八つ当たり
リリを助けに行く前に、さっき倒した竜人もどきに目を向ける。
ドラゴン信仰者が何をしたいのかわかればリリのこともより安全に助けることができるかもしれないと思い、この存在について考えを巡らせる。
「これは何だったんだ? 人間とドラゴンの混血だとして……でも理性を失ってたんだよな。最初から理性がないんだったらここまで成長するのは無理だったと思うんだけど……誰かが飼ってたか? いや、それにしてはいきなり出現した理由が……待て」
独り言を呟きつつ考えていったのだが、思いついてしまった。これならいきなり出現したことも、理性がないのにこの歳まで生きてこれたことも説明がつく
でもそれは……
「人を、ドラゴンに変えたのか……?」
ギリッと奥歯を噛む。まさか、本当にそんなことをしたのか? あってほしくないと思いながらもそれ以外には思いつかない。
どうやってそんなことを可能にしたのかはわからない。でも種族を変えるなんてろくでもないことをしない限り無理だろう。
もし本当にそんなことをしたのなら、それはドラゴンへの冒涜だ。
そう思うが、今はリリを助けるために動かないといけないんだし、感情的になるわけにはいかない。まずは落ち着け。
心を鎮めるために深呼吸をして大きく息を吐き出した直後、同時に複数の竜人もどきが出現した。
それだけでも感情が揺さぶられたが、現れた竜人もどきの顔を見て、理解してしまった。彼らは本当にただの人間で、自分から望んでそうなったわけではないのだと。
そう理解してしまったらもう抑えなんて効かない。
「……『竜はただそこに在るだけで畏怖を与える』」
そう口にした直後、俺のことを睨んでいた竜人もどきたちはいっせいに動きを止め、どこか怯えた様子を見せ始めた。
これは正確には魔法ではない。魔法を使う準備とでも言おうか。ドラゴンとして戦う覚悟を表す文言であり、ただドラゴンとして魔力を隠すことを止めただけ。
だがそれでもドラゴンが放つものと同じ魔力に曝された存在は、ドラゴンと対峙した威圧感を受けることになる。
準備はできた。竜魔法の制限なんてもう考えない。こいつらは全力で、跡形もなく消し飛ばさないと気が済まない。
でもこの怒りは、目の前にいるこいつらに対してじゃない。こいつらをこんな姿にしたクソ野郎どもに対してだ。
自分の意志でドラゴンになりたいと思ったのなら、まあまだ許すことはできる。アプローチが違うだけで俺もやっていることは同じようなものだから。
でも彼らは違う。無理やり竜と混ぜられ、存在を作り替えられた。
……ああ、そうか。人攫いはこのためにやっていたのかもしれないな。人を攫い、実験か投薬か魔法か、そういう何かしらの手段でドラゴンへと作り替えた。その結果がこれらだろう。
となると、リリも危ないか。時間をかければリリもこいつらと同じようになるだろう。
「この程度でビビるなよ。お前ら、ドラゴンなんだろ? どこの誰がどういう思惑でそんなくそったれなことをしたのかわからないし、なんだったらお前らは被害者なんだろうけど、それでもドラゴンだろ。なら、ビビってないでかかって来いよ」
そう挑発するように語り掛けると、竜人もどきたちはうめき声を漏らしながら俺のことを睨みつけてきた。
そして最初に一体が襲い掛かってくると同時に他の竜人もどきたちも一斉に襲い掛かって来た。
「『竜の角は全てを砕き、滅ぼす嵐の具現である――竜角嵐衝」
文言を口にすると同時に正拳突きの用に右手を引いて構え、引いた右手に風が集まっていく。
それを見て竜人もどきのうちの何体かが足を止めて反転しようとしたが、もう遅い。
引いた右腕を突き出すと同時に右手に集まった風が一本の槍のように圧縮され、放たれた。
嵐の槍に触れた竜人もどきは切り刻まれて塵となり、周囲にいた者たちは風の槍に引き寄せられ、同じく刻まれて塵へと変わった。
後に残ったのは抉れた地面と建物。それだけだった。
「……はあ。クソ。悪い。本当に悪いな。あんたたちはやっぱりただクソみたいな誰かの陰謀だとか思惑だとかに巻き込まれただけの被害者なんだろうさ。でも、悪いけど認めることはできない。認めるわけにはいかないんだよ。だから――」
殺した竜人もどきに謝罪を口にしてからその場所から背を向け、リリを攫ったであろう者の魔法の痕跡へと目を向けた。
「叩き潰す」
勝手ではあるがそう誓ってから魔力の痕跡を追いかけて飛び出した。




