謀は暴力で叩き潰す
今日はドラゴン達とのかかわり方について話す大事な大事な会議がある。せっかくなのでそこで色々とぶちまけてしまえと、協力者に言われたのでそうすることにした。
ただ、少し問題があって、ここに来る途中に何度も止められてしまったことで会議の時間に少し遅れてしまったのだ。まあそりゃあこんな鎖で縛った人間を引きずってたら騎士たちも止めるだろう。特に、これから行くのは国王もいる場所なんだから、そんな怪しい存在を入れるわけにはいかないよね。
「グランディール。会議があることは事前に伝えていたはずだ。如何にお前がここでの暮らしが不慣れと言えど、侍従たちが教えたはずだ。なぜ遅れた? それは何をしている?」
会議場にいる全員が俺のことを見つめているが誰も声を出さない中、国王が普段よりも重々しい声で問いかけてきた。
「申し訳ありません。国王陛下。実は昨夜襲撃者がありまして」
「襲撃者だと!? ……それが?」
その言葉で国王の視線が俺からわずかにずれた。きっと引きずっている襲撃者のことを見ているんだろう。
「はい。風呂に入っている最中であれば無防備と考えたのでしょう。寝ていたとしても、魔法具を身に着けていれば暗殺は難しい場合もありますから」
「襲撃者はどうなった?」
「迎撃しました。複数で襲い掛かられたので一人逃がしましたが、二人確保しました」
「そうか……」
国王は俺の返事を聞くなりホッと安堵したように息を吐きだした。多分俺のことを心配してくれていたんだろうけど、でもまだ他にも言わないといけないことがあるんだよな。
「それらの対処と、その襲撃の前に朝食で毒を盛られたこともあり、対応しなければならず遅れてしまい――」
「毒!? 大丈夫なのか!?」
「あ、はい。あの程度であれば、十倍の濃さで飲まされても問題ありません。ドラゴンの森にある食べ物のほうが毒性が強かったので」
「そ、そうか……」
そういって頷いた国王だけど、なんだかさっきとは違って少し引いてる気がするんだけど気のせいか?
国王だけではなく他の貴族たちもなんだか不思議なものを見るような、あるいは化け物を見るような眼差しになっているような気がするのは多分気のせいじゃないと思う。
「それでその襲撃者や毒の対処をしていたことで遅れてしまいました。申し訳ありません」
まあ、襲撃者や毒への対策というか、襲撃者を連れてくることで起きた騒動の対処だけど、そこまで言う必要はないだろう。関連事項で遅れたんだから、襲撃者の件で遅れたと言っていいはずだ。
襲撃者たちについて考えたのは昨日の夜。協力してくれそうな人物――ユーディットのところに忍び込んで話をしに行った。
なんで妹のところに行ったかって? そんなの俺に協力してくれそうな人物で、なおかつ俺よりも城での立ち回り方がうまそうな気がしたからだ。実際、まだ十二歳程度だっていうのに俺がやるべきこととか教えてくれたし。
俺が毒を飲んだ後に来たし、その日の夜に襲撃されたからもしかしたら今回の襲撃に関わっているかもしてないと思って確認する意味も込めて相談しに行ったんだけど、敵ではなかった。多分あの子は信頼してもいいだろう。
「いや、そういった事情があるのならば構わない。それよりも、本当に問題ないのだな?」
「はい。ですが、襲撃者がいたということは、それを指示した何者かがいるということです」
「それは……そうだろうな。お前はこの国の王子なのだ。些か難しい立場ではあるが、王族であることに変わりはない。そんなお前を殺そうとしたのであれば、それは徹底的に調べる必要がある」
俺も一応は王族なんだし、襲われたとなれば徹底的に調べられることになるだろう。それで犯人が分かればいいが、調べられる前にそれを止めようとして来る者もいるはずだ。
調査をするにしても、止められたとしても、どっちにしても犯人を見つけ出すことができる。
政治力があるものなら自力で敵を見つけ出して交渉をするらしいんだけど、俺にはそんなこと無理だ。なのでとりあえず今回は自分の利益なんて考えないで敵を潰すだけを目的として動くことになった。
「お待ちを、陛下。本当にそれは襲撃だったのですかな?」
犯人が見つかると良いな、なんて思っていると、不意にそんな言葉が聞こえてきた。
本当に襲撃だったのか、って言われても、襲撃者がここにいるんだから襲われたに決まってるだろ。
誰がそんなことを言っているんだ……って、大叔父? なんか怪しい雰囲気はしてたけど、何のひねりもなくあれが犯人ってことか?
「……何をおっしゃっているのですか、叔父上」
「毒を飲まされた。それは理解しましょう。ですが、襲撃者の件は本当なのか、いささか疑問が出てくるのではないでしょうか?」
「私の子が嘘をついているとでも? その言葉の責任はとれるのだろうな?」
「嘘をついているというよりも、事を大きくしようとしている、といった方が正しいでしょう。子供が親の注意を引くために実際のものよりも大げさに騒ぐ、ということは得てして起こりえるものです。しかも、グランディール王子はこれまで親が存在してきませんでした。親に甘えたくて気を引こうとしている、ということは十分に考えられます」
えーっと、つまりなんだ。俺が親恋しさにかまってほしくて騒いでいるって? ……正気か?
え、本気でこんな戯れ言を言い訳にしてごまかそうとしてるの? 本当に本気で言ってる?
「だが、だというのなら襲撃犯はどうなる? グランディールが捕えていると言っているが?」
「奴隷や使用人を襲撃者として仕立て上げたのではありませんか? 過去にも自身の悪事を隠すために偽りの襲撃者を用意して狂言を言いふらしていた貴族がおりました」
「だがそれは……っ!」
そう言った出来事がないわけではないのだろう。だからこそ国王は強気に出られないんだろうけど……はあ。
「――『竜の存在はただ在るだけで畏怖を与える』」
文言を口にすると同時に竜の魔力を解放してその場に威圧感をまき散らす。それだけでざわついていた場は静まり返り、席についている貴族たちは頭を垂れるようにテーブルに頭を付けた。
「国王陛下。申し訳ありませんが、くだらない戯れ事に付き合うつもりはないのです」
俺からしたら貴族たちの慣例や前例なんて関係ないし、法律も何も関係ない。ただ犯人がいるならそれは敵で、敵は潰す。それだけの単純な話で、チェスで挑んできた相手の顔面を拳で殴り飛ばすのが俺のやり方だ。
「な、にをするつもりだ」
「なにも。ただ少し、犯人に話を聞きたいだけです」
十中八九あんな足掻きともいえないようなくだらない言い訳をする人物が犯人だろうけど、それでも冤罪はあり得る。だからそれを確認するために、この場にそぐわない行動だとしても威圧することにしたのだ。
「は、はんにん、だとっ……。貴様、このようなことをして、私を誰だと――」
「我欲のために他者を踏みにじる屑だろ? 襲撃者を尋問したら教えてくれたよ」
「しゅ、襲撃者だと? そんなもの、話を信じるに値すると思っているのか!」
「でも証言があった以上、調べないわけにはいかないだろ?」
これも妹の発案だ。実際には何もしゃべっていない。でもこっちでしゃべったって言えば、調べざるを得ないからやるだけやっておけ、とのこと。
これで調査した結果本当に冤罪だったならそれはそれでいい。その時はこの大叔父に謝罪代わりに手を貸すなり手を組むなりすればいいし、敵対することになったら戦うでも逃げるでも構わない。
とにかく最速で今回の件を終わらせ、俺に手を出してはいけないと知らしめることが大事なのだ。とのこと。貴族たちに〝俺〟という存在が理解されていない今なら、多少の無茶をしても周りはそれを受け入れざるを得ないそうだ。
「ふ、ふざけるな! 何の権限があってお前など――」
「では、私が命じよう。叔父上。王族の命を狙ったとしてあなたを拘束させていただく」
尚も足掻こうとした大叔父だが、その言葉を遮るように国王が立ち上がり、大叔父のことを睨みつけた。
……凄いな。一応国王故人を狙い撃ちしたわけじゃないけどまだ威圧はしたままだっていうのに、あんなに堂々と立ち上がることができるなんて。……あ。もう犯人捜しは終わったし、威圧を解いてもいいか。いつまでも続けているとそろそろ気を失う人たちが出てきそうだし。
「ローデリック! 貴様はその戯言を信じるのか!」
威圧が解かれた瞬間大叔父はバッと勢いよく立ち上がり、国王を睨みつけた後俺のことを睨みつけながら叫んだ。
「信じてはいません。ですが、証言があった以上は調べないわけにはいかないというのは間違いではないでしょう? それに、ライラ・ボルフィールに渡した転移魔法具の暴走。どうやら意図的な仕掛けが施されていたようですが、関係者から叔父上の名前が出てきております。その件に関しても話を聞かせてもらいましょう」
国王がそういうなりその場に控えていた騎士たちが動き出し、大叔父のことを捕まえた。さっきまで威圧していた俺のことを睨んでいたのに、命令があればすぐに動き出すんだから凄いよな。
「知らん! 私は何も知らん! 貴様、ローデリック! 私にこのようなことをして覚えておけ!」
最期まで叫びながら大叔父は騎士に連れていかれてしまった。
なんとも突然の状況にその場は静まり返っている中、国王は俺の許まで歩み寄って来た。
「すまなかったな。グランディール」
「いえ……」
国王がみんなの前で誰かに謝るなんて良いんだろうか、なんて思ったけど、相手が自分の子供ならぎりぎりアリなんだろう。
ここまで規則や慣例を無視したかなり横紙破りなやり方だし、かなりの無茶をやっている。正直、拙いを通り越して無茶苦茶なやり方だ。物語として見れば三流もいいところ。ご都合主義のゴリ押しが過ぎると我ながら思う。
でもこれが今の俺にとって最速で最適な方法らしい。新しいお兄様の場合は武力で押し通すのが最も効果的だと思います、だそうだ。
今ならば礼儀作法を知らなかったと言っても周りは理解するし、ドラゴンに育てられたという事実が印象に残っているから、暴れて無茶苦茶やらかしても大したことにはならないだろう、とのことだ。
「皆も、騒がせたな。私はこれからやらねばならんことがある。だがせっかく集まってもらったというのに何も話をしないというわけにもいくまい。故に問おう。此度のグランディールの成果――ドラゴンから直接その素材を手に入れる道筋を作った結果に、何か異議のあるものはいるか」
国王が問いかけても誰も何も言わない。でもまあ、そうだろう。国王の言葉に逆らうようなものだし、直前まで受けていた威圧もある。ドラゴンの威圧を受けてなお、敵対しようと思う者はここにはいない事だろう。
「では、ドラゴンとの交易を認め、その功に報いるべくグランディールを正式に王子として迎え入れ、本来の座である〝第一王子〟の立場を与えることとする! 皆混乱はあるだろうが、なに、呼び方が変わるだけだ。問題ないだろう?」
絶対混乱程度じゃすまないだろうし、呼び方が変わるだけなのは表面的な部分だけだろうけど、それでも誰も文句を言わない。いえない。
「それから、グラン。ドラゴンとの交易に関してだが、一度正式に特使を送って話をした方がよいと思うが、どうだ?」
「まあ、はい。そうですね。……あ、でも森の中を問題なく移動できる人でないと辿り着くのは難しいかと」
「分かっている。故に、特使には私自身が赴くとしよう」
……え? 何だって?




