これが王様……?
「今だ! やれ! そいつらを殺せえええ!」
どうしようかと思いながらも、扉が開いた以上は進まないわけにはいかない。
内心を隠しながら部屋の中へと入っていったのだが、中央付近まで進んだところで突然国王からそんな叫びが聞こえてきた。
まさか罠か! そう思って周囲を警戒したが、何もない。周りに騎士や兵士はいるものの誰も動かないし、誰も敵意を向けてきてはいない。どういうことだ?
「なにバカなこと言ってるのよ! このあんぽんたん!」
自身の陥った状況に困惑していると、後方上段に座っていた守護竜が猛スピードで立ち上がり、国王の頭を横から殴り飛ばした。
「えー……」
突然の状況に思わず声が漏れてしまったが、流石にこんな光景を見せられたら仕方ないと思う。
でも、周りの騎士やリーネット達は見慣れた光景なのか、呆れたり首を振ったりしているけど慌てた様子はない。きっと普段からこんな感じなんだろう。
「で、ですが守護竜様っ……! 奴らはあなたのことを傷つけた不届き者ではありませんか!」
「だーかーらー! それはもういいの! あれはちょっとした手合わせだったんだから。どうせこんな傷一週間もあれば完治するんだから」
そういいながら守護竜は左腕で国王の頭を小突いている。よく見れば左腕の肌が少し青白い気がするけど、それはまだ生えた直後で完全に元通りというわけではないからなのだろう。
まあ形が戻っただけでもすごいし、一週間で完全に戻るんだからドラゴンって常識外れだよな。
「一週間! そんなに長い間守護竜様を苦しめることになるなんてっ! ち、治癒を! 治癒師を呼べ! 国中にいる全員だ!」
「落ち着きなさいバカ!」
騒ぎ出したところでまたも殴られて黙らされる国王。……これでいいのかこの国は。
「……申し訳ございません。主の無作法を代わりに謝罪いたします」
「いやコレ、無作法って……いや、うん。いいけどさ」
一連の流れを唖然としたまま見続けていた俺達に、リーネットが謝罪の言葉と共に頭を下げてきた。
正直言って無作法どころの話じゃない気もするんだけど、だからと言って俺達が何か害を受けたってわけでもないし、一旦気にしないことにしよう。ここで何か言ったところで何が変わるわけでもないし、変わったところで俺達の今後には関係ないだろうし。
「ふう……静かになった。……あ」
吹っ飛ばした後も騒ぎ続ける国王を黙らせるために何発か拳を叩き込んだ守護竜が満足したように顔を上げたが、そこで状況を思い出したのかわたわたと両手を動かしてから足早に自分の椅子まで戻って座り直した。
だが、その顔はそっぽを向かれている。そのせいで今どんな顔をしているのかわからないが、なんとなく予想はできる。
「良く参った。先ほどは騒がせたな。そなたらは我が客人として迎えるよう伝えてある故、城の中では自由にして構わぬ」
「さっきと態度違い過ぎないか?」
「なにを言っているのか理解できにゅな」
顔をボコボコにされて腫れ上がっている国王が何事もなかったかのように立ち上がり、玉座へと戻ったのを見て、守護竜は何もなかったかのように堂々と話し始めたのだが、先ほどまでとあまりの違いに思わず言葉が漏れてしまった。
でも、その状態を無視するのって難しくないか? どう考えてもさっきの光景をなかったことになんてできないだろ。本人だって俺に指摘されて動揺してるし。
「グラン。大人しくしてなさい」
だが、守護竜の言葉に対しての俺の無作法に、ライラから咎める言葉がかけられた。
大人しくって、そんな子供に言いつけるような……いや、子供だけどさ。
確かに国のトップに対しての態度じゃなかったかもしれないけど、これは仕方なくないか?
「そなたらがこの地を訪れた理由は聞き及んでいる。そのあたりの事情を含め、また後程話をさせてもらうが、今は旅の疲れを癒すと良い」
そうして早々に話が終わって国王はすぐに退室していった。
あまりにも短すぎるんじゃないだろうか。話の前までの茶番の方が長かったし印象に残っているんだが……まあこんなもんなんだろう。顔を見せに出てきてくれただけでもありがたいこと……なのかもしれない。
けどまあ、とりあえずこの城での滞在は保証されたわけだし、良しとしておこう。
国王と話がしたいわけでもないし、特に大きな問題もなかったしな。そう、問題はなかった。いいね?




