港が欲しい
「あ、あたしが負けたら、村の奴らが助けられないから……」
「村、か……さっきもそれ言ってたな。どういうことだ?」
エラ・リラも獣人としての誇りはあるのだろう。じゃないとさっきみたいな反応はしないと思う。
でも、そんな誇りを無視してでも成し遂げたい何かがあるなら、それは少し気になる。誇りを捨ててでも守りたいものとは何なんだろうか?
「ここから少し離れたあっちの方にある村。あんまり状況が良くないんだ。このままではあの村はそう遠くないうちになくなるかもしれない」
なくなるって……人口減少による合併吸収、なんて話じゃないよな。多分言葉通り、村そのものがなくなるような何かが起ころうとしているんだろう。
自然災害であれば人の手でどうにかしようと考えないとおもう。現代日本ならともかく、この大陸みたいな技術力では限界があるから。
そうなると、何か強大な力を持った存在……個なのか群れなのかはわからないけど、そういうのに襲われる危険性があるってことなのかもしれない。
「獣人はみんな生まれながらの戦士だ。でも、誰もが強いわけじゃないのは知ってる。戦う力がなくても、戦士を支える奴も戦士だ。戦わないみんながいてこそあたし達は戦っていられる。でも、力がないのは本当のことで、力がなければ死んでいくのも当然のことだ。だから誰かが守ってやらないといけないんだ」
「守るって、何から?」
「他の縄張りの奴らからだ。戦えない奴らは戦いを仕掛けられたら負ける。でもそうなったらみんなを支えるための力を無視して戦わされるかもしれない。それはダメだ」
「へえ……。真っ当にお姫様らしいこと考えてるんだな」
他の縄張り……つまりは領土争いだ。まあ、強さこそ正義、なんて考えの種族なら、そういう戦いは良くあることなのかもしれない。そして、エラ・リラが本当に姫……王族だっていうんなら、自分の民を守るために誇りを捨てるのも、理解できる。
いや、ある意味では誇りを捨てていないのかもしれない。獣人としての伝統は守らなくとも、率いる者としての責任を果たそうとしているんだから。
「あたしが強い部下を連れて強い群れを作ってあのあたりを棲み処にすれば、他の縄張りの奴らはあの村を襲うことはできないはずだ。船なら色々使えそうなものもある気がしたし、大陸を渡ってくるくらいなら強い奴もいると思ったから部下にできれば村を守るのに役に立つはずだった。だからあたしは負けるわけにはいかないんだ! ……いかなかったんだ」
「あー、それでグランに負けたことを認めなかったのね。負けたら相手の下につかないといけないから」
俺に、っていうか、あの場合はライラに、じゃないか? まあ誰が相手でも負けを認めるわけにはいかなかっただろうけど。
でも、負けを認めないで襲撃を仕掛けてきたのは理解できたけど、そんな理由があるんだったらなんで今になって負けを認めたんだろう?
「なら、今になって負けを認めたのはなんでなんだ?」
「どうあがいても勝てないって察したからじゃないかしら?」
だとしても、挑むべきじゃないか? 勝ち目のない強敵と戦えば死ぬことになるかもしれないのが戦いってものだけど、どのみち負けて部下になったらその村のために戦うこともできなくなるんだから。だったら戦士として最後まで戦うとか、一縷の望みにかけて戦うとかするべきなんじゃないだろうか?
「……それだけ強ければ、素直に服従すればちょっとした手間くらいならやってくれると思ったから。強い奴があたしの主になったと知れば、他の縄張りの奴らも無理に攻めて来ないはず」
「一発派手にかましてやれば皆黙るだろうって? まあ確かにそれ自体は大した手間じゃないけどさ……」
ドラゴンブレスとまではいかなくても、敵が攻めてきたのに合わせて〝爪〟を使えばそれで終わると思う。それでも挑んでくる強者がいたとしても、多分勝てると思うし、少なくともドラゴンよりは弱いだろうからたいして手間がかかるわけでもない。
だから俺がその頼みを聞くかどうかは別問題として、戦うこと自体は問題ない。
ただ、それって一回だけじゃ意味ないよな?
一度撃退しても多分その後も攻め込んでくるだろうし、俺達がいなくなったと分かっても攻め込んでくると思う。それを防ぐにはずっとこの大陸にとどまっていないといけないわけだけど、俺達はそうするつもりなんて全くない。
「でもなぁ……俺達この後もここにとどまるつもりなんてないし……」
「そこを何とか!」
って言われてもなぁ……。帰らないわけにはいかないし、これが一度帰った後で、二度目の来訪だっていうんだったら話は変わったんだろうけど、今はそうじゃない。
かといって、獣人としての誇りを捨ててでも民を守ろう責任を果たそうとしている姿は嫌いじゃない。
ここまで話を聞いてそれなりに事情も知ったんだし、協力すること自体はやぶさかではないんだけど……じゃあそれをずっと続けていられるのかって言うとできないわけで、途中で放り捨てるのは無責任なんじゃないかと思うんだよ。なら最初から協力しない方がいいんじゃないかとさえ思う。
「う~ん……」
「……その村の場所って正確にはどの辺かしら?」
「どのへん? ……えーっと……ん~……?」
どうした方がいいのか俺が考えていると、ライラが途中で村の場所なんて聞き始めたけどどうするつもりなんだろう。というかエラ・リラ、お前村の場所もわかんないのか? せめて方向を指差すとかここから何時間とか、それくらいは言えるだろ。
「はあ……確かこの大陸ってこんな感じだったわよね? 私たちがいるのをこことして、その村はどの辺かしら?」
「ここだ!」
近くにあった紙とペンを持ってきて、ライラはこの大陸のおおよその地図を書いてエラ・リラに見せると、流石に地図を見せられたら場所が分かるようで元気よく村の場所を示した。
そうして指差した場所を見て、ライラは真剣な眼差しで地図を見始めた。
「……ここはまた、偶然にしてはできすぎているけれど、ある意味丁度いい場所ね……」
「ライラ?」
指差した場所はここから北に進んだ海岸沿い……から少し内陸に行った場所だが、丁度いいって言ってるけどここに何かあるんだろうか?
「この場所だけれど、次の補給のための寄港地として丁度いいのよ。正確には船長たちとの話し合いがいるけれど、いずれにしても一度は寄ることのできる場所がほしかったの。ないなら内でそれはそれで移動することはできるけれど、今回だけではなく今後のことも考えるとね」
「それでその場所だと丁度いいってか」
「ええ。まあ少し内陸側に寄っている気もするけれど、話し合った結果港を作ってくれるというのなら、十分による価値はあるわ」
確かに、故郷である大陸に渡る前には今いる場所とは反対にある港によることになっているけど、そこまでの距離がけっこうあるし途中で安全に止まることのできる場所があるのならありがたいだろう。
そこでライラは、港がないのなら用意してしまおうと考えたようだ。
「港! 大丈夫だ。それくらい作ってやる!」
「港って作るのに何年もかかるんじゃないのか?」
エラ・リラは意気込んでいるけど、港なんて一日二日で作れるもんじゃないだろうに。
「大規模なものはね。ただ、貿易自体は何年か先になるでしょうし、今回に限っていうのならひとまず立ち寄ることができるのならそれで問題ないはずよ」
港ではなくても安全に立ち寄ることができる場所、か。確かに用意できるならあった方がいいよな。物資の補給もできるならしておきたいだろうし、中継地を確保できるのは有難いことではある。
それに港も今すぐに作るつもりじゃないようだ。当たり前か。
将来的に本当に貿易をすることになった際の布石というか、港を作ることになった時に無用な対立を避け、可能ならば手を借りるためにここで助けておくのもアリだと判断したんだろう。
「ならまあ、寄ってみてもいいかもな」
一生この大陸にとどまるつもりはないけど、それでも様子を見て、軽く動く程度で問題が解決できる、あるいはエラ・リラ達の助けになる事ができるなら、それはそれでアリだとは思う。




