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異世界ドラゴン村で育った人間は当然の如く常識外れだった  作者: 農民ヤズー


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ドラゴンの守護る国

 ——◆◇◆◇——


「な、なんだお前たち! なんでこの村に……いや、それよりもどこから!?」


 俺たちを見るなりなんだかとても慌てたような様子で問いかけてくる……門番? いや、門じゃなくて壁前に立ってるだけだから……衛兵?


 この村……多分村は、見たところこちら側に門がない。まあこの先に言っても村も何もないし、人通りもないから門を作る必要がなかったんだろう。

 でも、そんな何もないところに人が立って何をしてるんだろうか?


「よそ者を止めることは理解できるんだけどさ、なんか慌ててない?」

「それだけ人が来ないということじゃないかしら?」

「まあここまで歩いて何もなかったしなぁ」


 村も何もないのに知らない余所者がやってきたら驚くのは当然か。


「お前たちは何者だ! なぜ終わりの森の方向からやってきた!」


 終わりの森? それって、多分俺たちがさっきまでいた森のことだよな? なんだってそんな不吉な名前なんだ? 人生が終わるからか? 俺に取っては雑魚しかいなかったけど、世間一般的に言ったら強い魔物ばっかりらしいし。


 なんてどうでもいいことを考えているとライラが一歩前に出た。


「私はゲオルギア王国ボルフィール侯爵家令嬢。王室第三親衛隊隊長、ライラ・ボルフィール! 不慮の事故により転移魔法具が暴走し、この地に飛ばされた。ついては帰還のための助力を願いたく申し上げる。貴君らの指導者を呼んでもらいたい!」

「え? は? ゲオ……侯……? え? あ、いや、しょ、少々まってくだすって!」


 ライラの告げた言葉を聞き、門番だか衛兵だかわからない村人は困惑しながらもなんとか言葉を返し、慌てながら走り去っていった。多分門がある方に行って人を呼びに行ったんだろう。

 まあこんなことを突然言われたら驚くよな。だって村人にとっては貴族がやってきたってだけでも大事だろうに、その上転移魔法具の事故だとか、帰還の協力だとか……そりゃあ簡単に受け入れられないに決まってる。


「本当に、めちゃくちゃ混乱してるなぁ」

「それはそうでしょうね。こんな貴族と関わりなんてなさそうなところで、いきなり貴族がやってきたとなったら、普通ならまともに対応なんてできるわけがないわ」


 なんて話をしな待っていることしばらく。さっきの村人を先頭に、他何人もの村人らしき集団がこっちに向かって走ってきた。

 武器を持っているところを見ると……まさか敵対するつもりか?


 そう思ったが、俺の考えを悟ったのかライラが俺を制止するように手を出した。


「申し訳ありません。大変お待たせいたしました」

「構わない。突然訪れたのは我々の方なのだからな」

「何もない見窄らしい場所ではありますが、どうぞこちらへ」


 この人が村長か? 武器を持っているにしては友好的な様子だが……いや、俺たちじゃなくて魔物を警戒していたのかもな。そう思っておこう。その方がきっとお互いのためだろう。


「それで、その……」


 俺たちがやってきた方向とは逆にあった門から村の中に入り、村長の家に招かれて一息ついたわけだが、出されたハーブティー……という名の草を煮出したお湯を飲んでいると、おずおずとした態度で村長が話しかけてきた。


「うむ。我々の事情だな。だがその前に、この場所……大陸や国の名前は知っているか?」

「大陸……? く、国の名前でしたらフルステラ竜国ですが……」

「竜国?」


 俺がライラから聞いていたのはゲオルギア王国って名前だけど、本当に違う国なんだな。


 でも、それにしても〝竜〟国か。竜ってことはドラゴンだろ? 国の名前に入ってるってことは、この国は何かドラゴンと関係あるんだろうか? これまでドラゴンと共に過ごしてきただけあって、結構気になるな。


「……聞いたことがあるな。竜界を超えた先にある大陸だ。そこでは遥か昔からドラゴンが住み着いており、国を守護していると」

「へえ、そんな国があったのか」


 ドラゴンが人間の国を作ったのか。まあ、ドラゴンが人の真似をして村を作ってるくらいだし、人に混じって暮らすのがいてもおかしくないな。


「となると、本当に反対側に来てしまったというわけだな」

「帰れるか?」

「帰る分には問題ないだろう。もっとも、時間はかかるだろうがな」


 どうやら本当に反対側の大陸に来てしまったようで、ライラは顔を顰めて小さく息を吐き出した。まあ、任務途中……それも俺という爆弾のような宝のような半端な立場の存在を保護しているってのに、これから長い間旅することが決まったようなもんだしな。ため息の一つや二つ出てくるだろうさ。


「それは仕方ないんじゃないか? とりあえず場所がわかっただけマシだろ」

「……ふう。そうだな。今はそれでよしとしておこう」


 あのまま森や平原が続いてたらどうしようかと思ったけど、事故で飛ばされてから一日目にして自分たちの居場所がわかったんだから幸先が悪いってわけでもないだろう。……まあ、旅立とうとした直後に転移魔法具の事故が起きてる時点で幸先は悪いのかもしれないけど。


「あ、あの……それで、その……」

「ああ、すまないな。我々は転移魔道具の暴走により、この地に飛ばされた者だ。現在は帰還のために旅をしている途中なのだが、貴殿のおかげで状況の把握ができた。感謝する」

「い、いえそのような大層なことはっ……!」

「我々のようなものが突然訪れた上、重ねて迷惑をかけるが、一晩宿を貸してくれまいか? それと、代金は支払うので旅装と物資を提供していただけるとありがたいのだが」

「そ、それはもちろん! 貴族様に相応しいとはとても言えませんが、我が家をお使いください! 旅の支度もさせていただきます」

「すまないな。これは代金だ。あいにくと、こちらの通貨は持っていないのでな。こういったものとなってしまうが、構わないか?」

「はい! なんの問題もありません。ありがたく頂戴いたします!」


 そうして話をつけたライラは鎧の下からネックレスを外し、それをテーブルの上に置いて村長に差し出したことで代金とした。


 見るからに高そうな宝石のついたネックレスだったからか、村長は受け取りを断ろうとしていたが、代金を支払わないで支援を頼むことは強盗と同じだと言い張り、最終的には物資と今晩の宿を手に入れることができた。


「鎧着てるから装飾品なんて何も身につけてないと思ったよ」


 貸してもらった部屋に行った俺達なわけだが……いきなり用意したにしてはちょっと立派すぎるな。こんな辺境の場所で客人用の部屋なんて用意していないだろうし、あったとしてもここまで整備なんてしていないだろう。

 ということは……もしかしてこの部屋って村長が使ってる部屋か? え、あの人自分の部屋を差し出したの? いやまあ、でも貴族に部屋を貸すわけだしなぁ。下手な場所を貸すわけにはいかないのか。


「貴族の嗜みというやつよ。いざという時に己の身分を証明するためだったり、こういう状況で助けを求めるためには邪魔だとしてもいく掴みにつけておいた方がいいのよ。邪魔だけれどね」

「納得。確かにこういう状況だとありがたいな。でも、親の形見とかそういうのじゃないよな?」


 よく物語なんかであるのが、旅先でどうしてもお金が必要になった時、親の形見や一族の家宝を売ってお金を工面する、なんて話がある。もし本当にそうだったらあんまりいい気分じゃないな。


「親の形見って……私の両親はまだ生きてるわよ。あれはただの宝石だから、気にしなくてもいいわ」


 俺の言葉を笑って流したライラだが、その様子からして本当になんでもないただの装飾品だったようだ。よかった。


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