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異世界ドラゴン村で育った人間は当然の如く常識外れだった  作者: 農民ヤズー


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子供の約束

 

「お世話になりました」


 この街で騒動があり滞在する日数こそ延びたが、それでも俺達はこの街を出ていくという行動自体は変わらない。


「グラン!」


 冒険者ギルド『竜の爪先』のメンバー達に挨拶をすると、その中から子供が一人前に出てきて俺の名前を呼んだ。リックだ。

 リックの後に他の子供達も出てきたがそのどれもが見知った顔で、ここに来てから仲良くして来た者……友達だ。


「なあ、行くの早くねえか? まだ居てもいいだろ」

「なに言ってんのよリック。もういろいろ予定が決まってて準備が終わって……っていうかもうこれから出発するところだっていうのにそんなこと言っても無理に決まってるじゃない!」


 引き留めようとするリックをリリが咎めているが、そんなリリの顔もどこか寂し気だ。


「そうだけどよ……こいつはもうここに来ることねえんだろ?」


 そうだ。俺はここを出ていったらもうこの街には戻ってくることはない。もしかしたら何らかの事情で来ることはあるかもしれないが、少なくとも今のところ戻ってくる予定はない。だからこそリックはこうも俺のことを引き留め、リリも寂しそうな顔をしているんだろう。


「……ああ。多分俺はもうこの国には来ない。元々この国に来たのだって事故だったんだ。自分の国に帰ったらそっちで暮らすはずだ」


 元々俺はここに来ることはないはずの人間だ。ただちょっと事故でこっちに来ることになっただけで、本来なら俺とリック達は関わりを持つことはなかった。だから俺がここを離れていくんだとしても、それは本来の暮らしに戻っていくだけのこと。

 でも……


「別の大陸、だもんな……」

「ああ」


 それだけのことだと割り切れたのならどれほど楽だろうか。

 俺とリック達は色々なものが違う。生まれも故郷もこれまでの人生も、そしてその精神性も。

 生まれ変わったことで人生二度目の俺とリック達では、精神年齢が違う。対等な関係なんてなれるはずがないんだ。


 それでも、俺とリック達は確かに友達だった。もしかしたら、〝俺〟という存在にとって初めてできた友達かもしれない。前世では、無駄にプライドだけ高くて心から笑いあうような友達なんていなかったから。もしかしたら子供のころはいたのかもしれないが、覚えていないんだからいないのと同じだ。


「グラン」

「ん、分かってるよ」


 リック達と別れを惜しんでいるとライラに声をかけられたが、分かっている。いくら惜しんだところで予定を変えるわけにはいかず、帰らないなんてことはもってのほかだ。

 だからいつかどこかで別れるしかないし、そのいつかが今だというだけの話なんだ。


「ほら、お前らもいつまでもぐだぐだいってんじゃねえっての。別れなんざ冒険者につきものだろうが」

「ガロン……そうだけどよ……」


 リック達の方もガロンに声を掛けられ、諭されているが、それでも納得しきれないようで不満げに顔を顰めている。


「また会いたいってんなら、お前が大陸を移動できるくらい力をつけりゃあいいじゃねえか。これからこの国とグランの国で貿易が始まる。……かもしれねえんだ。そうなりゃあ海を越えて移動することだってできるようにならあ」

「俺が、海を越える……」

「ああ。冒険者として依頼を受けて船の護衛とかもあるかもしれねえんだ。なくても力をつけて金を稼げばいくらでも船なんて乗れるようになんだろ」


 海を越える、か……。確かにそれならまた会うこともできるだろうけど、まだ貿易の話もまとまっていないのにそんなことを提案するのはどうなんだ? 


 それに、海を越えるための護衛なんて、かなり強く、なおかつ実績がないと難しいと思う。多分ガロンくらいになれば問題ないと思うが、ガロンは冒険者の中ではかなり優秀な部類に入るエリートだと聞いた。そんなガロンと同程度の存在になれるかというと……正直難しいだろう。少なくとも誰もがなれるわけではない。


 それなのに海を越えればなんて語るのは、無駄に希望を持つだけなんじゃないだろうか?


 その難しさをリックも理解しているからか、何も言わずに俯き、黙り込んでしまった。


 俺達はそんなリックを尻目に馬車に乗り込み、王都行きに同行する者たち全員の準備が整うのを待つ。


「おいグラン! いつか俺がお前のいる国に行ってやる! そん時はお前くらい強くなって見せるからな!」


 そしていざ出発というところでリックの叫びが聞こえてきた。窓の外を見ると、胸を張ってこっちを見ているリックと目が合った。

 何か言葉を返すべきなんだろう。そう思って口を開いたが、止めた。

 そして言葉を返す代わりに、やってみろと挑発するかのように笑みを浮かべ、窓から顔を離した。


 その直後に隊列が進み始め、俺達の乗っている馬車も進み始めた。リックはああ言ったが、多分もう会うことはないだろう。

 けど、もしまた会う日が来たら……


 そう思うと自然と口元に笑みが浮かんだ。


「子供っていうのは凄いな。向こう見ずっていうか、情熱に溢れてる感じがするよ」

「なに言ってるのよ。あなたも子供でしょうに。ドラゴンと過ごしたからって心までドラゴンみたいに老成したなんて言わないわよね?」

「流石にそこまではいわないよ。まあ、普通の子供とは精神の在り方が違うとは思うけど」


 ドラゴンに育てられたからではなく、元々こういう性格なんだよ。何せ生まれ変わったわけだし。



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