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異世界ドラゴン村で育った人間は当然の如く常識外れだった  作者: 農民ヤズー


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竜と人が共に生きる道

「それで、此度はなぜ戻って来たのだ? 帰還の挨拶などという理由ではなかろう?」


 いつまでも上で羽ばたいているのも邪魔……ではなく大変だろうから、みんなにも地面に降りてもらったことで改めて話し合いが始まった。


「ああうん。それがさ、南の大陸に飛ばされたんだけど、そこから帰ってくるのに貿易のための使節団を出してもらったんだよ。でもそれを信じられない人が結構いてさ、まあ俺みたいなガキが大陸間の貿易なんて話を纏められたなんて信じられない人がいてもおかしくないけど、それを認めてもらわないと今後が面倒そうだったし、舐めてくる相手がいるから最初に一発かましてやろうかな、って」

「ふむ……貿易か。確かに大陸間で大々的には行っていなかったようだな。隣の大陸ならばともかく、南のとはほとんど交流がなかったはずだ」


 ああ、ジジイは知ってたんだ。普通はドラゴンは人間の繋がりとか気にしないものだと思うんだけど……まあジジイが変なのは今更か。昔も人間に化けて旅をしていたみたいだし。


「そうそう。だからそことの繋がりを作った俺が評価されて、王族として相応しい立場が云々ってわけ。――あ、ちなみにそこにいるその人が信じられなかったうちの一人だね」

「そうか」


 ジジイが頷くと同時にドラゴン達が一斉に動き、全員が一人の男性――フォイルを見つめる。


「ひっ――」


 それだけでフォイルは小さな悲鳴を漏らし、意識を失った。これまで逃げ出さずにいられたみたいだけど、流石にこれは無理だったようだ。

 そりゃあそうか。ドラゴン達に敵意はなく、本当にただ話題に出たから視線を向けただけの事でも、人間からしたら絶望的な状況に思えるだろう。


「この程度の雑魚にかまうことはねえんじゃねえのか?」

「人間の世界だとそうはいかないらしいよ。というか、死んでないよね?」


 話しかけてきた一人のドラゴンに応えながら、俺は倒れたフォイルの許へと近づいて状態を確認する。


「なんで死ぬんだよ。俺達はただ見ただけだろうがよ」

「ドラゴンに見られただけで心が弱い人は死ぬこともあるらしいよ」

「そんな弱い生物だったかしら、人間って?」

「お前達が遭遇したことのある人間は、人の世の中でもドラゴンに挑もうと考えるほどの強者だけだろう。基本的な人間はそこのそれと大差ないものだ」

「……弱すぎねえか?」


 弱すぎるよ。でもそれが人間なんだ。この森にくる人間なんて、人間の中でも上位の強さを持った連中だけだろうし、そんな奴らと比べたらこんな木っ端貴族たちなんて虫と変わらないだろう。


 でもまあ、生きているならそれはそれでいい。死んだら問題だけど、生きてるならドラゴンに気圧されたビビりだったってだけだし。


「それで貿易の事なんだけど、大丈夫か?」


 ドラゴンの鱗の生え変わって捨てるやつとかその程度の出良いんだけど……どうだろうか?


「構わんよ。だが、こちらから出すものは我らの素材でよいとして、お前は何を出してくれるというのだ? 貿易ということは、お互いに利のある話でなければならないはずだ」


 当たり前と言えば当たり前の言葉で、取引なんだからジジイの言っていることは真っ当な内容だ。

 でも、多分ジジイなら快諾してくれるだろう。そう思っていただけに、返ってきた言葉は思っていたものとは違ったことで少し、動きを止めてしまった。


「おいおいバルフグラン。んなケチくせえこと言ってねえで、鱗だの牙だのなんてゴミ、好きにくれちまえばいいじゃねえか」

「そうねえ。どうせ捨てるものだし、我ながら無駄に頑丈だから処分するのも面倒なのよね。集めておけば持って帰って処分してくれるというのなら、それはそれで助かるんじゃないかしら?」


 ドラゴンの鱗というのは、生え変わって捨てるものだったとしてもそれなりの強度を持つ。それこそドラゴンの名前に相応しいだけの強度はある。だから加工するのも大変なのだが、言い換えれば処理するのだって大変なのだ。

 だからそれをもらうことができればいいと思っていた。実際他のドラゴン達も乗り気……というかどうでもいいと思っているみたいだ。


 でもそんななかでジジイだけ違うようで、首を振って答えた。


「ワシとしてはそれでもかまわんのだがな。だが、人の世で生き、人の世の理で動いているお前はそれでよいのか? 他者に認められるために功績を求めてここに来たというのに、身内の贔屓によってその功績を作り上げられる。本当にそれで満足だというのか?」


 それは……。


 ジジイの言っていることは間違いではない。

 一方だけが利益を享受するという関係は健全ではなく、人間とドラゴンという価値観が違う立場だとしても、何かをもらったのなら何かを返さないといけない。

 一度だけではなく今後も続けていくというのなら、絶対に守るべきルールだ。


 俺は簡単に……いや、ろくに考えていなかったけど、今回の話は俺を認めさせるためのものだ。


 ドラゴンから素材を手に入れる話を付けた、という意味では評価されるだろうけど、それは〝貿易相手〟としての話を取り付けたわけではないのだから、〝他の大陸との貿易〟についての功績を認めさせるものにはならない。


 だけど、今の俺が対価として差し出せるものなんて何がある?


 ドラゴンにとっては生え変わりの鱗なんてゴミみたいなものだとしても、それでも取引するのならそれなりの勝ちがある。その価値に見合った、ドラゴン達が求めるような何かを、俺は出すことができるのか?


「……変化を売るよ」


 必死に考えた結果、口から出てきたのはそんな言葉だった。


「ふむ。変化か……」


 思い浮かぶのは転移させられてからこれまでであって来た奴らと、その暮らし。面白い奴がいた。バカもいた。文化が違った。食事の味が違った。


 そんなこの国にいるだけでは手に入らない〝変化〟。つまり、今回の他の大陸を繋げる貿易の話にドラゴンも絡めようということだ。


 俺に出せるものなんて、それくらいしかない。それだって俺の成果、俺の手札かって言われると微妙だけど、名目上だけとはいえ俺がまとめたことになっているんだからいけるはずだ。……自信をもって自分の札を出せないことは少し悔しいけど。


 でも、これは俺の手持ちの札がこれしかないから出した話、ってわけでもない。俺自身が、そうなる未来を望んでいるからでもある。


「ドラゴンと人が共に暮らす世界を見た。人と竜が共に歩んでいく未来はあるはずだ。頻繁にじゃなくていい。年に一度でいいんだ。これから他の大陸と貿易が進むなら、きっとこの国だって変わっていく。色んな変化があるはずだ。その変化を、ドラゴンにも分かち合いたい」


 これから大陸間の関わり方は変わってくるだろう。この国の状況だって変わってくるはずだ。流れてくる文化も食も技術も、色んな変化があるだろう。

 その変化の中にドラゴンが……俺の家族たちがいたら楽しいことになると思う。


「竜と人が共に、か……。ならば、やってみるといい」


 俺の答えは合格だったのか、ジジイは先ほどまでよりも雰囲気を柔らかくして言った。


「本当にいいのか?」

「かまわぬよ。どうせ、止めたところで勝手に差し出す奴らも居よう。ならば初めから堂々と手を取り、お前の手柄とした方が合理的だと言えよう」

「そうか。……ありがとう」


 認められるかわからなかっただけに、ジジイ相手といえども緊張していた俺は、一応は話がまとまったことで大きく息を吐いた。


「して、お前はこの後どうするのだ? このまま帰っていく、などとは言うまい?」

「え。あー、それは……どうしよう?」

「話しているところ申し訳ないが、少しいいだろうか?」


 この後はどうすればいいんだろうと悩んでいると、ライラが近寄って来た。


「ライラ?」

「今後の予定だが、貿易に関する承諾は得られたので我々はここで帰還し、グランはしばらくあなた方の村に帰省するというのは。詳しい話はまた後日行うことになるかもしれないが、今はそのような話よりもグランの話の方が聞きたいのではないだろうか」

「ふ。確かにそれはその通りだな」


 ジジイがそう言うと、他のみん名も同じような考えだったのか一斉に頷いた。

 でも、いいんだろうか俺だけが残るなんて。一応今回も俺が指揮官というかこの集団のトップってことになってるんだし。

 まあでも、ライラが言い出したってことは問題ないんだろう。俺としても久しぶりに帰って来たのにこのままさようならは悲しいし。


「だがただで帰すのも悪かろう。せっかくこのような辺鄙な場所まで来たのだ。茶を飲んでいけとは言わぬが、せめてこれくらいは渡しておこう」

「竜の、鱗……よろしいのですか?」

「よい。どうせしばらくすれば生え変わるものだ。人でいうところの髪を抜いただけだが、人にとってはそれだけでも十分価値があるものだろう? グランのことは任せよ。都まで送り届けてやろう」

「それは……いえ、お心遣い感謝します」


 ドラゴンが首都まで送り届けるって、絶対に問題になる奴だろ。それくらい俺でもわかるよ。

 ライラもそのことを心配して迷ったんだろうけど、本当に大丈夫なんだろうか?


「良いのか、ライラ」

「構わない。どうせ何を言っても言うことを聞かせることなど不可能なのだし、状況自体は利用できる。ドラゴンとの繋がりを誰にでもわかりやすく見せつけることができるのだからな。それに、話すことはたくさんあるだろう?」

「ありがとう。数日で戻るよ」

「もう少し遅くともかまわない。どうせここから王都まで帰るのに数日かかるのだ。私達よりも先にグラン達が王都に着くと、それはそれで面倒なことになるぞ」

「あー、なるほど。それはそうかも」


 ここに来るまで馬車で結構時間がかかったし、流石にライラが今回の出来事を国王に伝える前に戻ると騒ぎになるか。


「そういうわけだから、ジジイ。少しだけ世話になるよ」

「世話も何も、ここはお前の家だ。好きに帰り、好きに振舞えばよい」


 あれだけ喧嘩別れみたいに村を出たのに、こうも普段通りにされると、なんて言うか反応に困る。いや、ありがたいよ? ありがたいんだけどさ……


「――よく戻った。グランディール」

「ただいま。ジジイ」


 俺はようやく故郷に戻ってくることができたのだった。


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