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いつかはぶっ飛ばす

 

「攻撃ばかりに意識をとられて空から落ちるとは。やはりまだ子供よのぉ」


 かと思ったら、ジジイが手のひらで俺のことを受け止めていた。

 俺は全力だったってのに、このジジイはまだ余裕綽々と言った様子。それが無性にむかつく。


「はあ……はあ……! い、いつかぶっ倒す、クソドラゴン……」

「ほほう。ならばその時を楽しみにしているとしよう」


 睨みつけながら吐いた俺の悪態すらもジジイは笑って受け止めている。このジジイ、本当にいつか泣かして見せる。


「またやってるの? あんた達もいい加減飽きないもんねえ」


 なんて思いながら地上に戻ると、そこで待っていた女性が話しかけてきた。

 ここはドラゴンの住んでいる森。そんなところにただの女性がいるわけがなく、当然ながらこの女性もドラゴンである。

 そして、そんなドラゴンの近くにはもう一人別の男性――ドラゴンが、ガラが悪そうに座っている。


 この二人、男の方をドルドレイン、女の方をミューテリアスというのだが、どちらも俺の顔なじみである。顔なじみというか、なんだったらこの森にいるドラゴンで俺のことを知らない奴なんていないから全員顔なじみではあるんだけど。何せこの森にいる人間って俺だけだし。みんな物珍しさで構ってくるんだ。そんなドラゴンたちの中でも特に親しくしているのがこの二人だ。


「飽きないっていうか……正直それくらいしかやることないし。それに、強くなれる機会があるんだったらとりあえず強くなっておいて損はないだろ?」


 今のところやることないし。いくら時間を使っても問題ない。それに、多分だけどドラゴンから魔法を習う機会なんてそうそうないだろう。

 生まれた時に捨てられていたこの森から出たことないからこの世界のことは知らないけど、周りにいるドラゴンたちの話からして人間やほかの種族もいるみたいだが、ドラゴンという存在は特別枠扱いされているように思える。そんなドラゴンから魔法を教えてもらえるんだ。


 せっかく以前とは異なる世界にきて、何の柵もなく生きることができるんだ。やりたいことをやって生きていきたい。

 でも、やりたいことをやるには力がいる。生きるためにも、自己を通すにも、力がいるのだ。だから己を鍛えなくてはいけない。


 その点、ドラゴンは素晴らしい。その存在も、魔法も。最強の種族と語るドラゴンの力を身に着けることができれば、たいていの危機は乗り越えることができるだろう。最低でも危機から脱することはできるようになるはずだ。


 まあ、これが何十年も鍛える必要がある、となったら流石にいやだけど、そんなこともないしな。

 それに、この世界の人間は地球の人間とは体のつくりが違うのか成長が遅い。今十三歳程度だが、見た目の年齢は十歳程度、あるいはもっと下に見える。これはただ単に俺の成長が遅いとかそういうわけではない、と思う。まあこれもほかに人間を見たことがないから何とも言えないけど。


「毎日毎日死ぬ死ぬいってた爺さんが人間の赤ん坊を連れてきた時は何を考えてんのかさっぱり理解できなかったが、今じゃあよくやったって褒めてやりたいくらいだぜ。こいつの成長はそれくらい見てて楽しいからな」


 ガラの悪い男性ドラゴンの方が楽し気に笑いながら話しているけど、ちょっと気になったことがある。


「? なんだクソジジイ。そんなに死にそうだったのか?」


 こんなたった今暴れまくってたやつなのに、たかだか十数年前には死にそうだったのか?


「ワシもこれで数千を生きた年寄りだからな。明日にでも死んでもおかしくなかろうさ」

「はっ……嘘つけ。あれだけ元気に暴れるやつがそんなにすぐ死ぬわけないだろ」


 人間と違って、ドラゴンは病にかかったとしてもすぐに死ぬことはない。徐々に力を失っていくけど、今のところこのジジイにそんな兆候は見られない。数千年生きてるのは事実だとしても、後数百年くらいは生きるだろ。


「それにしても、あの時の赤ん坊がここまで成長するとはな。こいつがここにきたのを昨日のことのように覚えてるぜ」

「昨日のこと、というのは言い過ぎだと思うけど? せいぜい一年の十分の一くらいでしょう。人間的にいうなら……一月くらいかしら? でも、そう言いたくなるのもわかるわね。それくらいこの子の成長は早いもの」

「だから、みんなドラゴンと人間を比べるなよ」


 ドラゴンからすれば一月二月程度の時間の流れだとしても、俺にとってはしっかり十年以上の時間が流れてるんだよ。まあ、この森で生きてると変化はないし出会いもないから、時間が流れてるって感覚は薄いけどさ。


「いやー、人間と比べたとしても早い成長だと思うぞ? たった十年ちょっとで竜のブレスを放てるようになるなんて、まずねえだろ」


 なんて褒めてくれてるけど、個人的には不満がある。ありありだ。

 だって、俺はドラゴンと共に過ごし、ドラゴンから毎日直接教えてもらってるんだぞ? それだけの環境が整っているのに、十年かけてようやく何とかギリギリ使うことができる程度にしかなってないんだ。

 理想とする姿は思い浮かべることができるだけに、そこに届かない自分の不甲斐なさに腹が立つ。


「放てるっていっても、かなり不完全だぞ。祖父よりもタメが長いし、収束も甘い。余計な被害が出るし、狙いだって若干ズレてる」


 なんて説明したのだが、ガラの悪い男の方はあきれたような表情で口を開いた。


「そもそもバルフグランと比べんなよ。そもそも竜ってのは歳を重ねるごとに強くなるってのに、そいつはその上でさらに自分を鍛えたかわりもんだぞ」


 ドラゴンっていうのはかなり不条理な存在で、生まれた時から強力な力――魔力を宿しているっていうのに、成長するにしたがってその魔力はより強大になっていくらしい。しかも、その増えた魔力の操作だって問題なくできるし、なんだったら操作の精度まで上がっていくのだとか。

 ただ生きているだけで強くなる種族。それがドラゴンだ。ほんと、ずるいよな。


 ちなみに、バルフグランというのはジジイの名前だ。昔人間の領域に顔を出したことがあったらしいけど、その時に着けられたあだ名は『天王竜』だったか? ……ジジイのくせになんかかっこいい名前をしてるよな。


「だとしても、いつかはぶっ飛ばす!」


 そういうとジジイも男女のドラゴンも優し気に、そして楽し気に笑った。



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