかかったから。


 前世において親に捨てられ、今世でも親に捨てられ、親しい存在なんていなかった俺にとっては、ある意味〝この場所〟が人生の全てだった。俺にとって思い出と呼べるものは、すべてここにしかない。


 田舎というのもおこがましいくらいになんの代わり映えもしない森の中。

 毎日のように死にかける訓練をする日常。

 友達百人どころか、知り合いと呼べるような相手さえ百人もいないような狭いコミュニティ。


 それでも俺はここが好きだ。人間は誰もいなくても、何の変化もないつまらない場所でも、この場所が好きなんだ。

 正直言って、なんだったら出ていかなくてもいいかもしれないと、ずっとこの暖かい場所にいてもいいかとも思っていた。


 それなのに、いきなりこの場所を出ていく必要があるとかなんとか……。ふざけんなよな。


「当然だ。今思いついたのだからな」

「なんでそんないきなりっ……!」


 こっちに相談もなくいきなり勝手に決めたジジイ。悪びれた様子もなく話すその姿が気に入らなくて、まるで俺なんていらない存在だといわれているようで……まるでまた捨てられるように思えて怒りが込み上げてきた。


「この者らが、お前の父親の下から訪れたからだ」

「「「っ!?」」」

「父親って……冗談だろ?」


 ちちおや……? 父親って、俺の父親ってことか? アンタみたいな育ての親ではなく、生みの親という意味での父親?

 いや、でもおかしいだろ。俺はこんなドラゴンだらけのくそったれな場所に捨てられたんだぞ。赤ん坊一人でこんな場所に放置するなんて、殺意があったとしか思えない。

 それなのに、今更になって探しに来たとでもいうのか? 冗談も大概にしろよな。


「冗談など言うと思うか?」

「あんた普段から冗談ばっか言うだろ」

「それは……ふむ。そうではあるが、この場合は違うと断言しよう」

「でも……」

「お、お待ちください! 偉大なるドラゴンよ。今の話はまさか……」


 俺がジジイと話をしていると、さっきまでジジイと戦っていた人間の中から一人の女性が割り込んできた。

 なんだか慌てている様子だけど、何をそんなに慌ててるんだか。今慌てたいのは俺の方だよ。

 というか、そもそもこっちは大事な話をしてるんだ。部外者が割り込んで邪魔してくるなよ。


 そう思った俺だが、いつの間にか自分でも知らずの内に割り込んできた人間たちを威圧していたようだ。人間たちは苦しそうに胸を押さえ、うめき声を漏らしたり膝をついたりしだした。


 そんな人間たちの姿を見て、自分が威圧していることに気が付いた俺はハッと気を取り直して力を抑え込んだ。


 他人の状況に気づいて力を抑え込むことができるのは良いことなのだろう。だが、まだ冷静に判断できるだけの頭があることを喜ぶべきなのか、それとも心の底からジジイの言葉を怒ることができないことを悲しむべきなのか……どっちなのだろうか。


「そなたらの探している遺品は存在していない。代わりに、本人は存在している。こやつが件の赤ん坊である」

「まさか……そんなっ……!」

「うっそ……生きてるなんて……」

「ドラゴンが人を育てるなんて聞いたこともない……」


 ……どういうことだ? もしかして、本当に俺のことを探しに来たのだろうか? いや、だけど遺品とか言ってたし、俺が死んでる前提で探しに来たんだと思う。

 まあこんな場所だしな。ただの赤ん坊が捨てられて生きていけるわけがないと思うだろうさ。実際、ここにいたのがこのジジイじゃなければ……他のドラゴンなら死んでいただろう。だから、俺が死んでいると考えるのはおかしなことじゃない。


「人の世に出ているドラゴンたちは我が強く、竜界を飛び出した荒くれ者達だ。当然、人の子など育てないどころか気にも留めぬだろう。この地だからこその結果と言えよう」


 ああ、だよな。ジジイじゃなくても村の連中ならもしかしたら拾ったかもしれないけど……あの連中だしなぁ。まともに子育てなんてできるとは思えない。食事の時間とか忘れて死ぬことになりそう。いやまあ、あいつらにとっては忘れてないでちょっと時間がたったらご飯をあげないと、とか考えてるのかもしれないけどさ。でもそのちょっとが一週間後とかだろ。死ぬわそんなの。


 まあそれは置いておくとして……今更になって遺品を回収しようと考えるなんて……政治的な理由か?

 こんな立派な鎧なんて来てる集団を送り込むことができるくらいだから、父親(仮)はそれなりの権力を持っている立場の人間なんだろう。


 そう考えると、遺品を回収する意味は政治的なものだと考えることができる。というかそれ以外に、遺品なんて回収したところで意味ないしな。


「こやつをそなたらの主の元へと連れていけ。さすれば……」

「待てよ! ……待てよクソジジイ。何勝手に決めてるんだよ」


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