表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ドラゴン村で育った人間は当然の如く常識外れだった  作者: 農民ヤズー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/79

やっぱり竜魔法は強すぎた

「ふう……氷結魔法を使ったのは我ながらナイスな判断だったかな。これが火炎系の魔法だったら大火災か、もしくは大爆発が起こってただろうね」


 だろうね。魔物がやって来た森の奥までは凍ってないみたいだけど、入り口付近までは届いている。これだけの規模の力が全部爆発の力に変換されていたと考えると、かなりの被害が出ていただろう。もしかしたら、地面に残す痕跡としては俺が果ての村でやった竜爪の跡よりもひどいものなんじゃないだろうか?


「なっ……!」

「これほどか……」


 凍り付いた光景を見て、ガロンもライラも驚きを見せている。その驚き具合はガロンの方が強い気がするけど、それも当然か。何せエンジェはこれまで一緒に行動して来た仲間であり、その実力は把握していたつもりだっただろうし。

 それがいきなりこんな大規模な魔法を使えるとなったら、驚くものだろう。


「それでもこれだけの規模となると……これが溶けるのもしばらく時間がかかるのではありませんか?」

「だろうね。普通の魔法だったら数日程度で溶けるだろうけど……今回は数週間はこのままかもしれないね」

「なんだってそんなやべえことになってんだよ!」


 ライラは少し考え込むような様子でエンジェに問いかけただけだが、そのエンジェの答えを聞いてガロンは声を荒らげて問い返した。その気持ちは理解できるけど、まあある意味ここで威力を知れてよかったんじゃない? 街中で実験とかされてたら大変なことになってただろうし。


「彼から教えてもらった魔法のおかげだよ」

「ああん!?」


 そう言ってエンジェは俺を指差し、その指の先を追って顔を向けたガロンは鋭い眼差しで俺を睨みつけてきた。

 だが、その指差した先に俺がいるのを理解し、僅かに目を見開くとそれ以上は黙ってしまったが何か言いたそうな顔をしている。

 けどこっちから聞くことはしない。だって文句を言われるのは目に見えてるし。


「彼の魔法は、私たちが使う魔法とは全くの別物だ。魔法と一言に言っても流派が違うのならその発動の過程も違う。だから彼の魔法が私たちの使う魔法と違うのは当たり前のことではあるのだが……彼の場合はそういう次元の話ではないんだ」


 ガロンはエンジェの話を聞いて首を傾げているが、同じように俺も首を傾げた。俺が人間の使うものとは違う魔法を使うのは理解しているけど、それってそんな次元が違う、なんていうほどのことなのか? ただちょっと圧縮という工程が多いだけじゃないんだろうか?


「魔力を圧縮し、密度を高めることで魔力の格を上げる。彼の教えてくれたことは簡単に言えばそういうものだが、格の上がった魔力は、その時点でもはや魔力とは別物となってしまっているんだ。正直言って、普通のやり方では使い物にならないね」

「別物って……でもそれで魔法は使えたけど?」


 別物とは言われたが、魔力であることに変わりはないはずだ。だって現に教えてもらった魔法を使うことはできた。まあちょっと威力の調整が難しかったけど、それでも人間の魔法を使うこと自体はできたのだ。なら、まったくの別物とまではいかないだろう。


「そりゃあ使えるだろうさ。蒸留して酒精の濃くなった酒でも酒は酒。飲むにしても料理に使うにしても、酒と同じ使い方ができて当然だろう? だが、酒と同じことに使えるといっても、だからといって同じように使っていたら事故になる。今まで魔法を使えていたのは、ある種の奇跡だね。あるいは、今の魔法の使い方に慣れていないからこその結果かもしれない。慣れていないから細心の注意を払い、暴走させることなく使えていたんだろう」


 そういう、ものなんだろうか? いや、そういうものなんだろう。


「その喩えでいうんだったら、普通に酒が飲める奴でも、蒸留した酒を普段と同じように飲んでたらすぐに潰れるだろうな」

「そう。酒ならば酔いつぶれた程度で済むが、それが料理なら火事が起こることだってあり得る。そしてその酒にあたる部分が魔力で、使う内容が魔法なら?」

「火事が起こる程度では済まない、か」


 ちょっとした爆発が起こる程度ならまだマシで、最悪の場合は一帯が焦土になる可能性もあるわけだ。

 それが本当なら、確かに使い物にならないって言ってもおかしくはないかもしれない。だって、あまりにも危険すぎるから。


「その通りさ。おそらくこれは君たちの国における基本的な魔法ではないね。魔法の達人が研鑽を重ねた結果辿り着く境地の一つであり、秘伝とされる類のものだ。違うかな?」

「……そうですね。グランの魔法は一般的なものではありません。グランの育ての親が使っていた技術だそうです」


 どう答えようか迷ったところで、ライラが俺をかばうように若干身を乗り出しながら答えた。その態度が、少し嬉しくもあり、同時に恥ずかしくもあった。


「育ての親って……おいおい、そんな簡単に魔法を教えちまっていいのかよ? お前は……ほら。アレだろ?」


 ドラゴンから教えてもらった魔法を勝手に教えてもいいのか、ってことなんだろうけど、大丈夫だろ。


「俺だってこっちの魔法を教えてもらったからね。逆に教えるのは返礼としては真っ当だろ?」


 恩には恩を、ってことで、魔法を教えてもらったんだから魔法を教え返すのは普通のことだろう。


「そうなんだがなぁ……」

「ガロンの言う通りだよ。確かにお互いに自分の魔法を教える。それだけ切り取れば対等だと言えるだろう。だが、教えてもらっている技術に差がありすぎる。これじゃあ銅貨と金貨を交換したようなものだ。いや、それですら足りないな。石ころで国宝を交換したようなものだと言えるだろうね」


 ガロンとエンジェは困ったような表情で顔を見合わせた後そう話したのだが、俺にとってはそれでも別に問題ない。


「……正直なところ、俺にとってはその辺のことはどうでもいいんだけど、要は俺は普通の魔法は使えないってことか?」


 今日までエンジェに教えてもらっていたけど、一度もまともに発動したことはなかった。何度か発動しかけたり半分暴走状態で発動したりしたことはあったけど、まともに使えたことはなかった。もしかしてこれからも使えないままなんだろうか?


「いや、そんなことはない。要は魔力の質が……格が高すぎるというのが問題なわけだ。だがその魔力の格は最初から高いのではなく、君が無意識のうちに高くしてしまっているだけなのだろう。魔力、という存在そのものはどこの誰だろうと同じだからね。だから、呼吸をするときに意識をして息を吸ったりしないように、無意識に魔力の格を高めてしまっている状態を何とかし、圧縮しない状態を維持できるなら普通に魔法が使えるようになるだろう。あるいは、格を上げた魔力を再び分解し、紐解いて普通の魔力に戻すことができるのならそれはそれで魔法を使うことができるだろう」

「魔力を戻す……」


 圧縮するのをやめるか、圧縮した魔力を普通の者に戻すか、か……。

 でも、最初からこの方法で魔法を覚えたこともあって、圧縮しないやり方というのはイメージが湧かない。なんだったら今では意識しないで圧縮してるし。


「まあ、一度格の上がった魔力を元に戻すというのは難しいだろうね。今少し触れただけだけど、それだけでもアレの扱いが難しいことはわかるよ。それよりは無意識を意識し、魔力を普通に戻すところから始めたほうがいいだろうね」

「むむむ……」


 でもなぁ、圧縮していないと竜魔法は使えないし、そうなると何かあったときに全力を出すことができずに危険に陥るかもしれない。俺の出自や能力に関しての誤魔化しは必要だろうけど、それは自分の安全を確保したうえでの話だ。誤魔化しのために弱体化したのを演じるのと、本当に弱体化するのでは話が違う。


 けど誤魔化すことができればそれはそれで便利だろうし、どうしたものか……


「まあ、そう焦ることはないわ。グランが戦うことになる機会なんてそう多くはないはずだもの。あったとしても、身体強化を施す程度で何とでもなるはずよ」

「いや、ライラ。俺ってその身体強化すらまともに使えない状態なんだけど?」

「あ……そうだったわね。どうしようかしら……」


 ドラゴンとしての身体強化なら問題なく使える。というか今も使ってるし。意識したものではなく、これも魔力の圧縮と同じで常時発動してるものではあるけど。でもそれほど強く強化してるってわけじゃないし、反応自体はほとんどしないから使っているのはばれないと思う。ライラやエンジェにもバレなかったんだからたいていの場合は問題ないだろう。


 けど、そんなかんじで竜魔法は使えても、人間の魔法としての身体強化はそもそも人間の魔法が使えないんだから身体強化も当然の如く使えない。


「……まあ、仕方ないわね。ド……今までの方法でも身体強化くらいなら使ってもいいんじゃない? それなら派手に目立ちすぎるということもないでしょうし。もちろん力の規模は制限する必要があるけれど」

「まあ、身体強化なんざ外から見てる分には何してっかわかんねえしな」

「身体強化でなかったとしても、そもそも君は何をしているかわからないだろうに」

「おい、バカにすんなよ? 俺だって相手が魔法を使おうとしてれば、どの属性を使おうとしてるかくらいはわかるっての」

「逆に言うとそれだけしかわからないんだろう? ……もう少し勉強した方がいいんじゃないのかい? 仮にもギルドのエースを名乗るものがバカでどうするのさ」

「ギルドのエースなんてのを素面で言ってられる奴なんて、バカ以外にいるかよ」

「……なるほど。確かに言われて見ればその通りではあるか」

「言ったのは俺だけどよ、そこで納得されんのもなんかむかつくな」


 そんなわけで、俺は身体強化だけは使っていいことになった。もちろん、度が過ぎれば怒られるだろうし、誤魔化しもできなくなるだろうけど。だって、全力で強化したらドラゴンと殴り合いができるくらいには強くなれるし。


「まあバカは放っておこう。ともかく、魔法を使うのなら魔力の質をどうにかすることを考えるべきだね。今の君のままでは、いずれ大きな破壊を齎すことになるだろうから」

「……わかった」


 でもやっぱり竜魔法を捨てることはできないし……右手部分だけ普通の魔力を集めるとかできないだろうか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ