到着したその日に
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「なんか騒がしいな。……まさか、ここでも問題が起きたりしないよな?」
リーネットが挨拶に来てしばらくして、俺達は寝ることとなりライラは与えられた自室へと戻っていき部屋には俺一人だけとなったのだが、ベッドに寝ころびながら目を瞑って今日の事やこれまでの事、そしてこれからのことについて考えていたのだが、なんだか耳障りな雑音が増えてきたことで目を開ける。
そしてなんだか違和感を感じたことで少し廊下に出てみようと体を起こした瞬間――天井が爆ぜた。
「一日目で襲撃って……流石にいきなり過ぎじゃないか?」
警護がつけられるって聞いてたし、もしかしたら何か起きるかもしれないってライラからも言われていたけど、流石に一日目にして襲ってくるってどうなんだ? 俺達が来るのは予定になかったわけだし、襲うにしても準備も何もできていないだろうに。
それとも、準備が不十分だったとしても襲撃をしなくてはいけない理由でもあったのか?
「……嘘だろ?」
「チッ! 寝てないぞ!」
「クソッ! だが薬は効いてるはずだ。捕らえろ!」
天井が爆ぜると同時に襲い掛かって来た襲撃者が二人と部屋の外から一人。どうやら俺が寝ていないことは想定外だったようだが、薬って言ってるから食事化飲み物に混ぜられたかしたんだろうか? 特に何にも変化は出ていないんだけど……回復用の魔法を使えば大丈夫か? でも解毒とかは専門性があるってジジイから聞いたことがあった気がするしなぁ。
「とりあえず、これをどうにかするか」
呟くと同時にドラゴンの魔力を開放し、襲撃者たちに叩き付けることで威圧を与える。
「ぐっ……まだ――」
まだ大丈夫、まだ負けていない。そんなことを言おうとしたのかもしれないけど、最後まで聞く前に全員の首を貫いておしまいだった。この程度なら竜魔法を使うまでもない。森での狩りと同じで、早く動いて急所に一撃叩き込んで終わり……って、生かしておいた方がよかったか?
敵が襲い掛かって来たから殺したけど、特に難しいことでもなかったし捕えて情報を吐かせる、なんてのがこういう状況の定番な気もする。……まあ、今更言ってもどうしようもないことか。
「城の兵士が攻撃して来た……ガルの命令ってことは……流石にないよな。そうなると……」
「グラン!」
襲ってきた兵士の姿をした襲撃者を調べていると、勢いよく部屋のドアが開かれライラがやって来た。
この様子だと、どうやら向こうでも襲撃があったようだ。
「ああ、ライラ。そっちはどうだった?」
「こっちにも来たわ。殺さないで捕まえる気だったみたいだけど、そっちは?」
「こっちも捕まえるのが目的だったみたいだ」
毒を盛ったのに殺すんじゃなくて動けなくするつもりだったことから、こいつらは俺を殺すのではなく捕まえるつもりだったと考えられる。捕まえてどうするつもりだったのかは知らない。この国に来たばかりの俺が知るわけがない。
ただ、一応俺は守護竜の知り合いだってことになってるはずだし、ドラゴンが人間に化けていると思われているはずだ。それなのに襲ってくるってことは、ドラゴンを倒したい奴らか、あるいは守護竜に敵対している奴らだろうか?
とりあえずガルのところに行って話をするべきだろうと思って廊下に出てみたのだが、この部屋以外にも廊下の奥から血の匂いが漂い始めた。
「ここ以外にも血の匂いがするな」
「そう。なら城全体で何か起きているとみるべきね」
だろうなぁ。でも、城全体を巻き込むような事件なんてすぐにできるものか? 俺が来たから襲撃を仕掛けたってよりも、前々から準備していて、俺が来たのがきっかけで計画を実行した、って方がしっくりくる気がする。
でもそうなると、俺達以外に本命があるってことで、今より余計に面倒な事態が起こるんじゃないだろうか?
「どうする? このまま城にとどまってても面倒なことになりそうな気がするんだけど?」
「そうね……でも、ここから逃げたら私達が騒ぎの犯人にされるかもしれないわ。そうなったら大陸を移動するどころの話じゃなくなるわよ」
「それは……困るなぁ」
流石にガルが国のトップって言っても、城で事件を起こした犯人に船まで貸すのは難しいと思う。そうなると自前で大陸を渡る手段を確保しないといけないわけだけど……簡単にはいかないよなぁ。多分港にも話が伝わるだろうし、船を奪って逃げるしかないと思う。
できないことはないけど、できる事ならやりたくない方法だ。
「とりあえずリーネットさんを呼んでみましょう。あの人なら何か対処法を思いつくかもしれないわ」
「そもそもここに来れるのか? 城で何か起きてるんだったら、途中で殺されるかもしれないぞ」
「あの人はそれなりに武芸をたしなんでいたようだし、大丈夫じゃないかしら。それに、その時はその時よ。客人である私達を危険にさらしたというだけで問題なのだから、危険を承知でも呼んだら来るべきね」
「……ああ、そう」
当たり前のように言ってのけるライラを見て、生まれの違いを再認識した。上に立つ者としてそうあるべきだ、という考えではなく、本当に心の底からそうであることが当たり前だと思っているらしい。
それがライラの育ってきた環境であり、そういう文化なんだろうからそれを否定するつもりはない。日本の常識と違っていたとしても、こっちではそれが常識なんだから。
だけど、これからは俺もその常識の中で生きていかないといけないわけで……うまくなじめるだろうか?
「誰か来る」
内心でこれからのことを不安に思っていると、不意にこちらに向かって走ってきている者がいることに気が付いた。
ライラと共に警戒していると、廊下の奥からは一人のメイドがこちらに向かって走って来ていた。リーネットだ。




