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Side:守護竜信仰者創造派

 ――◆◇◆◇――

 Side:守護竜信仰者


「なんだ今のは……」

 とある建物のとある部屋にて、複数人の男女がテーブルを囲んで話し合いをしていたのだが、それは先ほどまでの話。

 現在は話し合いをしていた全員が慌てて立ち上がり、窓から外の様子を窺っている。


「あれは守護竜様がお出になられたのか」

「だが、戦っているようだぞ」

「戦いなど……相手は何者だ?」

「わからん。だが、少なくともドラゴンではないな。この距離から見えないのだから、その程度の大きさということだろう」

「しかし、ドラゴンでないなら、守護竜様を相手にいったいどんな存在が〝戦い〟を行うことができるというのだ」


 彼らが見ているのは街の外。この国の住民にとって神に等しい存在である守護竜が飛んでいった方向だった。


 グランの気配を感じた守護竜が城を飛び出し、街の上空でドラゴンの姿へと戻ったことで彼らは守護竜の向かった先で何が起きたのかを観察していたのだが、そこで起きたのは守護竜による〝戦い〟だった。


 ドラゴンは最強の種族と呼ばれており、それは事実である。ドラゴンを真っ向から倒せるのはドラゴンだけであり、大抵の場合は戦いとなる前に蹂躙されて終わる。

 それほどドラゴンとは強大な存在なのだ。


 だがそのドラゴンが、現在街の外で〝戦い〟を行っている。そのことが彼らにとっては驚愕だった。


「あれは……おおっ! あれが守護竜様の息吹。なんと力強い炎か……!」

「相手が何者であれ、これで終わりだろう」

「だが、ドラゴンではないものが守護竜様を相手にまともに戦うことができた、という点は褒めるべきだろう」

「そうだな。我らの願いの一助となるやもしれん」


 守護竜がドラゴンの姿となり待ちの外に行ったということは、そこにはドラゴンが対応すべき敵が存在しているということだ。だが、彼らは守護竜が負けるとはみじんも思っていなかった。


 確かに強大な敵がいるのかもしれない。人間には理解できない力を持った存在がやって来たのかもしれない。

 だが、ドラゴンが――守護竜様が出たのだから勝てないわけがない。


 今街の外では戦いが繰り広げられているし、現れた敵がドラゴンと戦えることは凄いとは思う。自分達であればすぐにでも死んでいたかもしれない程の強さなのだろう。


 だが結局は守護竜に勝つことはできない。


 そう思っていた。いや、思ってすらいない。そうであることが前提として頭の中に存在していたのだ。


 今回ばかりはその考えは間違っていたのだと認識することとなる。


「……まて! 何やら様子がおかしいぞ」

「なに? どうしたという――なんだ、あれは……」


 守護竜の吐き出したブレス……炎が空を赤く染め、昼間だというのに夕焼けに染まったかに思える光景は、だがその直後天へと放たれた光る槍によってかき消された。そして……


「ひかり……? あれは、なんだ……。なんだというのだっ……!」


 守護竜の吐き出した炎が消えてからしばらくし、眩いばかりの光が太陽の光すら踏みにじり、世界を照らした。


 その光は一直線に空を穿ち、直後に発生した爆発の音と衝撃はすぐ近くにあった王都の中を駆け抜けた。


「竜の……息吹……?」


 世界に一本線を引いたような光。そしてその後に地に落ちていった守護竜。

 そんな光景を見て数十秒か、数分か、彼らは呆然と立ち尽くしていたのだが、彼らのうちの一人が不意に呟いた。


「どういうことだ? あれが竜の息吹だと?」


 あり得ない。彼らにとってドラゴンの吐き出す息吹というものは、最初に守護竜が吐いた炎のことだ。あの光とはその光景も、その威力も、似ても似つかないものだった。


「……他の大陸から手に入れた記録には、『ドラゴンの吐き出す光は全てを灼き滅ぼす』と記されていたものがある。光とは炎の比喩かと思っていたが……もしやあの光こそが真の炎なのではないか?」


 いまだに窓の外を見ながら、ドラゴンのブレスについて言及した者はそんな疑問を口にしたが、それを受け入れることができないものもいる。


「バカな! そうだとしたら、ドラゴン以外がブレスを使用したというのか? あり得んだろう。ならばアレは神か何かか?」

「いや待て。他のドラゴンということはないか? 守護竜様と同じように人化をしているとなれば、姿の問題はなくなる」


 ドラゴンに勝つことができるのはドラゴンだけ。そんな常識があるからこそ、その考えは意外なほどにすんなりと受け入れられた。

 だが守護竜が戦っていた存在がドラゴンであるとしたとして、他の疑問が湧いてくる。


「なるほど。しかしそうであるなら、なぜここに? 守護竜様と戦っていたこともだが、よもや侵略に来たのでは……」

「それはなかろうよ。もしそのつもりであるなら、まだ戦いは続いているはずだ。守護竜様が戦いをやめたということは、元より本気での戦いではなかったということだろう。大方、守護竜様のお知り合いの方なのだろう」

「だがドラゴンがこの地を訪れるなどという情報はなかったぞ?」

「相手はドラゴンだからな。気まぐれに訪れたのではないか? 人を相手に事情を考慮してくれるものだと考えない方が良かろう」


 それが真実であるかはわからない。だが状況に一応の説明を付けられたことでその場にいた者達は落ち着きを取り戻し、再び席に着きなおした。


「しかし……そうなると今のこの地にはドラゴンが二体存在しているというわけか。これはチャンスではないか?」


 通常であれば何か〝事〟を起こそうとしているときにドラゴンが二体そろっているなど厄介なことこの上ないが、彼らにとって……守護竜信仰者の計画においてはドラゴンが多くいることは必ずしも不運だとは言えなかった。


「チャンスだと?」

「現在城は新たなドラゴンの来訪により、警備に乱れが生じているだろう。訪れたドラゴン自身も、人間相手に警戒をしてはいまい」

「つまり、竜の実験体が手に入るということか」


 その言葉でこの場に集まった者達に緊張が走り、それと同時に高揚が胸に宿った。


 竜の実験体。その言葉からわかる通り、彼らは竜を……守護竜を捕えようとしていた。

 守護竜に感謝をするための団体である守護竜信仰者達であるのに守護竜を捕えるのは規律や思想に反するのではないか。そう思うのが普通だろうが、あいにくと彼らは普通ではなく、彼らの中では自分達の考えは真っ当なものだった。


「理想を語るのであれば守護竜様ご自身のお体が手に入るのならばそれに越したことはないが、流石にそこまでは望めまい」

「我ら創造派の願いは守護竜様の使役、および人工的な竜の創造だが、いきなり守護竜様に試すわけにはいかないのだからちょうどいいのではないか? 流石にワイバーンのような劣化種と同じとはいかないだろう」

「だが、せっかくの機会だ。使役を試みるのは悪いことではないのではないか?」


 守護竜信仰者にはいくつかの派閥があるが、前回グラン達が遭遇したのが『開拓派』であり、人の可能性を切り開くことを主目的とした派閥である。

 それに対してこの場にいる彼らは、人は人のまま竜を超えることを目的としている。そのために人工的にドラゴンを作り、ドラゴンの軍を従えることですべての種族を下そうと考える『創造派』であった。

 その人工ドラゴンを作る第一歩として、実際のドラゴンを使役、支配し、調査、解明する必要があると考えていたし、その準備もしてきていた。

 そのため、彼らにとってはドラゴンが増えるというのは喜ばしいと言えることだったのだ。


「そうだな。どうせ今回の件で開拓派の連中も動き出すだろう。我々だけ後れを取るわけにはいかん」

「では、守護竜様とその客人。かの方らを手中におさむるべく、急ぎ動くとしよう」


 かの方、などと敬っているにもかかわらず捕え、実験しようとしていることに何ら矛盾を感じない狂人たちが動き出すのだった。



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