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ドラゴンの娯楽

 

「それより、二人はどうしてこっちに来たんだ?」


 そう言って俺は二人に尋ねた。普段は俺と爺が訓練していても二人そろって身に来ることなんてないのに。


「俺は暇つぶしの観戦だな」

「私の方はちょっと相談事があってね。それと、流石にやりすぎだから注意をしておこうと思ったの。バル。この子を鍛えるのが楽しいのはわかるけど、息吹まで使うのは流石にやりすぎよ。あとで森を治す方のみにもなってみなさい」


 そういいながら指を差したミューテリアスだが、その先を見てみると確かに無造作に荒らされ、二筋の線ができている森が存在していた。空にいて放ったし、直接森を打ち抜いたわけじゃないけど、その余波だけでこうなってしまうのだから凄まじい。

 確かにこの光景を見ると、人間の中では成長している方だというドルドレインの言葉も納得できなくもない。だからと言ってそれで鍛えるのを止めるわけじゃないけど。


「むう……それはすまんかったな。次からは気をつけるとしよう」


 ほんとにな! 気を付けるっていうか、そもそもあんな大技使うなよ。

 ジジイ的にはあれでも加減してくれていたんだろうけど、それでもやばい威力なのは変わらないんだからさ。


 でも、このジジイが自身のやったことで怒られてしょげているのを見ると……なんだか気分がいいな!


「やーい、怒られてやんのー」


 しょげているジジイを見て、追撃をするように煽ってやる。さっきはマジで死ぬかと思ったんだからな。その仕返しだ、バーカ。


 なんてやりながら思ったけど、我ながらガキっぽいな。

 無意味に意地を張ってプライドまみれの生活をする必要がなくなったからなのか、あるいは

 幼くなった肉体につられて精神も幼くなっているのか。

 どっちにしても、それを悪いことだとは思わない。だって、前世で生きていた時よりも、今の方が楽しいと思えているんだから。でも……


「いだあ!?」


 ジジイのことを笑っていると、不意に額に衝撃が訪れた。ジジイだ。ジジイのはなった超高速のデコピン(手加減)が俺の認識を外れて接近し、頭を弾いたのである。

 俺、これでも隼を視認して素手で捕まえることができるくらいの能力はあるんだけど? それをすり抜けるってどんだけ速いんだよ。しかもご丁寧に、そんな速度を出しながらも頭が破裂しない程度に威力が抑えられてるし。


「それで、ミューテリアスの相談とはなんだったのだ?」


 デコピンの痛みに悶えている俺を鼻で笑ってから、ジジイはミューテリアスへと問いかけたのだが、ミューテリアスは首を横に振りながら答えた。


「バルにじゃなくて、グランによ」

「俺に?」


 珍しいな。みんな俺のことは知っていても、そんな呼びつけるほど親しい関係ってわけじゃなかったのに。

 というか、そもそも何か用事があること自体がない。なにせ相手はドラゴンだ。たいていの問題は自分でどうにかできてしまう。俺なんて年下も年下だし、ドラゴンたちからしたら赤ん坊レベルの俺を頼ることなんて基本的になかった。せいぜいが暇つぶしの話し相手くらいなもんだ。


 それなのに俺を呼ぶなんて……なんだろう?


「ええ。あなたに。あの〝遊び〟にみんな夢中みたいね」


 遊びって、何年か前に教えたあれ? ……えー、あんなことで呼び出すのかよ。


「遊びって……え〜。あれ、ただの盆栽だろ? なんだったら盆栽どころかただの家庭菜園とかガーデニングじゃん。好きにやればよくない?」


 一年目ならわかる。でももう教えて何年目だよ。……ああいや、ドラゴン的には教えてもらってから数日程度の感覚か。じゃあ仕方ない……のか? いや、でも基本理念というか、何をするものなのか教えたんだからあとは自由にやればよくない?


「その好きにやるにしても、基本的な知識や方向性は必要でしょう? みんな初めてのことだからわからないのよ」

「いや、俺もやったことないんだけど……」


 盆栽、という概念と、植物を育てて鑑賞するっていう行いを教えた……いや、それさえも大げさだな。せいぜいが〝口にした〟程度だろう。

 ただちょっと、暇そうにしてたドラゴンが何か面白い熱中できることはないかって聞いてきたから、時間がかかりそうな盆栽を教えたんだ。

 チェスとか将棋でもよかったけどその辺はありきたりだし、どうせすぐ飽きるだろうし。


 盆栽なら植物が育つまでに時間かかるけど、ドラゴンの時間間隔的にはちょうどいいと思ったんだけど……うん。見事に狙いが的中したよね。ちょっとボケっとしてる間に、ちょっと一休みしている間に、ちょっと一眠りしている間に、見事に生長し、変化していく植物を相手にするっていうのはドラゴン的にはやることがたくさんある楽しい趣味のようだ。


 でも、教えたといっても、俺だって盆栽なんてやったことないからその概念だけ教えただけだ。それ以上教えられることなんて何もない。


「それでも人間と竜じゃ感覚が違うもの。特に、時間や生物の成長速度に関する認識がね。とにかく、一度見てあげたら?」


 まあね。人間からしても植物の生長って早いな、って思うときあるんだし、ドラゴンからしたら一瞬だろうさ。竹なんて一晩で二十センチ育つって言うし、育ててみたら驚くんじゃないかな。


「まあいいけどさ……正直いって、ドラゴンがこんなにハマるとは思わなかったんだけど」

「そうね。でも、人の何倍もの時間を生きる竜にとっては、ちょうどいい遊びなのよ。一年かけて作る必要があるとしても、竜である私たちにとっては数日待っていれば出来上がる程度のものでしかないのだもの。ものによっては、一日見逃しただけで急に成長する花とかもあるから気の抜けない日々を過ごすことになるしね」

「竜の時間感覚で言ったら、そうなんだろうなぁ。一眠りが一年って奴もいるだろうし」

「そうね。季節ごとに一日しか咲かない花を見るために、花の前に陣取って起き続けて、結局寝ちゃったバカもいたわね」

「あー、ドリフィラスのことか。あいつ、そのせいでふて寝してるよな今三年目くらいか?」

「ふて寝で三年経つんだから、やっぱり時間感覚がおかしいなぁ」


 そう言って苦笑しながらも、俺は三人と共にドラゴンたちが暮らす村へと戻っていった。



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