じゃあ子供を作るか!
「大好きだ、主!」
「主って俺のことか?」
満面の笑みを浮かべて喜んでいるエラ・リラだが、その呼び方が先までとあまりにも変わりすぎている。というかその笑みだってさっきまで一度も笑ったことなかっただろうに。なんでいきなり?
「あたしに勝っただろ。ならあたしはお前の部下で、お前はあたしの主だ!」
いやまあ、それはそうかもしれないけど、でもそれって俺がその村に行くって言ったからだろ? 自分の願いが叶うと分かると態度が変わるって、現金な奴だなぁ。
「部下とかいらないんだけど。話し合いとかしてもどうせこの大陸から離れることは決まってるんだし」
助けるのはいいとしても、その後は残らずにこの大陸を離れることはもう決まっているんだから、部下にしても意味ない。どうせついてこないんだろうし。いや、エラ・リラは姫だったか。じゃあついてこられても困るからついてこないでいてくれた方が助かるな。
「じゃあ子供を作るか!」
「…………はあ?」
なんか突然バカみたいなことを言い出したせいで、思わず間の抜けた声を漏らしてしまった。でも仕方ないだろ? いきなり子供を作ろうなんて言われたら、誰だってこんな反応にもなるさ。
「主がいなくなっても、その子供がいれば強くなる! そうすればもう村が襲われることはない!」
どんな理屈だ……。別に、俺が子供を作ったって絶対に強い子が産まれるってわけでもないだろ。それに、自分の子供だけをこんなところに残していくつもりなんてない。
正直将来なんてどうなるかわからないし、結婚とか子供とか全然考えていない。けどいつか子供を作ったのなら、俺はその子供と離れて暮らすつもりはない。少なくとも、捨てられた、と思われるような状況を作るつもりはない。
でも、そんなことを言ってもこいつが理解して止めてくれるかどうか……なんだか急に頭が頭痛して来た。
「……ちなみに母親は?」
「あたしだ! これでもあたしはこのあたりではほとんど敵無しだったくらいだから強いぞ! だから強い子を産める!」
ああ、やっぱり。そうだよね。
確かにエラ・リラの見た目は悪くない。人の体に獣の耳と尻尾、それから体の一部に獣の体毛。人の部分に関しては愛嬌のある美人と言ってもいいような顔立ちだし、流石は姫と言ったところだろう。ぱっと見だけなら人間にちょっとアクセントが付いただけと言える。
見た目がよく、立場があり、今後に繋がりうる相手。ついでに言えば、エラ・リラより強い状況を維持できるならこっちを敬って従順に従ってくれる。政略結婚だと考えれば多分素敵な相手なのかもしれない。
だが、自信満々に胸を張っているエラ・リラを見ると、どうにも拒否感がある。嫌悪感ではなく拒否感なのは、なんかうるさそうとか問題起こしそうとかそういう嫌な予感があるからだろう。
「……王族って政略結婚とか普通だろうし、こういうことはよくあるのか?」
一応俺も王族らしいし、これからこの大陸とは繋がりができるかもしれない。貿易をしていくのであれば、その最初の一手として政略結婚で繋がりを作る、というのは間違いではないのかもしれない。
それに、今回の大陸間での繋がりを求めなかったとしても、そもそも王族という立場上自分の意志ではなく政治的な理由を優先しての結婚は普通の事なんだろうという思いはある。
だが、そのことを理解しているが、だからと言って簡単に受け入れることができるかと言ったらそんなわけがない。だから思わずライラに問いかけてしまった。
「今回のような理由はめずらしいけれど、まあ確かに理由があっての婚姻や、血筋を残すための婚姻というのは珍しくはないわね。相手が獣人ということを考えると、そうおかしなことではないと言えるでしょうね」
「そうか……そうかぁ……」
……ないなぁ。見た目や性格じゃなくて、性質がね。
それに、俺はまだ王族じゃなくてただの一般人だし、今はスルーでいっか。
問題の先送りなのかもしれないが、その時はその時だ。今はこの面倒なのをどうにかして誤魔化すことができればいいや。




