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異世界ドラゴン村で育った人間は当然の如く常識外れだった  作者: 農民ヤズー


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この世界って大変なんだな

 ――◆◇◆◇――


「――さて、それでは言い訳を聞かせてもらえる?」


 何ともならなかった。

 いや、街の人達に対する誤魔化しとしてはうまくいったと思う。でも、流石にライラは誤魔化せなかった。当たり前か。


 そんなわけで街の騒ぎが落ち着いた現在、使うなと言われていた竜魔法を盛大にぶっ放したことがバレた俺は、宿にて正座をさせられて説教を受けていた。


「いやあの、言い訳っていうか……あれは仕方なくないか?」


 まごつきながらも言い訳をしてみるが、ライラからの視線は冷たいままだ。


「へえ。余波だけで建物が倒壊するような技を使っておいて仕方ないと?」


 ああ、アレやっぱり被害出してたか。でも当然だよな。何せドラゴンの最強の技だし。標的だけ倒すなんてしょぼい技なわけがない。技をよけようとその副次的な効果で周りを薙ぎ払うくらいの威力があって当然だ。

 ……まあ、そんなこと言ったら絶対に怒るから言わないけどさ。


「……まあ、ね? まがい物の出来損ないって言っても、ドラゴン相手じゃん。まだ使い方を覚えて間もない普通の魔法だけでどこまでできるかって言ったら、最悪負けてたかもしれないんだ。竜魔法を使ったのは仕方ないだろ」


 これは割と本気でそう思ってる。竜人もどき程度なら何とかなったかもしれないけど、それでも多少なりとも苦戦したかもしれない。時間をかければ余計な被害を出していたかもしれないし、竜魔法を使ったのは仕方ないことだと思う。


「……はあ。確かに竜魔法自体は仕方ないとは思っているわ。私も何体か斬ったけれど、普通の魔法ではアレの相手は苦労したでしょうね」

「だろ?」

「ええ。でも、だからってブレスまで使う必要はあったの? 〝爪〟や〝牙〟だけではダメだったの?」


 それを言われるとなぁ……倒せないことはない。けど……それじゃあダメだったんだ。


「そっちでもいけないことはなかったと思うけど……でも、あれは完璧に勝ちたかったんだ」

「完璧に?」

「俺にとってドラゴンっていうのはさ、結構大事な存在なんだよ。多分この国の人達以上に身近で、それでもって大切な恩人で、目指すべき場所なんだ。ある意味、俺の人生そのものって言ってもいいかもしれないくらいには思ってる」


 この国の人達は守護竜――ドラゴンを身近に感じているかもしれないし、恩や祈りを向けているんだろう。でも、俺にとってはドラゴンっていうのは恩人で、友で、家族で……親なんだ。


「それは……そうかもしれないわね」

「ああ。で、そんなドラゴンをさ、向こうにも言い分とか願いとかはあるんだろうけど、俺としてはあんな形でドラゴンを真似されて、なんかすごい馬鹿にされてるような気がしたんだ。あれがドラゴンなのか。あんなものをドラゴンと言い張るのかって思ったら、我慢できなくて全部消してやろうって……でも、うん。ごめん」


 家族を貶められたような気がして、ただ殺すんじゃなくて圧倒して、その上で塵一つ残さずに消さないと気が済まなかった。お前の研究なんて、お前の人生なんてすべて無意味だったんだ、と踏みにじって否定してやりたかった。

 こんな事件を起こしても何の意味もない。すべて無意味なことで、無意味な人生だったんだとあいつの頭に……心に叩き込んでやりたかったんだ。

 多少なりとも調子に乗った面があるのは間違いないけど、大本の理由はそれだ。


 とはいえ、これは俺の自己満足であり、俺のためにいろいろと動いてくれているライラに迷惑をかけたことは悪いと思っている。


「……はあ。いえ、あなたにとってドラゴンが大事な存在だというのは分かっているわ。だから仕方ないことなのかもしれないわね」


 ライラは少しの間俺のことを見つめてから、はあっと息を吐き出してからそう言った。どうやら俺のやらかしは許してくれるらしい。よかった。


「ただ、やったのはあなただとバレていないとしても、やっぱり問題があるのは事実よ。実際、事件は片付いたけれど、あのブレス……魔法は誰が使ったんだ。あれほどの魔法が使える存在がこの街にいるのか、なんてちょっとした騒ぎになっているわ」


 だろうね。なんだったらあのブレスの余波の方が竜人もどき達よりも被害出したかもしれないし。……やっぱりやりすぎたな。


 しかしどうするかなぁ。一応逃げて誤魔化したとはいえ、このままこの街にとどまっているよりも別の場所に避難した方がいいのかな?


「……例の王都にいる貴族に渡りをつけるって話はどうなってるんだ?」

「今やってもらってるところよ。あと二、三日もしたら返事が来ることになっているみたいだからそれから話をして予定を決めて……まあ最短で一週間後に街を出ることになるかしらね」

「一週間か……長いな」


 これだけの騒ぎなんだし、一週間もあればいろいろと捜査が進みそうな気がする。いや、捜査よりも先に今回の被害の復興か? それならいいんだけど……でも多分両方同時進行するよな普通なら。


「もしかして、騒ぎになる前にさっさとこの街を出て行ってしまおうとか考えていたの?」

「……無理、だよな?」


 できる、と言ってほしかったが、やっぱり現実は無常だ。ライラは首を振りながら俺の言葉を否定した。


「無理ね。ここで急に話を切って逃げ出すなんて怪しすぎるもの。それに、そこまで心配することでもないわ。探しているのは事実だけれど、どうせあなたにたどり着くことはないもの」

「そうなのか?」

「ええ。あれほどの魔法を使えるということは、それなりに歳を重ねた魔法使いである、と考えるのが普通だもの。まだ成人もしていない子供は対象外になるはずよ」

「そっか。よかった……」


 問題ないと聞いて安堵の息が自然と零れた。

 でもそうだよな。普通なら俺みたいな子供があんな魔法を使ったなんて思うわけがないか。


 魔力の痕跡を調べれば俺に辿り着けるかもしれないけど、その痕跡だって上空を調べないとわからないだろう。けど、今の人間は空を飛ぶことは難しいらしいし調べられることもないはずだ。そう考えると俺に辿り着くのは無理な気がしてきた。


 なんだ。思ったよりも安心だな。いざとなったらライラに準備や話を進めてもらいつつ、俺は街の外に出て森かなんかで暮らしてようと思ったんだけど、大丈夫そうだな。

 一週間くらいなら森で生活すること自体は特に問題ない。何せこれまでドラゴンと一緒だったとはいえ森の中で過ごしてきたんだし。だけど、俺だって森の中よりは快適な街の中で暮らしたいとは思うんだ。出ていかなくていいならそれに越したことはない。


「ただ、問題がないのは今だけよ。今後も何かあるようならわからないわ。だからこれからも問題なく事が運ぶように、これ以上騒ぎは起こさないでよ?」

「俺だって別に騒ぎを起こしたくてやってるわけじゃ……というか今回のって俺のせいじゃなくないか?」


 向こうが勝手に事件を起こして、俺はリリという知り合いを助けるために動いただけだ。で、その後は流れで戦うことになっただけで、俺から問題を起こしに行ったわけではない。


「怒ったり腹が立つのはわかるけれど、それでも感情を抑えて動いていればもっと穏便に終わったと思うけれど?」

「それは……わかった」


 そう言われると頷くしかない。俺だって、軽率な行動だったとは思ってるんだし。

 ただ、次にもし同じことがあったとしても、俺はまた竜魔法を使うだろう。怒りや感情に任せてではないかもしれないけど、その存在が許せないことに変わりはないんだから。

 まあ、次があるとしたらもっとうまくやろうとは思う。


「そう。……では、小言はこの辺にしておきましょうか」


 そう言ってライラは、正座している俺に近づいて頭をなでてきた。


「なんだよ急に」

「いろいろと考え無しで問題のある動きではあったけれど、行動自体は褒められるべきことをしたでしょう? 子供を助けるためにドラゴンもどきと戦ったのは褒められるべきことよ」

「いや、それはドラゴンをバカにしたような存在が出てきたからで……」


 あの竜人もどきを全力で倒しに行ったのは、その存在が気に入らなかったからだ。これが普通の賊だったら、リックやリリを助けるのを優先して敵を倒さなかったかもしれない。


「もちろんその感情もあったでしょう。でも、事実として子供を逃がし、助けたのは間違いじゃないわ。だから、そこは褒めなくちゃ。正しい行いは正しく評価するべきだもの」


 なんだか気恥ずかしい。中身が社会人だっていうのもあるけど、今世では誰かに頭を撫でてもらったことなんてないから。

 ジジイ達も頭を撫でることはなかった。何せ撫でようとすれば俺が物理的に潰れることになりかねないし。人間状態でも力加減を間違えたら大怪我することになるから、あまり肉体的な接触とかスキンシップっていうのはなかった。

 それに、そもそもドラゴンには誰かを撫でて褒めるという文化がないこともあり、撫でてもらったのは随分と昔……それこそ記憶にないくらい昔のことだ。

 だからこうしてライラというある意味保護者である存在に撫でられるというのは、何とも言えない感じがする。

 でも……悪くはない気分だ。


「それにしても、あんな頭のおかしい奴らに出会うなんて……この世界って大変なんだな」

「あんなのに遭うのは稀よ。……普通ならね」

「普通ならって、俺たちは普通じゃ……ないよなぁ」

「そうね。出自も境遇も、どう考えても普通とは言えないわ」


 前提条件が一般人から外れているのに、一般人と同じ普通の生活ができるわけがない。多分これからも何か起こるんだろう。


「はあ……帰りたい」

「私もよ」


 これから権力者のいる街に行って、それから大陸を渡って、更に渡って、それから国に戻って、か……。大変だなぁ。

 国に戻ってからも王族だってことで何かあるだろ? ないならないでそれに越したことはないんだけど、あると考えておいた方が無難だと思う。そういうことも考えると……はあ。やっぱり森にいた時の方が平和だったなぁ。

 ドラゴンの暮らす森よりも人間の暮らす街の方が危険が多いってどうなんだろうな?



いつも拙作を読んでくださりありがとうございます。

『勇者少女を育てる』の書籍作業があるのでまたしばらくお休みさせてもらいます。

再開は多分二週間後くらいになると思いますが、多少の前後はあるかもしれません。

再開したらまた読んでいただければ幸いです。

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