どこの蛮族だよ
「あれが獣人の住む大陸か」
「総員警戒体制へ移行! これから先は何が起こるかわからん。油断するなよ!」
「……なんか、ものものしい感じだな」
獣人たちについての話を聞いてから三日ほど経って、ようやく次の大陸が見えてきたのだが、なんだか船員たちの様子がおかしい。まるでこれから戦いが起こることが確定しているような、そんな雰囲気だ。
「言ったでしょう。この国はいろいろと危険なのよ。目があったら勝負が始まるのは当然として、目が合わなくても余所者の姿を発見したら攻撃してくるのがあいつら流なの」
目が合ったら戦闘を仕掛けてくるって……ポケモンかな? 戦うのはモンスターじゃなくて自分だけど。
「どこの蛮族だよ……」
「あの大陸の蛮族よ。船なんて、遮るもののない格好の獲物ね。陸に着いたら当然襲われるとして、場合によっては陸に着く前にも襲われるかもしれないわね」
襲われることを前提にして考えるって、話には聞いていたけど改めて聞かされると困惑するな。
「当然襲われるのか……。でも陸に着く前ってどうやって襲ってくるんだ? 弓とか魔法で先制を仕掛けてくるとかか?」
というか、それくらいしかないだろう。流石にバリスタとか大砲はないはずだ。だって獣人ってバカらしいし。そんなものを作れる技術なんて発展してないだろう。
そうなると弓か魔法か、あるいは投石くらいか? それなら攻撃が来たとしてもなんとか対処できると思う。最初の攻撃は分からないけど、それ以降は遠距離戦ならこっちの方が有利だろうし。
なんて思っていたんだけど、ライラは首を振った。
「いいえ。普通に殴りこんでくるわ」
「……船の上で?」
殴りこんでくるって……嘘だろ? というかどうやって乗り込んでくるんだ? 接岸したらこっちが下りる前にジャンプして乗ってくるとか?
「ええ。海の上を走ってくるか、陸で思い切り跳んでくるかはその者次第だし、そもそもそんなことをしてくるのも多くはないけれど、運が悪ければ遭遇することになるわね」
陸から飛んでくるのは理解できるけど、海の上を走るのか……。それ、多分あれだろ。右足が沈む前に左足を前に出すとかいう、そうやつ。おそらくではあるけど、魔法を使って水の上に浮くとかそんなんじゃなくて力技な気がする。
「それ、沈めるのはアリなのか?」
なんでそこまでして襲い掛かってくるのかは理解できないけど、そうまでして襲ってくる可能性があることは理解した。でもその場合、船に乗る前に倒してしまってもいいんだろうか? 船の上で暴れられたら船が壊れるかもしれないし、そうなったら面倒だからできる事なら船に乗られる前に倒したい。
でも、海の上を走ってるときとか、陸から思い切りジャンプして空中にいる時に撃ち落としたら多分死ぬだろ。怪我をした状態で海に落ちていくわけだし。
それが許してもらえるかもらえないかで大分動き方が変わってくるんだけど……
「ええ。まあ戦って倒したら従順になるからできる事なら殺さずに制したいところではあるけれど、こちらに被害が出たら元も子もないから安全を最優先にしてちょうだい。生かして倒すことができるなら、っていう程度ね」
生かして倒すことができればこっちの手駒になるのか。ならいきなり仕留めにかかるのは止めた方がいいかな。
「じゃあ、いきなり竜魔法は止めておいた方が無難か」
使うとしても手抜き版だろう。それで沈んだら回収して、沈まなかったとしてもダメージは入るだろうし相手の力量は分かる。どっちにしても得だろう。
「そうね。流石に戦いこそ人生な蛮族でも、肉体的な性能はドラゴンには劣るもの。そうね……最初は加減した攻撃をして、それでも生き残るようなら竜魔法を使えばいいんじゃないかしら。〝爪〟の二本までならギリギリ耐えられると思うわよ?」
「二本だけか……いや、それでも結構頑丈じゃないか?」
竜の混血の魔物が二本であっけなく死んでいったのに、それに耐えるって結構強いんじゃないだろうか?
「そうね。まあ耐えられるといっても、死なないというだけでその後の戦闘は無理でしょうけれどね」
「それでも十分硬いって。竜の混血だって〝爪〟一本で死ぬやつもいたのに」
「まあ、耐えられるのは一部の戦士だけだから、基本は竜魔法は使わない方が無難でしょうね」
「そうするよ」
なんにしても、まずは敵を理解することからだな。どこかで攻撃的な獣人と遭遇することができればいいんだけど……
「敵襲!」
「来たわよ!」
「本当に来るのかよ……!」
敵が来てほしいとは思ったけど、こんなにすぐに来るとは思わなかった。




