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異世界ドラゴン村で育った人間は当然の如く常識外れだった  作者: 農民ヤズー


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偽物VS本物

 

「ま、名前なんてくだらないことはどうでもいいか。それよりも……」

「いや、相手はドラゴンなのだ。いくら人間に化けていようとも、その力は紛れもない本物! ならば……!」


 そう言いながらラキスは口元に魔法を構築し、まるでドラゴンのブレスかのように炎を吹き付けてきた。


 これも威力はある。普通の人間ならすぐに焼け死ぬ程度の威力はあるだろう。

 でも俺からすると、ただ魔力の総量が増えただけ、ただ魔法に込める魔力を多くしただけだ。ドラゴンの使う竜魔法。その本質である魔力の圧縮はみじんもできていない。


「どうした。ドラゴンの力を手に入れたんだろ? ドラゴンになったんだろ? なら、もっとあがいてみろ。本物のドラゴンはその程度じゃないだろ?」


 吹き付けてくる炎の中を突っ切って、気持ち悪い顔面に拳を叩き付ける。

 どうだ。お前みたいな紛い物じゃない。ドラゴンにも認められた正真正銘の竜の拳だ。


「ぐっ……ならばあっ!」


 俺に殴られたせいか、まるで粘土細工でできた顔を殴ったような、元々歪だった上に更に歪になった顔で叫ぶ。そしてそれと同時に全身がボコボコと膨れ、うごめき、体の肉が背中――翼へと集まっていく。


「醜いな……」

「これでお前をおおおををおおお!」


 ラキスはそう叫びながら大きくなった翼で空を飛んでいった。


「空を飛んだ……なるほど。トカゲから蝙蝠に変わったわけだ」


 空を飛ぶのは魔法使いの夢であるとライラから聞いていたけど、曲がりなりにもそれを実現できたということは、それだけ力を持った存在に変わったということなんだろう。

 もっとも、それがドラゴンかと言われると頷きがたいけど。


「どうだ! これぞ奇跡! 空を飛ぶことで得られる圧倒的な優位性を手に入れたぞ!」

「圧倒的な優位性ね……まあその考えはわからないでもないし、この世界の人間的には空を飛ぶことが夢みたいな部分があるらしいからはしゃぐのもわかるんだけどさ。でも、お前は今自分の前にいるのが誰なのかを忘れたのか?」


 空を飛んだら優位に立てるというのは理解できる。その状態から魔法を放ってくるのも、それを自慢するのも理解できるさ。

 でも、所詮それだけだろ?

 空を飛ぶのは、お前にだけ許された特権じゃないんだ。


「――『竜の翼は何者にも縛ることのできない自由の具現』」


 俺がそう口にし終えると同時に、背中に光の翼が出現した。そして翼が揺らめくと俺の体はふわりと浮かび上がり、速度を上げてラキスと同じ高さまで飛び上がった。


「そ、そらをとんだっ!?」

「当たり前だろ。お前、自分が俺のことをドラゴンだって呼んだの忘れたのか?」

「ぐ、ぐうっ……だが!」


 そう言ってラキスは先ほどと同じように口から炎を吐き出してきた。

 また性懲りもなく、と思っていると、ラキスの頭の左右が不自然にうごめきだした。そしてそのまま盛り上がり、形を作っていく。

 そうして出来上がったのは新しい頭。これまであったものとその左右にできた二つの頭。合計で三つの頭が出来上がり、左右の頭は中央のものと同じように炎を吐き始めた。

 三つの頭から同時に炎が吐かれることによりその威力も規模も三倍となっているが、頭が増えたところで魔力の総量なんて変わらないのにどうやって威力を上げているんだろう? 頭が増えて発射口が増えたから強くなる、なんてイメージでもしているからだろうか?

 だがなんにしても……それじゃあ足りない。


「口が三つあれば有利になれるって?」


 確かに威力は上がった。この炎の中を突き抜けるのは、できないわけじゃないけど無傷でとはいかないだろう。そういう意味ではラキスの作戦は間違いじゃない。


「――なめるなよ」

「なっ!?」


 でも、近づけないならそもそも近づかなければいいだけの話だ。


「――『竜の息吹は避け得ぬ終わりをもたらす光であり、己の誇りを貫き通す意志の輝きである』」


 文言を口にすると同時に、俺の目の前に小さな光の球が形成される。そしてその光の球は徐々にでかくなっていき、同時にその光の球から感じる圧も増していく。


「な、なんだそれは……なんなんだその光は!」


 相変わらず炎を吐き出しながらラキスが問いかけてくるが、炎で視界が遮られているだろうに、見えているんだろうか? まあ、これだけの光だ。光の球そのものは見えていなくても、周りにあふれている光なら見えているのかもしれない。


「そこまでドラゴンに憧れてたんだ。ドラゴンの技でやられるのは本望だろ?」

「やめ――」


 やめるわけないだろ。それに、いいじゃないか。お互いにまがい物とはいえ、ドラゴン対ドラゴンの戦いと呼べないこともないんだ。だったら、最後はこの技で終わるのはそれらしいだろ?


「<ドラゴンブレス>」


 光の球が弾ける。光はこちらの様子を見るためにか炎を止めたラキスに向かって一直線に突き進み、飲み込んだ。

 直後、凶悪ともいえるほどの熱の影響か、光の通った場所から何かが爆発するような音がいくつも連続して響き、それから一拍置いてその爆発の衝撃が街の上空を駆け抜ける。

 その衝撃は地上にまで届き、暴威を振るう。


 ドラゴンブレスの光が消え去った後には何も残らず、ラキスの姿なんて存在していなかったかのように何もない。あったはずの雲さえも全て吹き飛び、平和な光景が広がっている。ただし、空に限った話ではあるが。


 爆発の衝撃が届いた地上に目を向ければ、竜人もどきとは違う意味での騒ぎが起きているのが理解できた。明らかに大事になっているし、どう考えても問題である。


「はあ……ライラになんて言い訳をしようか。竜魔法使うなって言われてたんだけど……いや、でもこの場合は仕方ないだろ」


 それだけの相手だった……わけではないが、ドラゴンとして育てられたもののプライドとして、奴を許すことはできず、その存在を認めることもできなかった。

 ただ殺すのではなく、かけらも残さずに殺さなければ気持ちが収まらなかったのだ。


「……いや、それだけの強敵だったってことで言い張ろう。とりあえずこの場は……逃げるか!」


 いつまでもここにいたら見つかるし、何だったらすでにみられているかもしれないけど、今ならまだ思いっきり逃げればばれない気がする。


 そんなわけで、一旦街の外に向けて飛び去ることにした。

 ちょっと街から離れたところからぐるっと回りこんで、去っていった方向とは違う場所からしれっと街に戻ればなんとかなるだろ。



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