守護竜様のお守り
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旅の仲間が増えたことで今後の予定について話し合うこととなった俺達は、村長の家に戻って村長の家のリビングを占領しての話し合いとなった。村長? あの人たちなら他の人の家に行ったよ。……いや、うん。本当にごめん。でも村長的にも貴族と同じ家になんていたくなかっただろうし、これでよかったのかもしれない。もしこの場に一緒にいたら、村長の胃に穴が空いてたかもしれないし。
「明日は朝っから出るが構わねえか?」
「問題ない。だが、貴殿は大丈夫なのか? この村に着いたばかりだが」
「平気さ。この程度で疲れたなんざ言ってらんねえのが冒険者ってもんだからな。実際、ここまで特に疲れるようなことはしてねえんだ。ここに来るまで馬車に乗ってきたしな」
明日出るのは構わないんだが、馬車なんてあるのか? ガロン一人しかいないんだったら走れば良くないか? なんて思ってしまった。
「一人なのに馬車?」
「あ? そりゃあ魔物の討伐に何使うかわからねえしな。いろいろ準備するのは普通だろ。まあ普通の討伐依頼じゃここまで用意しねえが、ここは北の果てだ。何が起こるかわからねえんだからどんだけ準備しても大げさってことはねえさ」
正直なんの準備も無しにドラゴンと殴り合える俺としては、魔物を狩るのに準備をするというのがよくわからない。何をどう準備するんだろう? そんな馬車なんて必要なほど道具を使うんだろうか?
なんて不思議に思うことはあるけど、それはそれとして……
「北の果てねえ……。聞いた感じだと、結構やばい感じの場所なのか?」
村人達も恐れてた雰囲気だけど、それはこの国の人の共通認識なんだろうか?
「まあな。北の果て……ここも十分果てだし、なんだったら人の暮らす場所で言ったらいっちゃん端ではあるが、ここからさらに北に行くと魔物がわんさか出てくるやべえ森があるだろ。あそこから海を越えてさらに北に行くと、ドラゴンどもの住んでるくそやべえ場所があんだよ」
「知ってるよ。『竜界』だろ?」
行ったことはないけど、聞いたことならある場所。一度は行ってみたいと思うけど……まあそれは元の場所に帰ることができてからの話だな。
「おう。さすがに大陸が違ってもそれくらいは知ってるか。ただまあ、その竜界ってのが厄介でな。うちの守護竜様もそうだけどよ、ドラゴンってのは基本的に竜界で暮らしてるが、たまに外に出てくる奴らがいるんだよ。で、その血を竜界の外に残していくわけだ。あそこはそんなドラゴンの混血として生まれた魔物が多く住んでる場所でな。ドラゴンほどじゃねえが、まあ普通の魔物よりは圧倒的に格上な奴らが普通に歩いてやがる。な? やべえだろ?」
「ん……まあ、そうだな?」
いやまあ……同意を求められてもなぁ。ドラゴンと毎日殴り合ってた立場からすると、ドラゴン未満の格下がいるって言っても、ああそう、としかならない。
「おいおい、なんだよその反応。カーッ! さてはドラゴンがどれくらいやべえのかわかってねえな? まあそれもしゃあねえこったな。ドラゴンに遭う機会なんて早々ねえし、混血も普通はそこらにいるような奴らじゃねえからな」
「ああ、うん。そうだな」
ドラゴンに会う機会がないどころか、毎日のように会ってたんだけど? むしろ、会わない日の方が珍しいくらいだった。
「ならば、先ほどの魔物もドラゴンの混血だったのだろうか?」
「いや、それはねえな。この村に限った話じゃねえけどよ、こういったまともな防護設備のねえ辺境の村ってのは、兵士やなんかの守りがねえ代わりに、守護竜様からお守りが渡されてんだ」
「そのお守りとやらでドラゴンの混血を退けていると?」
「ああ。らしいな」
へえー。……でもさ、一ついいだろうか?
「そもそも守護竜様って何?」
さっきからちょこちょこ話に出てきたけど、守護竜ってなんなんだろうか? まあ話の流れからしてなんとなくはわかるけど、一度知ってる奴から聞いておきたい。
「あ? んなのも知らねえ……あー、そうか。別の大陸の出身だったな」
ガロンは俺が守護竜のことを知らないというと怪訝そうな顔をしたが、すぐに俺たちの事情を思い出して頭を掻きながら話出した。
「これは知ってねえと馬鹿にされるというか、頭の出来を疑われることだから覚えといた方がいいぜ。守護竜様ってのはな、この国を作ったドラゴンのことだ。ドラゴンは寿命が人間なんかと比べて馬鹿長えからな。建国から今までずっと国に居着いて見守ってくださってんだよ」
「それは、この国の王がドラゴンということだろうか?」
「いや、そうじゃねえ。有事の際なんかは力を貸して下さるみてえだが、基本的にはただ居座ってるだけ……っつーと不敬か? まあ本当に〝見守ってくださってる〟んだよ」
つまり何もしてないニートってことか。いやまあ、ドラゴンらしいって言ったららしいんだけどさ。しっかり働いてるドラゴンとか、イメージつかないし。
「お守りというのは?」
「あー、それは俺もみたことがねえが、なんでもここみてえな辺境の村にはドラゴンの縄張りだって示すために守護竜様の鱗だとかなんかしらの体の一部を預けてるらしいんだよ。そんでドラゴンの血が混じってる存在はその匂いを本能的に嫌って近寄ってこないらしい。だからあんたが倒したあの魔物は混血じゃねえってわけだ」
へー。確かに、あの森もほとんど魔物っていなかったからなぁ。ただ、魔物はいないけどむしろ逆にほとんど魔力を持たない動物達はいた。
まあ、ドラゴン以外に敵がいないし、ドラゴンだって少し食べたら満足するから弱い生物にとってはある意味では安全な場所かもしれない。同族が食べられたとしても、減ったぶん増やせば種族としての生存戦略は正しいんだろうし。
そんな感じで適当に話をしながら親睦を深めていった。




