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異世界ドラゴン村で育った人間は当然の如く常識外れだった  作者: 農民ヤズー


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side:どこかのビビり 竜の気配?



「ぴ……?」


 荘厳さの漂う室内に、どこか間の抜けた声が響いた。


「どうかされましたかな、竜王陛下」


 その声の主である女性の前にはとある男性が座っていたのだが、突然話相手である女性がおかしな声を漏らし、あまつさえ驚いたように体を跳ねさせたことで男性は首を傾げた。


 この女性、竜王陛下と呼ばれていたことからもわかる通りこの国を作り、今に至るまで守護し続けてきた守護竜様――ドラゴンである。


 その振る舞いはまさしくドラゴンと言える堂に入ったものであり、威厳に満ちているものである。だから先ほどの間抜けな反応はきっと気のせいだろう。そのはずだ。


「ん……いや、大したことではない。ただ、竜の気配を感じただけだ」


 先ほどの間抜けな声と体を跳ねさせたことなどなかったかのように、守護竜は真面目な表情で答えた。


 その様子を見て、男性……この国の王である人間、ルーカス・ドラクレアは驚いた様子で立ち上がった。


「竜の気配……!? で、でしたらドラゴンがこの国に現れたということですか!?」

「そう、なるだろうな。だが、本当にかすかな気配だ。それも、北の守護線付近だったようだし、おそらくはただの気まぐれでの散歩だろう。その途中で絡まれでもしたのではないか? ……多分」


 問題ないという守護竜に、ルーカスは一度息を吐いてからソファーに座り直した。なんだか最後には不安そうに顔を歪め、声も細く震えていた気もするが、そんなことはないだろう。


「ドラゴンが人に変じて紛れている、という可能性はありませんか?」

「……ないだろう。我がことながら、私のように人に紛れて暮らすのは相当変わり者だ。こちらの領域を犯すつもりがあったとしても、その時は竜としての姿のまま襲ってくるだろう」


 そう。この守護竜は人間とともに国を作り、人間とともに過ごしているが、そんなことをするドラゴンは極小数。かなりの変わり者だと言えるだろう。


 世の中のどこかには、人間の領域に人間の姿をしたドラゴンが村を作って人間を真似て暮らしていると聞いたことがあるが、それだって事実かどうかわからない。人間とともに暮らすというのはそれほど珍しい事態なのだ。もし存在しているのなら、よほど変わり者達が住んでいるのだろう。


「だが、一応調査はしておけ。無意味だろうが、調べた結果何もないならないで安心が手に入る」

「はっ。かしこまりました。ついでに守護線付近の村々の状況も確認させましょう」


 ルーカスはこの国の王であるにもかかわらず、守護竜に跪くことをおかしなこととは思っていない。それこそがこの国の在り方なのだから。

 守護竜によって作られ、守護竜によって守られ、守護龍に見守れられながら育つ。それがこの国だ。ある意味守護竜とは自分の母であり恩人でもある存在と言えた。


 もっとも、その畏敬の念は個々人で差があるので、それほど敬う態度を見せない王もいたが、今代の王はドラゴン大好き、守護竜大好き派だったようだ。


「――うう~~……他のドラゴンなんて来ないでほしいなぁ」


 そんなドラゴン大好きな王様が部屋を出て行った後で、部屋の中には守護竜だけが残されていたのだが、そんな部屋の中に情けない声が響いた。


 先ほどまでの姿と全く違っているが、ソファーに体を預けながら弱音を吐く姿も堂に入っている。なんだったら先ほどまでの姿よりも似合っているとさえ思えるほど自然な振る舞いだ。

 どうやら先ほどまでの姿は演技であったらしい。


「ただの変わり者なら……まあ……ギリいけるけど、邪竜なんて来たら……あ、おなか痛い。薬のもぅ」


 そう言いながら守護竜はノロノロと立ち上がり、ふらふらと歩きながら近くの棚を漁り出した。

 だが、どこに何があるのかわかっていないのか、棚を開けては漁って、開けては漁ってを繰り返している。


「んぬー……こんな時に限ってリーネットがいないなんて。普段は何でもやってくれるのに、今は一時的に里帰りしてるって……なんでこんな時に限って? 悪いことって、本当に重なるのね……」


 そんな風に呟きながら棚を漁ること数分。どうやら目的の薬を見つけたようで、再び先ほどまで座っていたソファーへと座り直した。


「あーあ。あんな毎日暴れまわってるあたおか連中から逃げるために竜界から出てきたのに、気づいたら竜王なんて呼ばれて……どうなってるの……? そりゃああたしだってなんかいっぱい褒められてあがめられて、ちょっと……ほんとにちょっとだけ調子に乗ったところはあるけどさぁ……でもこんな何百年も祀る必要なくない? しかもこの暮らしに慣れてきた今になって他のドラゴンがやってきたかもしれないなんて……あ、だめ。おなかだけじゃなくて頭も痛くなってきた」


 どうやらこのドラゴン、人間のために国を作ったのではなく、他のドラゴン達から逃げてきた先で調子に乗った結果、守護竜として国のトップに据えられたようだ。


 そんないい加減なドラゴンであれば、確かに今のゆるい態度の方が普通と言えるのかもしれないが、守護竜様を崇めている者達にとってはなんとも残念な事実だろう。

 もっとも、自分の姿が他人にどう映っているか、どう思われているかを理解しているからこそ、先ほどルーカスと話していた時は立派な振る舞いをしていたのだろうが。


「薬ってドラゴンが飲むんだし、人間の十倍くらいでいいかな? ……まあいいよね。たくさん飲めばその分効くと思うし。いつもは一粒とか二粒しか出してくれないけど、たまにはいいでしょ。早く治ったほうがいいに決まってるもん」


 もちろん素の状態の守護竜を知っている者もいる。彼女とて一人でなんでもできるわけではないのだから、むしろ一人ではできないことの方が多いくらいなのだから、補佐するものは必要だ。

 だが、残念なことに、その補佐してくれていた存在は今日に限って故郷へと帰省していた。


 最近は国の状態も安定していたので、少し離れても問題ないだろうということで久しぶりの帰省となったのだが、考えが甘すぎたと言わざるを得ない。

 こんな駄目駄目なドラゴン、たとえ平時であっても一人にしてはいけないのだということを誰も本当の意味で理解できていなかった。


 一応普段はいるお付きの侍女以外にも守護竜の素の姿を知っているものは多くいる。なんだったら国王であるルーカスだって当然知っている。だが、ルーカスを見れば分かるとおり皆守護竜のことを素晴らしい存在、偉大な存在と認識しているため、彼女を見る目にはそのフィルターがかかってしまうのだ。

 そして、守護竜自身もそのことを知っているから期待に応えようと自身を取り繕って生活している。数百年という時間は彼女におり繕うことができるだけの技術を与えてしまったのだ。


 だからこそ、誰も彼女のことを心配しない。

 だからこそ、彼女の方も誰も頼らない。

 だからこそ、普通ならしないような馬鹿なことをやらかす。


「ふう……あ。そういえばこっちじゃなくて反対側にはドラゴンだけで人の領域に村を作って暮らしてる場所があるんだっけ? ならそこのやつらが……こないわねえ。うん。絶対に来ない。だって竜界挟んで反対側だし。わざわざ大回りしてまで来ることなんてないでしょ。でもそうなると竜界から誰か来たってことだし……はあ。本当にただの散歩で済めばいいんだけどね」


 グランの暮らしていたドラゴン村の話は竜界を挟んで反対側の大陸にも伝わっていた。というよりも、そういう噂があるからこそ守護竜は反対側の大陸を選んで棲み家としたのだった。


「もし戦いになったらどうしよう? 私戦闘ってあんまり得意じゃないし、ブレスだって簡単な方しかできないし……そりゃあ人間相手だったらばちこん無双できるけど……ガチドラゴンだったら、良くて相打ちってとこよねぇ……いえ。何のためにいままで頑張ってきたの。楽するためでしょ! 人間が鍛えてきた技術を使っちゃいけないなんてルールはないんだし、魔法具を使いまくって強化しまくれば……まあ……いける、かも? そんなことしたらドラゴンとしてのプライドがー、なんて騒ぐのもいるだろうし、もう竜界には戻れなくなるかもしれないけど、そもそも戻る気なんて最初っからないんだから平気でしょ!」


 ドラゴンは最強の種族であるという自負がある。故に自分に挑んできた強者の申し出は断らないし、負けたとしても相手を称える。自分は強かったが、相手はそれ以上に強かったのだ、と。

 そのため、負けないために他人の手を借りる、ということをよしとしないのが一般的だった。


 共闘はいい。だが魔法具や薬のように外付け力を用いて戦う、あるいは人間の軍勢という〝その他大勢〟を利用して戦うなどという行為は忌避されていた。

 もしそんなことをしたとバレれば、他のドラゴン達から総スカンを喰らうこと間違いなしだ。


「良し! そうと決まったら準備させておこうっと。人間用でも効果はあるけど、一応あたしに合わせて規格を変えたほうがいい感じよね? 


 だがこのドラゴン、すでに他のドラゴン達との関係を完璧に切ってしまっているので、今更ドラゴン達の輪から弾かれても痛痒にも感じない。

 そのため、迷うことなく他人の手を借りる道を選ぶのだった。


「ふんふ~ん。解決できそうなめどが立ったからかな? なんだか頭もおなかも痛くなくなってきたわね!」


 そう言って勢い良く立ち上がった守護竜は、勢いとは裏腹にふらついた足取りで部屋を出ていくのだった。


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