街に到着
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「結構簡単に街の中に入れたわね」
多分ライラのいた国ではもっと審査とかがあったんだろう。ライラのいた国というか、俺のいた国でもあるんだけどさ。
それはおいとくとして、この街では街の中に入るのに大した審査なんかはなく、普通に兵士の隣を抜けて門を越えるだけで終わりだった。
俺としても門の前に列が並んでいて街に入るための審査待ちとかあるものだと思ってたから拍子抜けというかガッカリというか……。まあ、ここまでの行程が長かったから早く入れるのはいいんだけどさ。
「そりゃあこの辺は警戒するものなんて魔物くらいだからな。この先に特別何があるってわけでもねえし、あの村でなんか犯罪のたくらみや取引があると思うか?」
「ないわね。この国のトップである守護竜がお守りなんてものを渡して守るくらいの場所で、後ろめたいことをするのは考えが足りないどころの話じゃないもの」
「そういうこった。だからここは人に対する警戒じゃなく、魔物に対する警戒のほうが強いのさ。なんだったら魔物の方しか警戒してねえといってもいいな」
理屈としては分かるんだけど……なんだかなぁ。夢が壊れた気分だ。
そんなことを思いながら街の中を歩いているわけだけど、こっちも正直言って期待外れだった。
「それにしても……なんかのどかな場所だな」
あの村よりは栄えている。けど、現代日本の都市を知ってると、こんなもんかと思ってしまう。街を囲んでいる大きな壁や発展途上な街並みは見ていてロマン溢れると思うけど、なんていうかそれだけ。まあ、それ言ったらこの世界でいうところの都会も似たような感じなのかもしれないけど。
「だから言ってんだろ。ここも所詮は田舎だって。首都やほかのでかい領にくらべりゃあ全然だっての」
「それでも村や森の中よりは栄えているわよ?」
森と寂れた村以外に見たことがないのに、何を持ってこの街を賑わっていないと判断したのか。そう問うようにライラが俺のことを見つめてきた。
「あ、や……まあそうなんだけどさ。なんか都会ってイメージとは違ってたっていうか、もっと騒々しい場所だと思ってたんだよ」
「そんなの、それこそ首都にでも行けば体験できるぞ。それより、こんなところにいねえで行くぞ。まずは宿を取らなきゃ話にならねえし、うちのギルドにも顔を出しておくんだろ?」
ガロンがそう言い出してくれたことで話は流れたけど、またちょっとミスをしてしまったな。
俺の中の知識の基礎は前世とドラゴン達のものとなっているので、油断しているとおかしなことを口走ってしまう。
今のところは誤魔化せてるけど、早くこの世界の常識を覚えないとだな。
「そうね。ここで話してるのは邪魔だものね。どこかいい宿は知ってるのかしら?」
「うちのギルドの関係者がやってる場所でいいなら知ってるぜ。関係者だから裏切りや犯罪もねえ。……ま、そのかわりってわけじゃねえけど、知っとばかしボロいがな」
「そう。なら案内を頼めるかしら?」
「おう。だが先にギルドでも構わねえか? 宿のほうは飛び入りでも泊まれるはずだし、一回宿に寄ってからまた外に出るのは二度手間だろ?」
「私たちとしては、宿の確保に問題がないのならそれで構わないわ。ねえ?」
「なんでもいいよ。どうせ俺はここでの振る舞いとか常識とか知らないし。それに、最悪宿が取れなくてもそこらへんで寝ればいいから」
おすすめの宿が空いてなかったとしても探せばどこかしら空いてるだろうし、最悪の場合宿が取れなくてもその辺で寝てればいい。人工物の一切ない森の中で寝てるよりはまだマシだろう。
だがそんな俺の言葉に呆れた様子でガロンが返してきた。
「おいおい、流石にそれは無しだろ。いくらこの町が田舎っつっても、犯罪者やチンピラの類はいるぜ。路上で寝るなんてことしてたら、身ぐるみはがされて死んじまうぞ」
「いやー、平気だと思うぞ? 近寄ってきたら起きるし、起きない程度の小物だったらそもそも近寄れないと思うし。ドラゴンに睨まれた感覚を受けても近寄ろうとするバカはいないだろ?」
寝ながらでも害意のある存在が近づいてきたら起きるし、寝ながらでも周囲を威圧することはできる。
戦闘時ほどじゃなくても軽く威圧してれば、普通のやつ……それこそ路地裏で格下を襲って小金稼ぎしてる程度のやつなんて近寄ってこないだろ。
「ああ……そりゃあ確かにいねえな。はあ、バカなこと聞いたか?」
「でも、別に路上で寝泊まりする必要はないんでしょう? ならそれでいいじゃない。それよりも、早くギルドに行きましょう。対応してくれるといっても、あまり遅い時間に宿の仕事を増やすのも悪いもの」
「それもそうだな。うっし。そんじゃあギルドに行くか」
そんなわけで、俺たちはガロンの所属している冒険者ギルドへと向かうこととなった。
「ついたな。ここが俺の所属してるギルド『竜の爪先』の本部だ。ちなみに支部は一つあるが、こことは違う町だな」
「支部があるってことは、結構大きな感じのところなのか?」
支部があるということは、本拠地だけじゃ物足りなくなったということだ。そして二つの拠点を確保、維持するにはそれなりの金が必要なわけで、それができているってことはガロンの所属しているギルドはなかなか規模の大きなところなんじゃないだろうか?
と思ったのだが、ガロンは肩をすくめた。
「そうでもねえな。そりゃあ首都やでかい街で複数の拠点を持ってるところはでけえって言えるだろうが、ここは田舎だからな。土地が有り余ってる、ってえわけでもねえが、それでも結構安く手に入るんだよ。二つの街に拠点がありゃあ、そこを行き来することで安定した仕事のルートも手に入るし、便利なんだよ」
あー、まあ言われてみれば都会と田舎じゃ地価が違うか。ここは国の端……なんだったら大陸の端と言えるような立地だし、土地の値段も安いのだろう。
いや、それでも二つの街を縄張りにしてる活動してるんだったらそれなりに大きいとは思うんだけどなぁ。
「へえ……でもそうか。固定のルートを持ってるなら、その道を使う固定客とかもつくだろうし、全方位に足を運んで仕事をするよりはいいのか」
「そういうこった。――帰ったぞ。メリルダはいるか!」
なんて話をしていると目的の建物についたようで、ガロンは躊躇うことなくドアを開けて中へと入っていった。
そんなガロンに続いて俺とライラも建物の中へ進んでいくが、中はまるで酒場のような場所だった。これが本当に冒険者ギルド? ある意味予想通りというか、期待通りなんだけど、一般人から依頼を受ける場所、としては酒場って不適切じゃないか? 依頼する側も入りにくいだろ。
しかもまだ営業時間外なのか、客も従業員も誰もいないし。




