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異世界ドラゴン村で育った人間は当然の如く常識外れだった  作者: 農民ヤズー


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教会での出会い

「竜信仰とか守護竜様とか言ってたから龍を祀る教会かと思ったんだけど……違うのか。でも……」


 建物自体はそれなりに大きかったはずだ。少なくとも、普通の一軒家程度では済まない規模があった。でも、規模の割にさびれてる。そんな印象がぬぐえない。


 多分それは、この教会がドラゴン信仰のものではないからだろう。

 俺の知っている教会のように、入ってすぐの場所には長椅子がいくつも並べられていて、正面奥には人型の像が置かれている。その奥には光が入ってくるように設計されているのか摺りガラスから光が入り込んでいる。

 ステンドグラスではないのは技術がないからなのか金がないからなのか。もしくは信仰心がないからなのかもしれない。


 でもこの教会を見てると、なんとなくだけど世界の情勢というかこの世界における信仰というものが理解できる気がする。


 多分だけど、この世界の基本的な信仰は神様だろう。奥にそれっぽい像も立ってるし。

 ただ、この国では建国にかかわっているドラゴンを信仰している人が多い。だがそれはこの世界の一般的な基準でいうと普通じゃないんだろう。


 だからこの街、あるいは国を作るときに、本来メインとして広まっている宗教が進行を広めるために教会を建てようとした。

 この国、街は、異端として認定されないため、世界的に広まっている信仰先の存在を祀る神殿を建てる許可をした、あるいは建てる協力をした。

 でもみんなそんな神様なんて信仰してないでドラゴンを信仰しているから、教会というガワだけ存在し、中身である人間は誰も来ない。


 まあ多分こんなところじゃないだろうか。知らないけど。

 でもこの建物の規模と中身のさびれ具合、それから立っている像の姿やドラゴン信仰について考えると大きく間違っているってわけじゃない気がする。


「あ」


 そうして考えに一段落ついたことで、とりあえずお祈りでもしていこうと思って歩き出したのだが、そこでようやく人がいることに気が付いた。

 今までも視界には入っていたんだけど、逆光屋考えに没頭していたことで気づかなかったんだろう。


 シスター……とは違うよな。服装が違うし。まあその服装もどこか違和感があるけど。

 平民が着てるような普通の服なんだけど、何かが違うように見える。着こなしか、あるいはそもそもの素材や製法が違うのか。

 なんにしても、そのことも相まって余計に一般人とは浮いて見えた。


 なんてその人のことを見ていると、俺の視線を感じ取ったのか、そもそもお祈りが終わりだったのかはわからないけど、その女性は立ち上がり、俺の隣を抜けて教会から出て行こうとした。


 邪魔したんだったら悪いことをしたかな、なんて思いながら教会の奥に進もうと足を動かしたのだが……


「んあ……?」


 女性に気を取られていたから、なんて酔っ払いみたいな言い訳はしたくない。したくないが、まあ今の人に気を取られていたのは事実なわけで、今足を椅子にぶつけて転びそうになっているのも認めたくはないが事実だ。


 あー、これどうしよう。体勢を立てなおそうと思えばできるけど、その場合周りにある椅子を吹っ飛ばしたり壊したりしそうで怖いんだよな。


 こんな転びかけてる状態で大きく足を踏み出せば椅子を巻き込むかもしれないし、床を踏み砕くかもしれない。

 転ばないように椅子を掴んで体を支えようと思ったら椅子を掴んだまま転ぶかもしれないし、椅子を握り潰すかもしれない。


 そんな考えが一瞬で頭の中をよぎり、俺は問題を起こさないために安牌を取ることにした。つまり、そのまま転ぶことだ。


「っ!」


 どうせ誰も見てないし転んだところでなんの問題もないだろうと思い、転んだところで特に怪我もしないだろうからまあいいか、なんて転ぼうとしていたのだが、そんな俺の体は途中で止まった。

 先ほど教会を出ていくべくすれ違った女性が慌てた様子で俺のことを支えていたのだ。……なんで?


 いや、なんでも何もないか。目の前で人が転びそうになってたら助けようとするのは普通のことだと言えるだろう。

 ただ、やけに反射神経がいいなとは思った。


 ああいや、そんなことよりもまずはお礼か。


「すみ――」

「大丈夫ですか?」

「え、ああ、はい。大丈夫です。ありがとうございました」

「いえ、怪我がないのでしたらよかったです」


 助けてもらって、お礼を言って、それで終わりのはずだ。

 でもどうしてか、女性は俺の顔をじっと見ている。


「……何か?」

「ああいえ、どことなく知人の女の子に似ていたものでして」

「え、女の子?」


 俺、これでも結構男っぽい顔つきしてると思うんだけどな。まさか女の子に間違われることになるとは。


 そんな俺の考えを呼んだように、女性は少し慌てた様子で首を振りながら言葉をつづけた。


「見た目が、というわけではありませんよ? ただ、なんと言いましょうか。雰囲気が似ていた気がしたのです」


 見た目じゃなかったか。よかった。

 でも、俺に似てる雰囲気っていうんなら、それはそれで問題がありそうな気がする。ドラゴンに育てられた奴に似てる雰囲気の子供って、結構やばいと思う。


「雰囲気、ですか……もしかして、その子ってちょっと変わってる子だったりしません? 自分はよく知り合いから世間知らずや常識知らずって言われるんですよ」

「ふふ、そうですね。ちょっと〝人〟とは違う常識で生きている子ですから。それに、結構うっかり屋なので、私がいない間に何かおかしなことをしてないか心配で……。ああ、そういえば転びそうになっていたところも似ていますね。あの子もよく何もないところで転んだりしていますから。それで毎回私が支えるか、手を引いて起こしてあげるんです」


 なんだ、単なる天然な子ってだけか。……ん? それでいくと俺も他人からはそんな感じにみられてるんだろうか? ……見られてるんだろうなぁ。言動だけでいえば頓珍漢なこと言ってるだろうし、普通の人とは違う行動してるだろうから。


「なんていうか、心配になる子なんですね。っと、それじゃあさっき転びそうになったところで支えてくれたのも、普段の研鑽の結果、ということですかね」

「そうですね。でもそういうことなら、あの子のうっかりも人助けの役に立ったみたいですね」

「多分本人は人助けのつもりで転ぼうとしてる訳じゃないんでしょうけどね」

「ふふ、それはそうでしょうね」


 多分何度も転んでいるところを助けたて来たんだろう。だからこそさっきあんなに早く俺が転ぶのを助けることができたんだと思う。慣れというか、もはや反射と呼べるほど染みついた動作だったんだろう。


「それでは、私は失礼いたしますね」

「はい。助けてくださってありがとうございました」

「いえ、お気をつけください」


 なんて軽く談笑した後女性はお辞儀をしてから教会を後にしていったが、やっぱりなんか雰囲気のある人だな。


「俺と似た雰囲気って……よっぽど世間とズレた子なんだろうなぁ」


 あの人の雰囲気や振る舞いを考えると、もしかして貴族か何かだろうか? それなりに地位や立場のある人じゃないとあんな雰囲気は出せないだろ。


 でもあの感じ、貴族っていうよりも貴族に仕える人って感じな気がする。知り合いの女の子っていうのが貴族の女の子なら、浮世離れしている雰囲気を纏っていてもおかしくないし。


 ま、いいや。どうせもう今後関係ないだろうし。それよりもこっちだな。


 そう考えて先ほどの女性に見切りをつけた俺は、振り返って教会の奥に飾ってある人型の像へと顔を向けた。


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