国王の叔父:愚かな選択
「クソッ! なぜこんなことになった!」
とある部屋にて一人の男が声を荒らげて叫んでいた。
男の名はイディオ・モーロン・ゲオルギア。この国の国王の叔父にあたる人物だ。
国王の叔父と言っても、要職についているわけではない。だが影響力がないわけでもない。
今の国王は半ば強引に王の座についたために、反感を持っている者も多い。この男もそんな反感を持っている者の一人であり、現王を廃して自分に都合のいい王子、王女を次の王に、あわよくば自分自身が玉座を、と考えていたのだった。
「国王の力を削ぐために第三近衛を消す策に間違いはなかったはずだ。第三に娘を送った貴族たちも、あの森で娘たちが死んでいれば国王に反感を抱いてこちらに引き入れることができたはずだ。あの森から帰ってくることができたとしても、何の成果もあげることができなければ無駄に兵を派遣したこととなり、しかもそれが国王の個人的な目的となればそこから糾弾できるはずだった。それなのになぜ!」
現王を追い落とすために手を打った。だがそれは失敗に終わってしまった。
その失敗に終わった策というのがグランがドラゴンの村を出発する際に遭遇した転移事故。アレはこの男による仕掛けが施されていたことで意図的に起こされた事故だったのだ。
「策にミスなどなかったはずだ。万が一王の子の遺品を見つけたとしても、帰還時の魔法具が暴走して転移事故が起きるように仕掛けもした。それだけで頭を失った第三近衛は動けなくなり、力を失うはずだった。万が一他の隊員が生きて帰ってきても、頭であり王の縁戚であるライラ・ボルフィールさえ潰せれば国王の力を研ぐことができた。その考え自体は間違っていないはずだ」
本来であればそうなるはずだった。実際そうなる可能性は十分にあっただろう。グランが存在しておらず、村のドラゴン達が人間に興味を示さなければ、ではあったが。
だが実際にはバルフグランが森に入って来た人間に興味を示し、自ら会いに行った。それによって本来の想定とは違う道をたどることとなった。
「だというのに、王子が生きていただと? 十三年も昔に魔物の領域に捨てられた赤子が生きているなど誰が想像できる! しかもドラゴンに育てられただと? なんだこれは。おとぎ話でも聞いているのか?」
イディオは思わずおかしな笑い声が出てきそうになったが、それだけおかしな状況であるというのは誰もが同意することだろう。
そんなおかしな状況になったせいで自身の策が壊れたというのだから、叫び散らしたくなるのも無理はない。
「その上他大陸との貿易? これまでせいぜいが獣人どもや東のと小規模な交易程度だったというのに、南との繋がりを持ってくるとは……クソッ! 計画通りに行けば数年以内にはこちらの手の者が動いていたというのに!」
イディオは自身の権力を強化するために隣の大陸への繋がりを作ろうとしていた。獣人たちは肉体性能は高いが頭の出来が悪く、口車に乗せることは簡単だった。
だがそれでも、実権を握るには数年はかかる予定だった。だがそれもグランが返ってきたことで失敗した。今から動いたところで二番煎じにしかならず、王子の後追いをしただけだと笑われて終わる。
そして帰って来たグランは他の大陸との貿易だけに終わらず、しまいにはドラゴンとの繋がりを作ると言っている。
この国はドラゴンの脅威と常にともにあった。その脅威がなくなるとなれば、その功績は計り知れない。現王の叔父が何を騒いだところで、その功績があればグランの存在を排除することは不可能だろう。
「……このままではまずい。王の叔父という立場だけでは足りんというのに……。第一王子を支援したところで、今回の成果をもって死んだはずの王子が継承権を得ることになれば……」
勝てないとは言わない。だがかなりの綱渡りになる。それも、細くか弱い糸。
普通なら考慮しないような考えだが、それでも今のイディオには余裕がなかった。
「まだ何とかなる。だが、ドラゴンとの交易が正式に行われるようになってしまえばもうどうしようもない」
正式に発表されれば変えようがないが、今はまだグランとドラゴンの個人的なつながりが証明されただけだ。まだ国との繋がりには至っていないのだから、グランという存在がいなくなれば今回のドラゴンとの話は立ち消える。
「……短絡的な考えだ。国王の息子への思い入れを見れば、調査は徹底的に行われるだろう。その結果私の許に辿り着くかもしれない。だが……」
それでも可能性があるのならば。いや、それしか可能性がないのだから動くしかない。
イディオはそんな考えにとらわれていた。
「奴を消せば、問題は片付く。それどころか、ドラゴンの不興を買い攻撃を受け、その責任を国王に押し付ければ排除することも可能となるやもしれん。やるだけの価値はある。第一王子にはまだ使い道はある。ならば第二か。今回の件で奴らも慌てているだろう。声をかければ乗るはずだ」
そうしてイディオは愚かにもグランの命を狙うことにした。相手がどんな存在なのかも理解せず。




