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異世界ドラゴン村で育った人間は当然の如く常識外れだった  作者: 農民ヤズー


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王族になりたいわけではない

 

「なあライラ。俺が国に戻ってなんだかんだって色々やるだろ? それってどれくらいの時間がかかると思う?」


 ガルの用意してくれた船に乗り、海の果てを眺めながらライラに問いかける。

 また会いに来ると言ってガルと別れたし、当然そのつもりはある。また会いに来る算段もある。でも、それがいつ頃になるのかはわからない。流石に十年はかからないと思うけど、数年程度はかかることになると思う。それが少し寂しい。


 まだ別れてから一週間程度しか経っていないっていうのにこんなことを考えるなんて、どうやら俺は自分で思っていた以上にガルのことを気に入っていたようだ。……まあ、気に入っていると言っても恋愛感情ではないけど。それだけは確実だ。


「そうね……あなたや国王陛下がどんな選択をするかで変わるでしょうけれど、どんな選択だとしても最低限の作法くらいは学ぶことになるでしょうね。そうなると……まあ最短でも半年は必要かしら」

「半年か……なんだ。思ってたよりも早いな」


 俺はこれまで王族どころか一般人としての暮らしですらなかった。何せ森の中にドラゴンが作った村で暮らしてきたからな。だからこの世界の常識というものが無い。

 今回転移の事故があったことで多少はこの世界について知ることもできたけど、それはあくまでも先日までいた大陸を基準としての常識だ。俺がいた大陸の常識ではない。


 つまり、ほとんど一から学ばないといけないようなものだが、それには相応の時間がかかるはず。

 そう考えていただけに、それが半年で終わるなんて言われるとなんだか拍子抜けだ。


「最短でね。どういう暮らしをするのかによるけれど、王族として表舞台に出て生きるのなら、それ以上の期間が必要よ。学ぶことなんてそれこそ山のようにあるもの」

「王族ねえ……。ならない、って選択肢はないのか?」


 正直なところ王族になりたいかって言われると、そんなことはない。なるのならそれはそれで構わないけど、どうしてもってほどじゃない。

 そんなことを言っていられるのも、俺が王族になんてならなくても生きていけるだけの力を持っているからだろう。仮に何かやらかして追われることになったとしても、最悪の場合村に帰ればいいだけだし。


 これで元の大陸に、国に帰ることができれば貿易に関する話は俺の手を離れて勝手に進む。そして貿易が始まるようになって船が出るのなら、それに便乗すればいつでもガルの国に行くことができるようになる。

 ジジイ達のいるドラゴン村にもいくことができるわけだし、それを考えるとむしろ王族にならない方がいいのかもしれないとすら思う。王族になったら自由に移動することなんてできないだろうから。


「あるわよ。ただ、それは貴方や国王陛下、そしてあなたの育ての親であるドラゴンと話をして決める事よ。あなたの父親である陛下は自身の息子として表舞台に出てきてほしいとお考えでしょうし、あなたの育ての親であるドラゴンも同じように考えているんじゃないかと思っているから、あなたがそんな二人の想いを無視できるのなら王族の暮らしも勉強も無視していいとは思うわよ」

「……ずるいよなぁ、それ」


 そう言われたら王族にならない、なんていうことはできないじゃないか。


 一度話をしてから好きにすればいいとジジイは言っていた。でも多分だけど、あのジジイは俺に王族としての道を進んでほしいと思っているような気がする。


 実際のところはどうなのか知らないけど、多分ジジイは俺が王族だってことを知っていただろ。最初は知らなかったとしても、途中で気づいていたはずだ。それなのに俺に教えることなく、国の親元に還すわけでもなくずっと村においていたことに罪悪感を感じているように見えた。


 そこにどんな感情があったのかは知らない。何を考えて俺を育て、どんな思いで俺を村においていたのか。どういう判断で俺を親のところに帰そうとしたのか。何にもわからない。


 ただ、これからはドラゴンの仲間としてではなく、人間として生きてほしいと思っているように感じられたんだ。


 それに、国王であるらしい父親はあったことはないけど、十何年も経ってまだ子供の遺品を探そうと手を尽くしていると言われれば、その親心を無碍にすることはできない。


 何も思い入れはないけど、簡単に捨てていいものでもないはずだから。


 そんな二人の想いを知らんぷりして自分だけ自由に暮らすんだ、なんて笑っていられるほど俺はろくでなしじゃない。少なくとも、俺自身はそのつもりだ。


「王族にはなりたくないの?」

「……王族っていう力は便利だと思う。何かやりたいと思った時に通すだけの力があったほうが楽しいだろうし」


 でも、逆に言えばそれくらいしか思いつかない。


「けれど、力を持つには相応の代償がいるわ。権利と義務というやつよ。それに、そう好き勝手に振舞えるわけじゃないわよ?」


 分かってるよ。だからあんまり乗り気じゃないだよ。


 そりゃあ前世の世界で王族……国の最高権力者の一族だったなら楽しいかもしれないけど、こっちは娯楽が少ない。文明はそこそこで、文化は発達しておらず、金と権力があったところで使う場所がない。

 そのくせ王族としての義務と柵だけは一丁前についてくる。


 それが俺が王族に持っているイメージだ。

 実際はもっといろいろやることやできることがあるのかもしれないし、娯楽なんて探そうと思えばいくらでもあるのだろう。


 ただ、遊ぶのなんて王族でなくてもできるし、金だって自分で稼げばいい。魔物を倒せばすぐに稼げるだろうし、何だったらドラゴンの鱗で生え変わった奴でももらって来ればそれだけで一財産になるだろう。


 金だけじゃ対処できない危険だって、純粋に力があればどうとでもなる。最悪の場合蹴散らしたり逃げ出せばいいだけなんだから、どうしても権力がないといけないってこともない。


 だからやっぱり、王族という立場に魅力は感じないんだ。


「分かってるよ。ただ、今のところ王族になって何をしたいとも、王族である必要性も感じてないからさ。色々面倒なことに縛られてまでそういう立場を手に入れる必要ってあるのかなぁ、って」

「まあ、あなたは森で暮らしてきたものね。普通の王族や貴族たちとは違って、自分一人だけでも生きていくことはできるでしょうから、そういう考えになっても当然なのかもしれないわね」


 そう言ってライラは一度息を吐き出して首を振り、もう一度まっすぐ俺の眼を見つめながら口を開いた。


「ただ、あなたがどう暮らすにしても、ちゃんと陛下に向き合ってほしいの。あの方があなた達のことを想っていたのは本当だから」

「……わかってるよ」


 親に対する情はないけど、親であるとは認識している。だから会いに行こうと思っているんだし。

 ただ、少し気に入らないだけだ。国王である父親にたいして、ではない。どちらかというとライラに対しての、あるいはこの状況に対する不満だ。


 ライラはこれまで俺の味方だった。自分の姉妹の息子……甥だからだろうけど、味方だったのは間違いない。

 俺としても、突然放り出された環境でライラという味方がいたから楽しく行動できたと思っている。

 そんな味方であったライラが、俺の知らない相手に寄り添う態度を見せて俺を諭してくるその状況が、まるでライラが味方ではなくなり世界に一人で放り出されたような気分になってしまい気に入らないのだ。


 ……分かっている。ライラは俺の味方でいることを止めたわけではないし、付き合いの長く事情も知っている国王の方に自然と寄ってしまうのは仕方ないことだ。


 ……本当に、分かっているんだ。これがただの子供のわがままだってことは。母親を独占していたい子供のような、仲のいい友達に自分とだけ仲良くしていてほしいと思うような、そんなみっともないわがまま。


 生まれ変わってからドラゴン達の村の中で唯一の人間だからと甘やかされ、いつもみんなの中心にいたからだろうか。それとも生まれ変わってから初めて接した人間がライラだったからだろうか。


 分かっているけど、止められないんだ。



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