野蛮な大陸
「……それで、このまま進んでったとして、どれくらいで着くんだ?」
自分の中の情けなさ、みっともなさから目を背けるように話を逸らす。
そんな俺の内心を知ってか知らずか、ライラは俺から視線を外して進行方向へと向けながら答えた。
「かなり長いわよ? 順調にいけば十日から二週間程度で隣の大陸に着くわ。あと三日程度というところでしょうね。けれど、そこから船で大陸の外周を回りながら私たちの大陸に、ってなると、結構な時間がかかるわね」
「そんなにか」
大陸に着くまではそんなに時間がかからないのに、大陸に着いてからの方が時間がかかるのか。
「そんなによ。まあそれもあってこれまで私たちの国と竜国では繋がりなんてほとんどなかったのでしょうね」
そりゃあ片道数か月かかるとなれば、頻繁に行き来しましょうとはならないよな。道中の整備もできてないみたいだし。
「でもそれさ、間にある大陸……というか寄港地となりうる国に話を通して一枚噛ませれば、一緒に貿易できるし行き来しやすくなるんじゃないか?」
一から作るほどの情熱や金や権力を持った奴は少ないだろうけど、国が主導でやればできるんじゃないだろうか? やった場合は結構な利益になると思うんだけどな。
そう思っていたのだが、ライラは呆れたように首を振りながら答えた。
「それができれば、の話ね」
「……何か問題があるのか?」
「これから行く大陸は……なんというか……言葉を選ばないでいえば野蛮なのよ」
「野蛮……」
これから行く大陸って、確か獣人が暮らしている場所だよな? まあ獣人のイメージとしては粗暴なものがあるけど、ライラがここまで言うってどれだけ野蛮なんだ?
厄介ごとは避けたいと思っているけど、怖いもの見たさで逆に気になってくる。
「基本的には獣人が治めている……いえ、蔓延っている大陸なのだけれど、あいつらって力こそ全て、力あるものが支配する、って場所なのよ。だから余所者が来てもまずは勝負を吹っかけられるわ」
おぉ……ステレオタイプというかなんというか、まさにイメージ通りの獣人だ。
そんな獣人が蔓延ってる大陸って……やばくないか?
ライラがここまで言うってことは、本当に勝負を吹っかけられるんだろう。そんな場所となると、何をするにも戦いが必要になりそうだ。平和的な関係を築こうとしても厄介なことこの上ないだろうなぁ。
でも、一応貿易はしてるみたいだし、港はあるんだよな? 商人とかもいるんだろうけど……その辺はどうしてるんだろう? 武力で商品を集めて武力で商品のやり取りをするとか? 買ったらほしいものを持っていかれ、負けたら自分の持ち物が商品として並ぶとか。……違うよな?
「……商売のためだけに来た商人とかでも関係なしに?」
「ええ。商品があるなら殴って隷属させて奪い取れ、みたいな感じね。商人も襲ってきたのを叩きのめして奴隷として売るみたいよ」
違くなかったらしい。
え、でも本当にそんなんで商売成り立つの? 商人大変すぎないか?
「でもそれだとその後が続かないだろ。ボコられて荷物が奪われるんだったら、誰も行かなくなるんじゃないか?」
「ええ。実際そうなってるわ」
「……バカじゃないか?」
というかバカだろ。
「バカね。でもそれが理解できるだけの知能がないから困るのよ。今後の関係よりも、目先の物資と奴隷という戦利品が大事なのね」
まあわからないでもないけど……奴隷かぁ。
「奴隷……これまで見た事ないけど、奴隷なんているんだな」
前の大陸にある竜国には奴隷なんていなかった。俺が知らないだけで中にはそういう立場の人たちもいたのかもしれないけど、少なくとも表立っては存在していない。だから奴隷なんて存在に会うのは初めてとなる。
「いる、というよりも、もはや常識ね。あいつらの生活の一部になってるわ。戦って勝ったらすべてを手に入れ、負けたら失う。家も金も人生も」
「良くそれで国っていう体裁が保ってられるな」
負けたら全てを奪われるって……そんなんじゃ国としてやっていけないと思うんだけど。それとも、一番強い王様が強さと賢さを兼ね揃えた人なんだろうか? それなら国の全てを手に入れていながらうまく国を回していくことも可能かもしれないけど……多分違うだろ。
「国と言っても名ばかりの国よ。まあ中には多少賢いのがいるから、そいつらがある程度のルールを決めているおかげで何とか、というところね。だから基本的には大きな町なんて首都くらいしかないし、ほとんどの住民は遊牧民というか、野生の獣が人間の真似事をしているというか……まあそういう暮らしよ」
なるほど。でも、そういう〝賢い奴〟というのをそばにおいてルールを作らせている当たり、流石にすべてを奴隷として虐げているのはまずいってことくらいは理解しているんだろう。
そうだとしても野蛮だし行きたいと思える国じゃないのは確かだけど。
それにしても……なんだろう。ライラの言葉にさっきから棘があるような気がするんだけど気のせいだろうか?
そう思ってライラの顔を横目にちらりと伺ってみるけど、やっぱりいつもよりも険しい顔になっている気がする。
「……なんかさっきから嫌悪感丸出しで話してるけど、行ったことあるのか?」
誰かからの伝聞じゃここまで嫌ったりしないだろう。行ったことがあるのか、それとも向こうから来たことがあったのか、どっちにしても直接獣人と会ったことがあるんだろう。
「ええ……一度だけね。陛下としても、関わりが薄い……ほとんど無いとはいえ、隣の大陸のことを全く知らずにいることはできないもの。その時も……ひどいものだったわ。陛下……当時は殿下だったけれど、王族からの使者だというのにいきなり襲い掛かって来たのだもの。私が勝ったから何事もなく帰還することができたけれど、村や集落を移動するたびに戦いを仕掛けてくるのはどうかしてるわ」
場所を移動するたびにって……そりゃあ確かに嫌になるか。王族からの使者だっていうのに礼儀を尽くさないどころか、むしろ襲い掛かってくるなんて騎士であるライラからしたらどうあっても認められる存在じゃないよな。
「でもそんな国だったら、途中で寄港した時にも何か問題が起こりそうだなぁ」
「起こるでしょうね」
「どうするんだ?」
ライラは事も無げに言っているけど、起こるのが確定してるんだったらその対処法も決まっているんだろうか? でもその辺の事って俺何にも聞いてないんだけど。なんだったら獣人たちの詳細も今聞いたばっかりだし。
「そんなの決まっているじゃない。黙らせるのよ」
「黙らせる……剣で?」
「ええ。魔法でも拳でも構わないけれどね。とにかく相手よりも強いということを示さないとそもそも話にならないのよ」
おぉ……なんという野蛮。獣人とかかわると騎士であっても野蛮になるんだろうか?
というかそれって話し合いっていうのか?
「……それさ、話をするんじゃなくて、〝話をしろ〟っていう命令を聞いてるだけなんじゃないか?」
「かもしれないわね。でも結果的に話し合いをすることができているのだからどちらでも構わないでしょう?」
「……まあ、それでいいならいいけどさ」
話し合いではないと思うけど、獣人側がそれでいいんだったらいいんだろう。郷に入っては郷に従えっていうし。
「覚悟しておきなさい。今まではあんまり竜魔法を使うなって言ったけれど、あの大陸では多少の加減をしていれば使うこと自体にはとやかく言うつもりはないわ」
「いいのか? まあ竜国よりは面倒なことは起こらないと思うけどさ」
流石にドラゴンが治めている国より竜魔法に反応することはないだろう。
「いいわよ。どうせ普通の魔法と竜魔法の違いなんてあいつらにはわからないでしょうし」
「ライラがそこまで言うとか……不安だなぁ」
できる事なら何の問題も起きずに通り抜けたいんだけど……むりなんだろうなぁ。




