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異世界ドラゴン村で育った人間は当然の如く常識外れだった  作者: 農民ヤズー


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予想外の旅立ち

 

「こやつのことを頼む。大抵のことではどうにかなるとは思わんが、人の世に疎いのは事実だ。それによって起こる事態もあろう」

「はっ。我が主君の許まで命を賭してお送りいたしますので、ご安心を」


 そんな大げさな……とは思うけど、こんな恭しく振舞う騎士が部下にいるってことは、おれの実父って本当にかなりの権力者なんだろうな。どんな人物なんだろう?


「ふむ。せっかくの門出だ。ワシが近くまで送ることもできるが?」


 あ、そうしてくれると助かるかも。騎士たちの装備の量を見るに多分それなりに離れた場所に向かうことになるだろうし、この騎士たちもそのほうが楽だろ。


「い、いえ。それには及びません! 帰還用として首都に飛ぶことのできる転移魔法具を支給されておりますので。それに、ドラゴンが国内にいきなり現れると、その……」

「確かに、無用ん騒ぎを起こすこととなるか。それはそれで面白そうではあるが……やめておくとしよう」

「ご理解いただき感謝申し上げます」


 ……ああ、そうか。俺としてはドラゴンが身近にいて……というか身近にいすぎてわからなかったけど、そういえばドラゴンって魔物に分類されるんだったっけ。国を滅ぼしたこともあるってジジイから教えられたし、人間からすれば対処のしようがない化け物だ。そんな存在が人里の近くに行ったら、騒ぎになること間違いなしか。


「でも、ここから歩いていくの? それは面倒じゃないかしら? せめて途中まででも送って行ってもいいんじゃない?」


 まあここから森の外に出るまででも二日くらいはかかりそうだしなぁ。いやまあ、俺一人なら半日もあれば出ていけるし、空を飛んでいいんだったら数時間で出ていけるけどさ。

 でも、俺一人じゃどこに行っていいかわからないし、この騎士たちと一緒に行動することは確定だ。そうなると森を出るまで時間がかかる。せめて森の入り口付近まで送ってもらってもいいんじゃないかなー、なんて思ったり……。


「ご心配いただき感謝いたします。ですが、我々は任務を達成した際、あるいは緊急時の脱出の際に使用する転移魔法具がありますので」

「へえ、魔法具か。初めて見たよ」


 騎士たちの……多分一番偉い隊長かなんかの人が首から下げていたネックレスを取り出したが、あれが転移魔法具なのか。魔法具自体は見たことあったけど、転移のやつは初めて見たな。


「まあ、俺らは魔法具なんざ使わねえからな。んなもんより自前でやった方が早えしよ」

「さすがはドラゴン。……でも、これは回収しないの? ドラゴンってキラキラしてるもの好きじゃん」


 ドラゴンは宝を集める習性があるようで、この里にも宝物殿のような場所がある。いや、宝物殿なんて大したものじゃないか。各家に自分だけの秘密基地みたいな宝物部屋がある、って感じだ。

 そんな宝物部屋には魔法具だって転がっていた。俺が魔法具を見たことがあったのもそこだしな。だからそれだけ宝物が好きなんだったら今目の前にある転移の魔法具だって回収したいと思うものなんじゃなかと思うんだけど……どうなんだろう?


「キラキラしたものというよりも、願いや研鑽の詰まったものが好きなのよ。宝石はその輝きを出すために研鑽が必要で、芸術品はその研鑽と制作物に込めた想いや願いというものに価値を見出すの」

「そんな理由があったんだ。ただカラスの習性みたいにキラキラしてるものを集めてるのかと思ってた」

「おいおい、俺らをカラスなんかと比べんなよ」


 いやぁ、ね? そりゃあカラスとなんて比べ物にならない存在だってのは理解してるけど、でも習性の部分だけ見れば同じと思っても仕方なくない? カラスもキラキラしたものを集めるし。


「ドラゴンは力はある。だが、力があるからこそ何かに対しての思いというものが薄いのだ。だからこそ思いが込められた品を集め、それを見ることで自分の欠けているものを満たそうとしているのではないかと考えられるな」


 なんて思ってるとジジイが溜息を吐きながら教えてくれたけど、なるほど。そういう理由があったのか。


「なに? バルフグラン。あなたそんなこと考えてたの?」

「知らねえけど、欲しいから欲しいんじゃねえのか?」

「……あなたは考えなさすぎだけど、そこまで行くと逆にうらやましいわね」


 でも、たぶんドルドレインみたいなドラゴンが大半だと思う。むしろ、ミューテリアスやジジイみたいにいろいろ考えている方が珍しいんじゃないかな。


「でも、魔法具なんて研鑽の塊じゃないのか?」

「そこに込められた技術は確かに。だが、それ自体が研鑽の結果というわけではない。単なる量産品に価値など見出せんということだ。量産品でも初めて見る品であれば集めもするが、転移魔法具などそこらに転がっているものではな」

「……いちおう、これも国で管理する重要物資の一つなのですが……」

「人にとっては、であろう? 我らにとっては生きているうちに何度も見る機会のあるおもちゃにすぎん」

「おもちゃ……」


 なんだか騎士の人が情けない顔つきで手元にある道具を見ているけど……でもそうだろうな。だってドラゴンにとっては転移魔法なんて自前で不通にできてしまうものだし。

 ちなみに俺は転移魔法は使えない。というか、使う必要がなくて習ってこなかった。ジジイとしても、竜魔法を完璧に使いこなす方を優先したんだろう。その基礎すらも教えてもらったことがない。


 こうして旅に出ることになるんだったら覚えておけばよかったと思うが、まあ今更だな。


「それでは、発動します。――総員整列!」


 その号令で他の騎士たちは隊長らしき女性の後方に集まりだした。ビビりながらも動けるのはすごいな。さすがは騎士ってところなんだろうか。


「ジジイ、じゃあな。ドルドレインとミューテリアスも。他のやつらにはジジイが悪いって話しといて」

「ええ、わかったわ。バルフグランはみんなから責められることになると思うから、楽しみにしてなさい」

「だってさ。楽しみにしてろよ、ジジイ」


 そうして別れの挨拶を済ませてから隊長らしい女性の方へと近寄って行った。

 俺が来たのを見て、隊長らしき女性は転移魔法具を起動させ、直後俺たちの足下に大きな魔法陣が出現した。どうやらこれが転移用の魔法らしい。


「む……?」


 始めてみる転移の魔法を観察していると、ジジイがなんだかいぶかしげな声を漏らした。どうした? 何かあったのか?


「どうかされましたか?」

「ふむ。首都と言ったが、それはここからどの程度の距離だ?」

「え? あ、ああ、はい。ここから馬でおよそ二週間と言ったところでしょうか」

「二週間? それって遠いのか?」

「馬でと言っていたからそうなんじゃないかしら?」


 馬か……地球の馬だったら確か時速五十キロだったか? でもそれは短距離を走る速度であって長距離を移動する場合は五、六キロくらいだった気がする。疲労や明るさなんかを考えると……まあ一日四十キロくらいなものか。それで二週間だから、五百キロくらいの距離か。


「馬で二週間程度の距離にしてはいささか設定が遠すぎるような気がするが……」

「え……?」

「あ――」


 どういう意味だ? そう問いかける前に俺の視界は白く染まり、ジジイ達のことが見えなくなった。


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