またいつか会えることを願って
「あー……あのバカちんどもね。一応暴れたバカ達のリーダーは捕まえたけど……なーんかまだまだ残ってるみたいなのよねー」
どうやら事件の首謀者は捕まえることができたようだが、まだ残党は残っているらしい。いや、残党ではなく別の派閥なのか、あるいは信者たちの一部署や一つの班をつぶしただけなのかもしれない。そうなるとまだまだ敵は残っていることになるのだが……まあその辺はガル達がどうにかすることだ。とりあえず今回の事件の実行犯を捕まえることはできたのだから、そこは一安心だと言っていいだろう。
「まったく、何を思って私を支配なんてしようとしたのか……」
「彼らにとっては信仰と守護竜の支配は同じ意味らしいのです。正確には、守護竜を超える事こそがこれまで自分たちを守ってくれた守護竜への恩返しであり守護竜の愛に応える方法だ、なんて本気で思っているようで」
「いや、別に愛ってほどじゃないし……それに、恩返しするんだったら普通においしい料理を作れるようになってくれるとか、遊べるものを増やすとか、そういう楽しい方面のあれこれでいいんだけど」
「彼らの想像する〝守護竜様の楽しいこと〟が戦闘だとでも思っているのではありませんか? あなたはドラゴンなのですから」
「……ドラゴンだからって戦いが好きだと思わないでよね。むしろ、そういう野蛮なことが嫌いだからあの場所から逃げてきたのに」
村のみんなもたまに戦ってたしなぁ。基本的にはだらけてたり盆栽してるドラゴン達だけど、寝起きの体操とばかりにドラゴン同士で戦ってることがあった。あの村に住んでいるドラゴン達は基本的に温厚って言ってたけど、それでも戦うんだから多分ドラゴンっていう種族の本能に戦いたい欲とかがあるんだろう。ガルも口ではいろいろ言ってるけど、最初に思いっきり仕掛けてきたし。
「ガルディアーナ様。お時間です」
「はあ……そっか」
どうやら出発の時間となったようだ。
リーネットの言葉を聞き、ガルは目に見えて気落ちした様子を見せたが、だからと言って俺達を引き留めるつもりはないようだ。
……俺も馬車に乗らないとだな。
俺ももう少し話をしていたいという思いはあるけど、そんなわがままで出発の時間を遅らせるわけにはいかない。
そう思って馬車へと歩き出したのだが……
「んー……グラン。ちょっと手え出しなさい」
「へ? なんだ……うわっ!」
ガルに声をかけられたことで再びそちらを向き、言われたとおりに手を差し出す。何か選別でもくれるんだろうかと思ったのだが、違った。
ガルは俺の手を掴み、突然背中に翼を生やして空へと飛び立った。
突然何のつもりだ。まさか最後に一戦交えようとか言い出さないよな?
そう思ったが、どうやら違うようだ。
「最後なんだもん。隣の大陸までは送れないけど、港まで送るくらいはしてあげる!」
そう言ってガルは翼を生やしていただけの状態から本来のドラゴンの姿へと戻り、俺を背中に乗せて空を飛び始めた。
だが……
「ふらついてんぞ!」
空を飛んでいるのはいいけど……いや、ダメだけど、それはそれとしてふらついているのが怖い。
「仕方ないじゃない。まだ翼の調整が終わってすぐなんだから。こういう治った直後が一番使いづらいのよね」
「じゃあ飛ぶのやめろよ!」
多分方向的に俺達が行く予定の港に向かって進んでいるんだろうけど、何だってそんなことをしてるんだか。
「大丈夫大丈夫。ただ飛ぶくらいならでき……っと。できるから。まっかせなさい!」
「おい! 本当に大丈夫なのか!?」
大丈夫だって言ってるそばからふらついてるのは恐怖しかない。
「いけるいける。っていうか、あなたなら落ちても死なないでしょ?」
そりゃあまあ死なないだろうけど、そういう問題じゃなくないか?
俺だって飛ぶことはできるけど、それはそれとしていきなり空に投げ出されるのはお断りしたい。
「っていうか他の奴らがついて来れてねえんだけど!」
「大丈夫でしょ。どうせ目的地はおんなじなんだから、数日到着に差が出る程度よ」
「その数日がでかいんだよ!」
確かにこのまま進んでいったら一日と経たずに目的地に着くだろう。でも、他の人達はそうじゃない。その人達と合流するまでの数日俺はどう過ごせばいいんだよ。
「でもさ~、正直言って馬車の旅とかつまらなくない? ずっと同じような風景見てるだけだし、まともに動けないし、寝ててもあんまりきもちよくないし。それだったら宿で一日中寝てた方がましでしょ?」
「それは、まあ……」
思わないわけじゃない。新幹線だって流れていく風景を見ているのが楽しいのは最初のうちだけだ。少しすれば飽きてくる。それが馬車のようなゆっくりとした乗り物で何日も載り続けないとなると、飽きるどころの話じゃない。
なので早く着くに越したことはないんだけど……
「それに、最後に少しくらい遊んでもいいじゃない……」
なんだよ。そんな声で言われると離れがたくなってくるだろ。
「……ねえ。また遊びに来てくれるんでしょ?」
俺としては遊びに来たわけじゃなくて事故なんだけど……また、か。そうだな。『竜の爪先』でもまた会おうって言ったし、また来ればいいか。
「ああ。まあ、すぐにってわけにはいかないだろうけどな。向こうに帰るまでもだけど、返った後も色々やることとかあるだろうし」
「そう……」
「でも、数年もすればまた戻ってくると思う。本当に貿易が始まるんだったら、この国との話し相手に一番適してるのは俺だろうしな」
貿易をするにしても、最初はそれなりの立場ある者が行くことになるだろう。その場合誰が適任かと言ったら、俺だ。何せすでに話をしたことがあるし、何だったらそもそも貿易の話を持っていくのも俺なんだから。
今はまだ何の立場もないけど、数年もすれば王族としての地位があるだろう。最低でも王族として名を連ねるくらいはしているはずだ。そうなれば選ばれるのは間違いない。
「……そうね! 今度あなたが来たときは全力で歓待してあげるわ!」
俺の言葉を聞いてガルの態度は目に見えて変わり、声も楽し気なものへと変わった。
「守護竜様じきじきの歓待とはなんともありがたいことだな。だったらこっちも全力で事に当たらないとだし、場を盛り上げるために共通の知り合いでも連れてくるか」
「共通の知り合い? それって……」
何か思い当たる存在がいるのだろう。ガルは直前までの楽しげな声ではなく不安に満ちた震える声をしている。
だが、自分の考えを口にしてしまえばそれが現実になってしまうとでも思っているのか、ガルは途中で口を閉じて何度も乱暴に頭を振った。
「次に来るときはジジイを連れてこようかな」
「それはマジでいらないから。いらないから!」
そんな悲鳴じみた叫びを聞いて笑いながら、俺はガルの背中に乗って空を飛んでいくのだった。
……本当に、またいつか会えることを願ってるよ。
これにて今章は終わりとなります。ここまで読んでくださってありがとうございます。
ストックが切れたのでまた少し休みます。
ある程度かけたら再開しますので、その時をお待ちください。




