大体ドラゴン様が何とかしてくれる
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「――それにしても、ついにか」
あのふざけた事件のせいで本来の出発予定よりも二週間近く出るのが遅れたが、ようやくだ。これでようやく元の大陸に帰るための話を進めることができる。
「ええ。これから向かうのは王都……いえ、竜都よ」
竜都……。この国は一応王制だし王国だけど、実質的に竜が最上位に君臨しているから竜国なんて呼ばれるし、王都も竜の都で竜都と呼ばれているんだろう。
「守護竜が住まう都、か。よく話をつけられたな。予定ではこの近くの貴族の誰か、なんて話じゃなかったか? 王都までの距離的にも、二週間じゃ話をまとめる時間が足りないだろ」
最初は近場の貴族に話を通すってことになっていたし、時間的に王都にいる相手と話をつけるなら移動時間を考えると二週間じゃ足りないだろうに、一体どうやったんだろうか?
「最初はそのつもりだったみたいなのだけれどね。話を持ち掛けた貴族が王都の貴族との連絡手段を持っていたみたいで、そこからとんとん拍子に話が進んでいったのよ。まあ、向こうとしても今の状況はよろしくないと思っていたんじゃないかしら?」
「でも、平気なのか? 大きく動きすぎると守護竜の不興を買うことになりかねないんだろ?」
それを避けていたからこそ、大きな変化が起こるような行動はしてこなかったわけで、貿易だって地方貴族と一緒に慎ましくやっていこうとなっていたはずだ。それなのに首都にいる貴族にまで話を通すなんて大事にしても平気なんだろうか?
「その辺は大丈夫らしいわ。不興を買うかもしれないから動かない、なんて考えているのは地方の貴族たちだけで、王都の貴族は守護竜の方針についてよく知ってるみたいだから平気なラインは見極めているみたい」
「その割に今まで貿易とかしてこなかったんだな」
「細々とはやっていたみたいよ? ただ、自分達から話を持ち掛けることはしてこなかったから大々的にはやってこなかったみたい。この国、というかこの大陸って、守護竜の気質の影響で鎖国状態とまではいかなくても、排他的、閉鎖的な気風の国らしいのよ」
つまり引きこもり、あるいは陰キャ気質な国ってことだろうか。
来るならそれなりに対応するけど、自分達からは求めに行かない、みたいな。
「今回は私達という他国の人間が動いているし、特に拒否する理由もないからやりたいなら勝手にやれ、ということみたいね」
「勝手にやれって……それでいいのか、国として」
地方貴族が細々とやるならそれでもいいかもしれないけど、首都の貴族まで絡んで大々的にやるのに勝手にやれとは……無茶苦茶というかなんというか。
「いいみたいよ。それに、どうせ何か問題が起きたならドラゴンが出張って全部なかったことにしてくれる、なんて思ってるみたいね」
「ドラゴンね……」
結局問題が起きてもドラゴンが解決できるから、解決してしまうから、成長しないし変化もしない。
変化を求めて動く者も多少はいるし、変化するというならそれを受け入れるが、だからと言って自分達からわざわざ動くことはしない。幸せな箱庭のような国で今ある平穏を享受し続ける……一言でいうなら怠け者の国だな。悪意を持っていうなら……ドラゴンのペットのように感じる。
今回の話だって、もしこれで問題が起こればドラゴンが……守護竜様が何とかしてくれるとか思っているんじゃないだろうか? だから特にもめることもなくとんとん拍子で話が進んでいったのかもしれない。
……まあ、その辺のことはどうでもいいか。俺の作った国ってわけでもないし、ここに暮らしているわけでもない。その守護竜の知り合いってわけでもないんだ。どうせここは通り過ぎるだけの場所。永遠に住むわけでもないんだから、好きにすればいい。
ただ……守護竜に会う機会があったら少し話をしてみたいとは思った。まあ、そんな機会なんてないだろうけどな。何せ今の立場って王祖と旅人だし。普通ならどう考えても遭遇することなんてないだろ。
あったとしても、一度俺が国に帰って正式に王族に名を連ねた後だろうか。その時になってようやく貿易相手の代表として顔を合わせることができると思う。
だから今は関係ないことだ。
「……問題は起こさないでちょうだいよ? 守護竜相手に問題なんて起こしたら、大変なんて言葉じゃすまないんだからね」
なんてライラは真剣な顔で忠告してくるが、心外だな。
「起こさないよ。というか、守護竜に会う機会もないだろ。どうせ話をするのはライラだし。それとも、俺も話に参加した方がいいか? なんか色々任せすぎて心苦しいとは思ってたし――」
「それは遠慮しておくわ。あなたが出てきたら余計に面倒なことになりそうだもの」
「俺から何かしたことはないんだけどなぁ……」
色々と周りで何か問題が起きてる感はしてるけど、だからと言って俺から何かやらかしているわけではない。事の起こりである転移だって俺のせいではなく、どちらかというと魔法具をもっていたライラのせいだし、普通の人にとっては強敵である魔物を倒したのだって俺にとっては弱かったってだけ。守護竜信仰者の事件だって俺が起こしたわけじゃない。あれはあいつらが勝手にやらかしただけだ。
ほら、俺が何か自分で問題を起こしたことなんてないだろ? ……まあ、加減ができずにやらかしたことがあるのは認めるけど。
「何か起きた後の対応が問題なのよ」
「う……まあ、次からは何か起きた時には気を付けるよ」
「そうしてちょうだい」
そう話をして俺とライラは同時にため息を吐いた。
だが、流石に俺だってここで問題を起こすのはまずいことくらいわかる。いや、今までもまずかったけど、今回は特にだ。もしここで問題を起こせば、それが些細なことであったとしても大きな問題となり、貿易が……ひいては他の大陸への移動が不可能となってしまうかもしれないのだから。
だから今回ばかりは本気で大人しくしておこう。目の前で誰かが襲われていても見捨てる覚悟で行くべきだ。
……だが、そんな俺の覚悟は無意味なものとなった。
「――なあ。これってどうやって気を付けるべきだと思う?」
「……さあ?」
いきなり目の前にドラゴンが下りてきた場合はどう気を付けていればよかったんだろう?




